42.お昼ご飯①
無事に武器と専用のケースを購入したあと。
案内をしてくれた新谷さんにお礼を言ってお別れして、私たちは東京迷宮シティのレストラン街を歩いていた。
時刻はすでに13時前。
このあとは装飾品を購入しに行く予定だったけど、その前にお昼ご飯を食べることにしたのだった。
「執行さん、何か食べたいものってある?」
東京迷宮シティには、武器や防具、その他ダンジョンで使用する道具などを売っている専門店が並んでいる中心のモールの隣に、別館として飲食店ばかりが入っているレストラン街エリアもある。
そこには和食、洋食、中華から、ファストフードが軒を連ねるフードコートまで完備されていて、何でもといってもいくらいそろっていた。
お昼のピーク時間は過ぎているとはいえ、土曜日だからかレストラン街はどこも混雑している。四方八方から様々な食べ物の匂いがしていて、歩いていると余計にお腹が空いた。
左右に展開されている多種多様なお店を眺めながら、執行さんは困ったように眉をひそめていた。
「佐々貴さんは食べたいものはないんですか?」
「私?」
「はい。佐々貴さんが食べたいものがあるのでしたら、私もそれで」
「遠慮しなくていいよ? 今日は執行さんに美味しいものを食べさせてあげてって、津守さんから言われてるからさ」
「そう、ですか……」
「お寿司でも焼肉でもいいし、鰻とかでもいいよ?」
今日はお昼ご飯も経費にして良いと言われているから、遠慮はいらない。
人のお金……いや、この場合は会社のお金? で食べるものが一番美味しい。
そういえば、執行さんとご飯を一緒に食べるのはこれが初めてかもしれない。
執行さんが好きな食べ物って、なんだろう?
「そうですね……」
執行さんは悩ましそうに左右のお店を眺めていく。
そして、あるところで足を止めた。
「あ」
「執行さん?」
執行さんが立ち止まったのはレトロな喫茶店の入り口近くに並べられた食品サンプルが飾られたガラスケースの前。
その視線を辿ると……パフェだった。
お、お昼にパフェっすか……?
恐る恐る執行さんに尋ねる。
「これはお昼……ではない、かも……?」
「わ、分かってます」
「ならよかった。じゃ、ここにしよっか」
「いいんですか?」
「いいよ。でも、お昼はお昼でちゃんと食べてね?」
「……はい」
案外、子供っぽいところもあるんだ、なんて思いながら喫茶店に入る。
木を基調とした温かみを感じられる店内は、昭和レトロ感に溢れていた。全然昭和生まれじゃないけど、なんだか懐かしいと思える雰囲気だ。
ピーク時間を外れていたからか、すぐに座席に案内してもらう。
メニュー表をパラパラとめくって、私は日替わりのホットサンドとコーヒーのセットを注文することにした。
「決めた? 私はホットサンドにするけど」
「私はこのパンケーキでお願いします」
「ぱ、ぱぱ、パンケーキ!?」
あまりにも予想してなかった単語が出てきたので、挙動不審になってしまった。
「このメイプルシロップでお願いします」
「う、うん、分かったけど、パフェは?」
「それはあとでいただこうかなと……あの、図々しくてすみません……」
「いや、それはいいんだけど……」
私が心配しているのはお金ではない。
執行さんの身体だ。
それに、たしか執行さんは前に家に送っていったとき、一人暮らしをしてるって言ってたはず。
「まさかと思うけど、いっつもそんな食生活してるわけじゃないよね?」
「大丈夫です。してません」
「本当?」
「はい。今日はその……外でご飯を食べる機会はあまりないので、せっかくならと思って」
「それならいいけど」
いや、良くはない。
「普段はちゃんと野菜とか食べてる?」
「……食べてます」
「なんか間があった気がするんだけど」
「佐々貴さん、なんだか母親みたいです」
「えっ、ごめんね!?」
た、たしかに……。
しかも私は執行さんの母親じゃないし、なんなら親戚とか血縁関係があるわけでもない赤の他人だ。そんな人間に食生活について指図されるのは、めちゃくちゃうざいかもしれない……。
でも、執行さんの表情はむしろ逆で、穏やかに小さな笑みを浮かべていた。
「いえ、ありがとうございます。それに普段は本当にきちんと気を付けていますから」
「そう? だったら、いいけど……」
執行さんのことだから嘘はつかないだろう。
育ってきた家庭環境もあるし、身体が資本であるとの意識は普通の人よりも強いはず。
だから、私もこれ以上は突っ込まず。
店員さんを呼んでお昼ご飯を注文するのだった。
……ところでパンケーキってお昼ご飯なの?




