25.ミノタウロスアンデッド③
荒い鼻息を上げながら私を見下ろしているミノタウロスアンデッド。
その巨体と対峙して、私は歯噛みした。
「くっ……」
どうする!?
どうすればいい!?
砂煙が上がっているから、反対側の壁に吹き飛ばされた執行さんの姿はまだ見えない。
少なくとも、まともに動ける状態ではないだろう。ミノタウロスアンデッドの拳をまともに喰らっていたのだ。それも不意打ちのような形で。いくら執行さんと言えども、無傷なはずがない。
……いや、執行さんのことも心配だけど、今は自分のことだ。
私一人でミノタウロスアンデッドと戦わなくてはならないのだから。
戦うと言っても、倒す必要はない。
というか、この状況では倒すのは困難だ。それに執行さんのことが最優先。
執行さんを連れて、一旦ダンジョンから帰ろう。
ミノタウロスアンデッドの討伐や調査は、明日以降でもできるのだから。
「…………よし」
方針を決めると同時に覚悟も決める。
一つ、希望があるとすれば。
相手が普通のミノタウロスではなく、ミノタウロスアンデッドである点だ。
ただのミノタウロスだったら私では何もできなかったけど、ミノタウロスアンデッドなら治癒魔法が有効。私でも、隙を作るくらいなら可能なはずだ。
興奮した様子のミノタウロスアンデッドが雄叫びを上げる。
巨大な斧を素振りでもするかのように何度か振り回して、私に向かって足を踏み出してきた。徐々に加速をして、こちらに迫ってくる。
私は距離を取るように走り出す。
だけど、すぐに壁に辿り着いてしまった。
私を追い詰めたと思っているのか、勝ち誇ったようにミノタウロスアンデッドが再び雄叫びを上げる。
……でも、これでいい。
これが狙いだ。
ミノタウロスアンデッドが手にしていた斧を大きく振りかぶった。
上から振り下ろそうとする瞬間に、私はミノタウロスアンデッドに向かって思いっきり駆け出した。
あれだけ振りかぶった攻撃なら、途中で止めることはできないはず。
狙いを変えようにも、腕を伸ばし切っているから、特に自分の身体の近くは対応できないと思う。
予想通り、ミノタウロスアンデッドの攻撃は、巨大な衝撃音を轟かせながら私の背後――壁に衝突したようだった。
その間に、私はスピードを緩めずミノタウロスアンデッドへ向かって走る。
いつでも治癒魔法を使用できるよう、両手に準備をしていると。
「――だと思った!」
もうすぐ股下に辿り着く、といったところでミノタウロスアンデッドの尻尾が横から迫ってきた。
その尻尾に全力の治癒魔法をぶつける。
尻尾の先が治癒魔法の光に触れた途端、弾けた様に消し飛んだ。
執行さんにいくら斬られても平然としていたミノタウロスアンデッドが悶えたような鳴き声を漏らす。
もしかすると、治癒魔法だと痛みを感じるのかもしれない。
そんなことを思いながら、私はミノタウロスアンデッドの股下を潜り抜ける。
その瞬間、右足に高濃度の回復魔法をぶつけた。
これで多少でも時間稼ぎになったらいいんだけど……。
振り返ってミノタウロスアンデッドの様子を見る。
治癒魔法がちゃんと効いてくれたみたいで、右足の膝をついて体勢を崩していた。
良かった。
これなら、執行さんと合流するくらいの時間はあるだろう。
反対側の壁へと急ぎ向かい、執行さんの元へ向かう。
壁際の砂煙は少しずつなくなっていた。
岩壁の一部がへこんで、ひび割れをおこしている。きっと、ミノタウロスアンデッドに飛ばされた執行さんがぶつかったのだろう。どれだけの威力だったのかが見て取れる。
執行さんは無事だろうか……。
「執行さん? 執行さん!」
名前を呼びながら壁際にやってくる。
執行さんは、ひび割れた岩壁の真下にいた。
壁に背中をもたれさせて、ぐったりと項垂れるようにしていた。
「執行さんっ!」
大慌てで駆け寄って、執行さんの肩を抱き寄せる。
すぐに治癒魔法で治癒を始めると、執行さんがゆっくりと目を開けた。
「さ、佐々貴さん……?」
「大丈夫!?」
「……は、はい。けほっけほっ……、あ、すみませ……」
「いいよいいよ、無理に喋らなくても」
意識があることや会話ができる状態であることは安心したけど、しゃべるだけの力も入らないのかもしれない。
「いえ、本当に思っていたよりも、大丈夫なんです……」
「ほ、ほんと?」
そうは見えなかった。
体中が擦り傷や切り傷だらけだし、出血や土、砂ぼこりで汚れている。服もところどころが破けている。
とてもじゃないけど、大丈夫だとは思えなかった。
「……津守さんに、ダンジョンでの受け身を教わっていたおかげだと思います」
ダンジョン内には不思議な力が満ちており、そのおかげで私たちは魔法を使うことができる。私なら治癒魔法、執行さんならおそらく斬撃系の魔法といった感じだ。
その力を防御に回すことで一時的に守りを固めて、そのおかげで致命傷は避けられたのかもしれない。
「佐々貴さん、ミノタウロスアンデッドは……」
「なんとか足止めしてるところだから、今のうちに逃げよう」
本人が大丈夫だと言っていても、私が治癒魔法で応急手当をしたとしても。
傷や怪我を負っているのは変わらない。何よりも全身を強く打っているのだ。
逃げるのは恥かもしれないけど、役に立つ。
私はそう提案した。
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