23.ミノタウロスアンデッド①
ミノタウロスアンデッドは、主の広間の中央を陣取って仁王立ちしていた。
ピクリとも動かずに待ち構えているのは、アンデッドだからこそなのかもしれない。
「中にいるのはミノタウロスアンデッドだけなんですね」
「そうみたい」
ここから見える範囲には、他の魔物は見当たらない。
歴史を感じる石畳や石壁が広がっているだけだ。
「そこはミノタウロスと同じってことかな」
ダンジョンの主の間で待ち受けている魔物は、2つのタイプに分けられる。
一つは渋谷や八王子のダンジョンのタイプ。
渋谷ダンジョンの主の間はキングゴブリンとゴブリンがたくさん。
八王子ダンジョンの主の間はキングリザードマンとリザードマンがたくさん。
といった感じで、主とそれに従う魔物が数体で構成されているパターン。
もう一つは、今回の柏ダンジョンのように主の魔物が一体だけ待ち受けているパターンだ。
一見すると後者の方が楽に見える。
だけどそれは間違いだ。
だって、このダンジョンは国際規格のDⅢ。一方で渋谷や八王子ダンジョンに国際規格はない。それはつまり、キングリザードマンとリザードマンが束になったとしてもミノタウロス一体の足元にも及ばないということなのだから。
実際、高難度のダンジョンほど、主の広間には主一体だけであることが多い。
それがアンデッドのいるダンジョンにも適応されるのかは少し心配だった。
ミノタウロスが一体だけでも大変なのに、アンデッド魔物が他にもいたら難易度が爆上がりだ。安全を最優先に帰還も選択肢にあったくらいだ。
でも、その心配は杞憂だったみたい。
渋谷ダンジョンでのキングゴブリンもそうだったけど、アンデッドが出現したとしても主の広間の構成は元のダンジョンと同じなのだろう。
……ま、まぁ、ミノタウロスの場合は一体でも強いから安心は全くできないけど。
執行さんと情報を共有して、しっかり作戦を立てておこう。
「執行さん、ミノタウロスについては調べたんだよね?」
「少しだけですが」
「じゃあ、注意するポイントも分かる?」
「真正面で攻撃を受けない、ということくらいは」
「正解。このミノタウロスアンデッドは普通のミノタウロスよりも大きいから、リーチも長いし力もあると思う」
柏ダンジョンが人気になっていることもあって、探索者のなかでは「ミノタウロスを倒す=初心者の卒業」という認識が広まっている。
ということもあって、ミノタウロスは今でも目にする機会が多い魔物の一つだ。
逆に言えば、それだけ情報もあるということ。
私は映像や資料などを思い出しながら、執行さんに伝えていく。
「それから、頭に入れておいて欲しいのは尻尾。ミノタウロスは尻尾でも攻撃してくるから気を付けて」
「はい」
「あとはアンデッドだから何をしてくるか分からない。普通じゃ考えられないような無理な動きをしてくる可能性もある」
生体反応がない……つまり死んでいる状態だから、痛覚や精神も普通の魔物とは違うはずだ。そうでなければ、刎ね飛ばされた首や腕などをくっ付けて治すなんてできない。
普通の生物では有り得ない、物理法則を無視した動きも可能だろう。
「分かりました。では、佐々貴さんはこちらにいてください」
「いやいや、私も行くよ」
いくら執行さんが強いとは言っても、一人に任せるわけにはいかない。
直接的な戦闘では役に立てないかもしれないけど、多少のサポートはできるだろう。
それに執行さんが倒した後、すぐに治癒魔法でトドメを刺せるようにしておきたい。
「まず私が出て行ってミノタウロスアンデッドの注意を引くから、その隙に攻撃してくれる?」
「それは、佐々貴さんが危険では」
「執行さんが真正面から戦う方が危ないよ。できるだけ確実で、お互いに安全な方法をとろう」
「……分かりました」
執行さんが頷いてくれて、私は改めて主の広間に視線を戻した。
相変わらず、ミノタウロスアンデッドは巨大な斧を手にして、広間の中央に仁王立ちしている。
「それじゃあ、私は右側に向かって走っていくから。執行さんはタイミングを見て、左側から攻撃してくれる?」
「はい」
軽いストレッチをしながら、広間を観察する。
穴が空いていたり、ひび割れしていたり、段差ができていたり、走路で気を付けておくべきところを事前にチェックしておく。
ふぅ……と息を吐き出して、私は主の広間に飛び出した。
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