35.レベルとステータスについて
次の週の土曜日。
武器を買うために東京迷宮シティへ向かう――前に、私は執行さんの住むマンションへ向かっていた。
高層のマンションが近づいてくると、玄関の傍に立っている人影を見つける。
到着したら連絡すると言っていたんだけど、外で待っていたらしい。
車を道路の脇に停めると、執行さんが近づいてきた。
「――佐々貴さん、わざわざありがとうございます」
「いいよいいよ、ついでだからさ」
「お邪魔します」
ぺこり、と執行さんが助手席に乗ってくる。
執行さんの姿は、紺色のジャンパースカートの制服姿。
今日は津守さんの知り合いの方に案内や説明をしてもらうことになっていたから、私が迷宮保安庁の制服で行くと伝えると、執行さんも制服で行きますとのことだった。
正直言うと、ちょっと私服も見たいなぁなんて思っていた。
いや、いいんだけどね!
やましい気持ちはないし。単純に気になっただけで。
執行さんがシートベルをしたのを確認して、車を走らせる。
ここから東京迷宮シティまでは20分くらいだ。
「執行さん。身体の調子はどう?」
「最初は違和感があったんですけど、今はほとんどないです」
「そっか、良かった」
数日前の通院でも、随分と治りが早いと主治医の先生が驚いていたという話を津守さんから聞いた。
執行さんは昔から鍛錬を積んでいるから、回復も早いのかもしれない。
この調子なら、執行さんは本当に最短の二週間の休養で復帰するかも。
もう少し、ゆっくりしてもらってもいいんだけどな。
幸いにもこの10日ほどはアンデッドの報告は、一度もされていない。
「あの、佐々貴さん」
「うん?」
「ダンジョンのことで質問しても良いですか?」
「いいよー?」
「柏ダンジョンで探索者の方に会ったじゃないですか」
「あぁ、うん。久遠さんと永遠子さんね」
二人がどうしたんだろう?
探索者について、気になったことがあったのだろうか?
「勇者の人が言っていた『レベル』とか『ステータス』ってなんですか? 調べてもイマイチ理解できなくて」
「それはね、えーっと」
それらは探索者は配信者には馴染み深い言葉だけど、迷宮保安官には一切関係がない。
執行さんはダンジョン配信も全く見ないと言っていたし、探索者でも配信者でもないから、イマイチ分かりにくかったのだろう。
て言っても、私も詳しいわけではないけど……。
頭の中で少し整理をして、説明をする。
「『レベル』は探索者の強さを表したもので、1から100まである。1からスタートして魔物を倒していくと少しずつ上がっていく。『ステータス』は探索者の攻撃力とか防御力とか、MP……って分かる?」
「魔法のことですよね?」
「そう。マジックポイントの略で、魔法を使うごとに減っていく数字。『ステータス』魔物討伐に必要なそれらの数字を項目ごとに可視化したもの。基本的に『レベル』が高い人ほど『ステータス』も高くなってるよ」
執行さんは顎に手を添えて、思案をしている様子だった。
「その数字は私たちにもあるのでしょうか?」
「そのシステムを使えばね」
「システム?」
こてり、と執行さんが首をかしげる。
「これはあくまで探索者……というか配信者かな? のために開発されたもので、参考にはなるけど公式の数字ではないの。だって、実際の執行さんにレベルなんてものはないでしょ?」
「そうですね」
「だから何て言えばいいのかな……ゲームの設定を現実のダンジョンや探索者に持ち込んだシステムって言えばいいのかな」
「なるほど……では、あの勇者の人はレベルとステータスが高いと言っていたので、これまでに魔物をたくさん倒してきて、強い探索者ということですか?」
「そういうことになるね。まぁ、自称だけど」
探索者同士なら、その場でプロフィール交換をすればレベルやステータスを比較することができるらしい。
けど生憎、私たちは探索者たちのシステムを使っていないから、久遠さんや永遠子さんのレベルもステータスを知らないのだった。
保安庁で調べればすぐに分かるけど、まぁ、別にいいだろう。
「勇者っていうのはなんですか?」
「ごめん、それに関しては私も何も分からない……」
本当に何だったんだろう?
やっぱり、配信者としての設定と考えべきか。
巷では転生して勇者として活躍する作品が流行ってる、なんて薄っすらと聞いたことがあるけど、現実でいるとは思えない。
んー、まぁいいか。
きっともう会うこともないだろうし。
「あ、見えてきたよ」
ちょうど東京迷宮シティの巨大なモールが見えてきたのだった。
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