27.ミノタウロスアンデッド⑤
執行さんによって、刎ね飛ばされたミノタウロスアンデッドの首が地面にぼとり、と落下した。
普通の魔物ならこれで終わりだ。
だけど。
やっぱり、ミノタウロスアンデッドは首がなくなったくらいでは止まらないらしい。
首がない胴体のままで、執行さんに反撃をしようと動き出していた。着地したばかりの執行さんを目掛けて一歩踏み出していく。
さっきは首を刎ねても動くとは予想していなかったし、空中にいたこともあってか執行さんは攻撃を喰らってしまった。でも、分かっていれば同じ間違いをする執行さんではない。
それに、反撃をしようにもミノタウロスアンデッドの両腕はすでに執行さんによって切断されている。
ということは。
攻撃の選択肢は絞られてくる。
「執行さん、尻尾来るよ!」
「はいっ」
しかも、尻尾も私が治癒魔法で先っぽを消し飛ばしている。
リーチが短く、威力も弱くなっていた。
執行さんは完全に攻撃を見切っていて、冷静に尻尾攻撃へ対応する。
一度、二度と攻撃をかわすと、今度は反対に執行さんが踏み込んだ。
迫る尻尾に刀を振り下ろす。
真っ二つに斬られて、ミノタウロスアンデッドは距離を取るためか少し後退した。
執行さんに尻尾まで斬られたミノタウロスアンデッドの姿は、本当に痛々しいものになっている。生きる屍、ゾンビ。アンデッドという言葉がぴったりと当てはまるような姿になっていた。
それでも、ミノタウロスアンデッドは倒れない。
右足を大きく踏み出して、執行さんを踏みつぶそうとする。
執行さんは横に逸れて攻撃を躱したけど、元々いた場所には、くっきりと足跡が付いて地面がへこんでいた。
大きな身体というのは、それだけで武器になる。
斧や腕、尻尾がなくてもまだまだ油断はできそうになかった。
距離を取った執行さんを追いかけるように、ミノタウロスアンデッドが右足、左足と続けて踏み出していく。まるで地団太を踏んでいるように繰り出される踏みつけ攻撃を執行さんは冷静に躱していた。
でも、簡単に接近もできないみたい。
距離を取って、反撃の機会を伺っているように見える。
そして、いつの間にやら、執行さんはミノタウロスアンデッドの背後に回り込んでいた。
左足に肉薄すると、踵の少し上付近を左から右へと一閃。
おそらく、腱を狙ったのだろう。ミノタウロスアンデッドがバランスを崩した隙に、執行さんは右足にも刀を振るった。
執行さんの攻撃で、自分の巨躯を支えられなくなったミノタウロスアンデッドは、力を失ったように前向きに倒れていった。
大きな音と砂煙を上げながらうつ伏せで横たわる。
そのままピクリとも動かなくなった。
「佐々貴さん、お願いします」
「分かった!」
急いで駆けつけて、執行さんの隣に並ぶ。
「これは、なかなか……」
近くで見ると、改めてミノタウロスアンデッドの身体の大きさに圧倒される。
単純な大きさもそうだけど、何よりも筋肉質な身体の厚みがすごい。
これは骨が折れると言うか、治癒魔法でトドメを刺すのも時間がかかりそうだ。
足を肩幅に開いて、両手を前に突き出す。
私の両手が白く淡い光に包まれると、ほぼ同時にミノタウロスアンデッドの身体も白い光に包み込まれた。
押し込むイメージで、治癒魔法を流し込んでいく。
徐々にではあるけど、ミノタウロスアンデッドの足先から光の濃度が濃くなって、ポロポロと崩れ始めた。
半分ほどが消えることには、私は顔にびっしょりと汗をかいていた。
だって、こんなに高い濃度、出力で治癒魔法を使うことなんてない。
5メートルもある人がいて堪るか。
「あ、あと少し……っ」
汗を垂れ流しながら作業を続ける。
これ、絶対お化粧全部落ちるわ……。いや、この際どうでもいいけど……。
やがてミノタウロスアンデッドの胸の真ん中あたりに真っ黒い核が現れた。
渋谷ダンジョンでキングゴブリンアンデッドを倒した時に見たものと似ている。正直言うと、真っ黒だから同じものに見えた。
アンデッドはこの黒い核を持っているのだろう。
首を刎ねられても動けたり、身体をバラバラにされても動けたりするのは、この核の力なのかもしれない。
さらに力を込めると、黒い核も治癒魔法の白い光に包み込まれて消滅した。
服の袖で汗を拭いながら、辺りを見る。
執行さんが切断したミノタウロスアンデッドの頭や腕、尻尾なども綺麗さっぱり消えていた。
どうやら、黒い核を消滅させれば、他の部位も一緒に消えるらしい。
とりあえず、ミノタウロスアンデッドの討伐は無事に終了。
よかった。
一時はどうなることかと思ったけど、これで帰れる。
執行さんは念のため、保安庁医療施設でメディカルチェックをしたほうがいいかもしれない。
なんて思いながら振り返ると、
「執行さん、お疲れさ――」
「佐々貴さん!」
「わっ!?」
執行さんによって私の身体は強く突き飛ばされたのだった。
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