3.倒せないゴブリン
「佐々貴さん、下がってください」
眉をひそめて逡巡する私の前に、執行さんが立った。
何故か再び動き出したゴブリンを警戒するように睨みつけながら刀を構える。
「よく分かりませんが、とりあえずもう一度斬ります」
「う、うん。気を付けて」
「はい」
どうして倒したはずのゴブリンが生きているのか。
魔物とは言え、どうしてこの姿で動けているのか。
本当に、私の知っているゴブリンなのか。
分からないことは多いが、実際問題として、目の前でゴブリンは生きている。
そして、私たちを狙っている。
ならば倒すしかないだろう。
「――っ」
執行さんが駆け出し、素早くゴブリンの傍に移動する。
そして、二度三度と目にも止まらない速さで刀を振るった。
再びゴブリンの首が地面に落ち、身体中に切り傷を負った身体が崩れ落ちる。
それから、ピクリとも動かなくなった。
強さ自体は、普通のゴブリンと同じくらいなのかもしれない。
だけど油断は禁物。
この状態から動き出したのだから。
「佐々貴さん」
「うん。ちょっと待って、様子を見ようか」
少し離れたところから、執行さんと二人でゴブリンの死体を見つめる。
一分、二分と時間が経過して、三分を過ぎた時だった。
「――っ!?」
ゴブリンの腕が小刻みに震えたかと思うと、首のない身体がゆっくりと起き上がった。
転がっている首を拾い上げる。
そのまま胴体に勢いよく接合した。べちゃり、ゴリゴリと嫌な音が聞こえて首をくっ付けると、ゴブリンが私たちに顔を向けた。
「佐々貴さん、どうしますか」
「ど、どうしよう……」
どうしますか、なんて聞かれても困ってしまう。
だって、私だって初めての経験なのだ。
幸いにも、ゴブリンの強さは大したことはない。
執行さんがいる限りは負けることはないだろう。
だけど、どうすれば倒せるのか見当がつかない。
もしかしたら、何度も何度も倒せば、いずれは倒せるのかもしれない。再び動き出せないくらい細切れにすれば倒せるのかもしれない。
だけど、確定情報じゃないし、何より効率も悪い。
仮にこの先にも同じような特殊な能力を持った魔物がいた場合、執行さんの負担が大きすぎる。
だったら、私ではなくて、執行さんのようにシンプルに対魔物先頭に優れた強い魔法を使える迷宮保安庁の人間や、探索者を雇えばよかったのだ。
そうだ。そもそも、どうして私なんだろう?
どうして津守さんは、私にこの迷宮の調査を命じたのだろうか。
ただダンジョンの様子を見るだけ、魔物を倒すだけなら私である必要はなかったはずだ。
津守さんのことだ。
理由もなく、ダンジョン探索向きではない私を調査に向かわせるはずがない。
きっと、私でなければいけない理由があるのだろう。
正確に言うと、私と執行さんの二人である理由が。
「佐々貴さん。とりあえず、もう一度倒しますよ?」
執行さんの言葉で、はっと我に返る。
ゾンビのようなゴブリンが、段々と近づいてきていた。
私がこくりと頷くと、執行さんが改めてゴブリンに接近していく。そして刀を振るい、ゴブリンは地面に崩れ落ちた。
「強くはありませんが、このままではキリがありませんね」
執行さんの言う通りだ。
これで倒せたとは思えない。また立ち上がってくるだろう。
それこそ、本当にゾンビみたいだ。
私も、何か手伝えることがあるといいんだけど……。
と、不意にダンジョンを訪れる前に、津守さんに言われた言葉を思い出した。
執行さんを紹介されたときに言っていた言葉だ。
『――こちら、君のサポートをしてくれる執行七瀬さんだ。彼女は優秀だから、きっと役に立つだろう。仲良くしてあげてくれ』
……今でも引っかかっている。
津守さんは執行さんのことを「私のサポートをしてくれる」と言っていた。
だけど、一般的に考えれば、サポートを行うのは治癒魔法を使う私の方だろう。私が執行さんのサポートをするのだ。
だが。
津守さんは「執行さんが私のサポートをする」と言っていた。
言い間違いをしたとは思えない。
津守さんの言葉を、本当に言葉通り受け取るとすれば。
執行さんの攻撃はあくまでもサポート?
つまり、私にも何かをしろということなのだろう。
だけど、そんなことを言われても私に戦う術はない。
私に使えるのは治癒魔法だけだ。
「……まさか、ね?」
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマークや下の評価(☆)をつけていただけると嬉しいです。




