33.執行さんと休養
「――ッ!」
診察室から出てきた執行さんの姿を見て、私は息を呑む。
せ、せせせ制服だ!
白色のワイシャツに紺色のジャンパースカート、赤色のリボンといった制服は、どこか大正ロマンを感じさせる。凛としていて清楚な印象の強い執行さんにとても似合っていた。
ていうか、疑っていたわけではないけど、本当に高校生だったんだ……。
「あ、制服」
しまった。
つい、ポロっと口から零れてしまった。
その声は執行さんに届いてしまったらしい。
「ボロボロになってしまったので……」
「あっ、そうだよね」
ミノタウロスアンデッド、そしてミノタウロスとの戦いで執行さんが来ていたダンジョン用の衣服は破けてしまっていた。
あの姿のままで出歩くわけにはいかない。
着替えるのは当然だった。
今日の執行さんは午前中に学校に行っており、午後から柏ダンジョンに来てもらった。だから持っていた服が制服だったのだろう。
「津守さん、いただいた服だったのに申し訳ありません」
「いやいや、気にしなくていいよ。スマホを投げて壊した人もいるからね」
「うっ」
まさか、ここで刺されるとは。
完全に予想外だった。
いや、悪いのは私なんだけど……。
にこりと微笑んで告げた津守さんに、執行さんは僅かに焦った様子で口を開く。
「津守さん、佐々貴さんは私を助けるためにスマホを投げたのでわざとでは……」
「分かっているよ、冗談だ。もちろん、執行君の服のことも気にしなくていい」
「そう、でしたか……良かったです」
執行さんの表情がほっとしたものに変わる。
やっぱり津守さんの冗談は嘘か本当か分からない……。
執行さんも私と同じように翻弄されているらしい。
「それで執行君。検査の結果はどうだった?」
「外傷は大したことはありません。ですが、筋肉や関節などに思っていたよりも負荷がかかっていたようで、しばらくは安静にしておくようにと言われました」
「今回は随分と無理をさせてしまったね。申し訳ない」
「いえ、謝らないでください。普通に過ごすのに影響はありませんから」
「そうか……それなら、良かったのかな」
「はい」
「って、ずっと立たせたままでごめんね。今後について話があるから、座ってもらえるかい?」
「分かりました。失礼します」
頷いた執行さんが、津守さんの隣に座る。
「では、今後についてだけど。執行君は主治医の先生の指示に従って、しばらくはゆっくりと休養してもらう」
「え……」
驚いたように、執行さんが目を少し開く。
「しばらくって、どのくらいでしょうか」
「んー、そうだね。少なくとも二週間は休養してもらう」
「に、二週間もですか」
「そのあとは経過を観察しながら、主治医の先生と相談して決める感じかな」
私も賛成だった。
柏ダンジョンでのダメージはもちろんのこと、魔法の使用による負荷や負担もかかっているはずだ。特に執行さんは、渋谷ダンジョンが初めてのダンジョンだと言っていた。これまでに使っていない魔法を使って、疲れも出てくる頃だろう。
一度、本格的に休養をして、身体を整えたほうがいい。
執行さんの将来を考えても、無理をする意味はない。
その執行さんは、私をちらっと一瞥して、津守さんに質問した。
「あの、佐々貴さんは?」
「佐々貴君? 佐々貴君も数日は安静するように言われたそうだから、ダンジョンには行かないよ。まぁ、数日経ったあとは各ダンジョンからの報告次第ってところかな」
「だったら私も大丈夫なので」
「そうもいかないよ」
苦笑しながら、津守さんが首を横に振る。
「気持ちは嬉しいけど、無理はいけない。まずは身体をしっかり治すことが執行君の仕事だね」
「……はい。すみません」
津守さんに諭されて、執行さんは肩を落として引き下がった。
その姿は母親か先生に諭されたみたいで、なんだか微笑ましい。大人びているように見えても、やっぱり高校生なんだなと思わされる。
それにしても、執行さんは責任感が強い子だなぁ。
無理をしてまで私に併せて復帰しようと申し出るなんて。
何がそこまでさせるんだろうか? 案外、ダンジョンが気に入ったとか?
一人暮らしをしているとか、実家が剣術の家元だとか。そういう環境も影響しているのかもしれない。
なんて思っていると、津守さんがこちらに顔を向けた。
「そうだ、佐々貴君」
「はい?」
「さっき武器を買いに行くと言っていたけど、執行君も一緒に行くのはどうかな?」
「執行さんとですか!?」
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