4.治癒魔法
「執行さん」
ゴブリンを倒せるかもしれない方法を思いついたので、私は執行さんを呼んだ。
「もう一回、ゴブリンを斬って倒してくれる?」
「構いませんが、たぶん同じですよ?」
「うん。それでいいよ」
はっきりと頷いた私に、執行さんも何か察してくれたらしい。
「何か、思いついたんですか?」
「私の魔法を使ってみようと思う」
「佐々貴さんの魔法……? それって、たしか」
「治癒魔法」
「……わかりました」
執行さんも、色々と聞きたいことはあるだろう。
魔物に治癒魔法をかけるなんて、正気を疑われるような作戦だ。自分でもそう思う。
でも。
試してみる価値はあると思ってくれたのだろう。
現状が変わらない以上は、何でも試してみた方が良い。
「私はいつでも行けます」
「じゃあ、よろしく」
「はい」
頷いたと同時に、執行さんがゴブリンへ駆け寄っていく。
ゴブリンの攻撃を躱し、肉薄して刀を振るう。
まずは首を落とし、続けてゴブリンの身体を袈裟斬りにした。肩から腰にかけて一閃されて、ゴブリンの身体は真っ二つになって地面に落ちる。
「佐々貴さん!」
名前を呼ばれて、私もゴブリンに接近する。
治癒魔法の効果範囲は決して広くない。人にもよると思うけど、私の場合はせいぜい1メートル、頑張って2メートルといったところだ。
執行さんの隣に立ち、私はゴブリンの頭、身体に向かって左手の手のひらを向けた。
手のひらの周りが淡い白色の光に包まれる。
そして、その光がゴブリンの頭と首も包み込んだ。
……まさか、魔物に治癒魔法を使う日が来るなんて。
治癒魔法独特の温かな優しい温度を感じながら、私は苦笑した。
もし、この状況を誰かに見られたら、頭のおかしい奴と思われるに違いない。
息を呑みながらゴブリンの様子を窺う。
これが人間であれば、段々と出血が止まったり、傷口が治ってきたりする。いや、さすがにこのゴブリンみたいに首がなくて身体が真っ二つになっていると治せないけど。
果たして魔物の場合は。特にこの変なゴブリンの場合はどんな反応が起こるのか。
一番心配しているのは、普通に治癒させてしまうこと。そして強化してしまうことだ。
執行さんも同じことを思っているのだろう。
ゴブリンを見つめる瞳は鋭く、すぐに動けるように刀の柄に手を掛けていた。
「っ!」
やがて、光に包まれていたゴブリンの身体がポロポロと崩れ始めた。
まるで火を点けられた紙が煤となって消えるみたいだ。
足先や指先の光が徐々に濃いものになり、光が身体の中心に移動していく。それに比例して、身体が解ける様に消えていった。
「佐々貴さん、これって」
「うん。でも、もう少し様子を見てみよう」
「あ、そうですね」
ゴブリンの身体が完全に消えてからも、私たちはしばし待機して様子を窺う。
5分、10分と経過しても、ゴブリンが再び現れる気配はない。
「よ、よかった……」
ようやく安堵の息を吐き出すことができた。
杞憂もたくさんあったが、無事にゴブリンを倒すことができたらしい。
「一体、何だったんでしょうか」
刀を鞘に納めながら執行さんが尋ねてくる。
だけど、私はすぐに返事ができなかった。
倒せたとは言っても、私だって分からないことばかりだった。
ちら、と背後で撮影を続けているドローンを一瞥する。
「調査が終わったら、映像を解析してもらうことになると思う。詳しいことはそれで分かるかもしれない……って感じかな」
「津守さんはご存じだったのでしょうか」
「……分かんない」
上官の顔を思い浮かべながら、私は首を横に振った。
私をこの迷宮に送り込んだということは、何も知らないはずはない。
治癒魔法で倒せる魔物が出現したと分かっていたのだろうか?
だけど、何をどこまで知っているのかは分からない。
このダンジョンの調査を終えた後、直接尋ねるしかないだろう。
兎に角、先へ進むしかない。
私たちがいるこの場所は、地下三階層のうちの地下二階なのだ。
この下に、ダンジョンの主がいたとされる最深部がある。
「行こう、執行さん。最深部はもっと大変なことになってるかも」
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