28.急襲
「わっ――!?」
執行さんに唐突に突き飛ばされて、私はバランスを崩してよろめいた。
おっとっと……とたたらを踏みながらも、なんとか転ばずに済んだ。
だけど、一体なに!?
そう思いながら顔を上げて、私は目を見開いた。
何故なら――。
「は!? ミノタウロス!?」
目の前に、牛の頭に人間の身体をした、全長4~5メートルほどの巨大な魔物が出現していた。巨大な斧も持っており、間違いなくミノタウロスだった。
私の頭の中は大混乱になる。
なんで!?
今さっき倒したばかりじゃないか。
しかも、頭も腕も尻尾も元通りになっている。
無傷な状態のミノタウロスだった。
おかしい。確実に真っ黒な核にも治癒魔法を使用して消滅させたはずだ。復活するはずがない。いくらアンデッドだとしても、核を消滅させられて復活するとは思えなかった。
それに、目の前に出現したミノタウロスは、先ほどまで戦っていたミノタウロスアンデッドと比較すると違和感を覚えた。
なんか、普通というか、アンデッドっぽくないというか……。
と考えて、私ははっとした。
逆だ。
目の前のミノタウロスは、違和感があるんじゃない。違和感がないのだ。
つまり普通のミノタウロスだった。
同時に、ミノタウロスが突然出現した絡繰りにも予想が付いた。
この柏ダンジョンは循環型のダンジョンだ。
何が循環するかといえば、主の魔物。
塗りの魔物――つまりはミノタウロスを倒したとしても、この柏ダンジョンでは一定の期間が経つと復活するのだ。
おそらくだけど、その復活するタイミングと重なってしまったのだろう。
偶然にしては出来過ぎていて、あまりに不運だった。
だけど私たちの都合は、柏ダンジョンにもミノタウロスにも関係ない。
普通のミノタウロスは私たちの調査対象でも討伐対象でもないから、逃げてもいい。でも、あまりにも距離が近すぎる。見逃してくれるはずもない。
私を守るために突き飛ばしたから、執行さんはミノタウロスのすぐ傍にいる。
その執行さんを目掛けて、ミノタウロスが巨大な斧を振り下ろした。
「執行さん!」
「――くっ」
執行さんが真正面から攻撃を受け止める。
ど、どうしよう!?
いや、どうしようじゃない。助けないと。
いくら執行さんが強くても、このままミノタウロスと力比べをしては分が悪いのは分かり切っていた。
でも、助けるってどうやって……。
普通のミノタウロスに治癒魔法は効果がない。
むしろ強化してしまう可能性すらあるから、治癒魔法の使用は論外だ。
何か武器になりそうなものは!?
例えば、岩とか鉄パイプとか、固い物なら何でもいい。
何か、何か……何でもいい。
役に立ちそうなものはないかと、私は焦りながらも自分の服をぺたぺたと上から触っていく。何がないか……。
と、そのとき。コツン、と指先に固いものが触れた。
「あ!」
手に触ったのは保安庁から支給されている仕事用のスマートフォンだった。
ドローンの操作をしたり、ダンジョン内の地図や魔物などの情報を見たりする代物。さらにダンジョン内からでも電波が地上に通じる優れモノだ。
仰向けになって動画を見ているときに誤って顔面にスマホを落としてしまい、鼻が骨折した……なんて人を聞いたことがある。
てことは、ほぼ石! 武器になる!
支給品だから金額は知らないけど、たぶん高い。
……でも!
そんなことは言ってられない。
私は端末を右手に掴んで、ミノタウロスを目掛けて思いっきり投げつけた。
「――っしょぉ!」
放たれたスマホは、狙い通り真っすぐに飛んでいった。
そして、ミノタウロスの顔面に「ガツン!」とクリーンヒットする。流石のミノタウロスにも効いたらしく、唸り声を上げながら怯んだ。
「執行さん! 今のうちに!」
「はいっ」
執行さんが一気に肉薄する。
その気配に気付いたのか、ミノタウロスが乱暴に斧を振り回したが、執行さんは攻撃を冷静に回避して、踏み込んだ。
「――ッ!」
執行さんが左から右へ、真一文字に一閃する。
僅かに時間を空けて、ミノタウロスの首が刎ね飛んだ。
そして、どうやら執行さんの一撃はミノタウロスの核も破壊していたらしい。首が飛ぶと当時にミノタウロスの身体も闇に溶けるように霧散して消え去った。
「執行さん! 大丈夫!?」
私は大慌てで執行さんの元へと駆け寄った。
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