2.ゴブリン
暗闇から姿を見せたのは、ゴブリンと呼ばれる小柄な人型の魔物だった。
濃い緑色の肌と鋭い眼光が特徴的で、木の棍棒を持っている。
難易度の低いダンジョンによく出現する魔物だ。
だけど、すでに攻略済みの、このダンジョンで魔物は生まれないはず。
もしかすると、ずっと隠れて生き延びていたのだろうか?
「でも、ちょっと違うような……?」
これまで、ゴブリンは自分の目でもたくさん見てきた。仕事柄、映像や資料もたくさん確認してきた。
だけど、目の前にいるゴブリンは、そのどれとも違う感じがした。
どこか違和感が拭えない。
その正体を探っていると、横にいる執行さんが動き出した。
「斬ります」
「あっ」
私が言葉をかけるよりも先に、執行さんが駆け出す。
一気にゴブリンに接近して、一切の躊躇いなく首を目掛けて刀を振り抜いた。
狙いすました一撃でゴブリンは首を刎ね飛ばされ、紫色の血が吹き出す。そして、残った身体も力を失って地面に崩れ落ちた。
「やっぱり、普通のゴブリンだったのかな?」
感じた違和感は気のせいだったのだろうか。
今の時代、武器の進歩や知識が周知されたこともあって、ゴブリンは初心者の探索者たちでも倒せる魔物になった。
このゴブリンは少し違うように思ったけど、執行さんによって簡単に倒された。ということは、普通のゴブリンだったのだろう。
……それよりも執行さんだ。
執行さんに目を向ける。
刀に付着した血を振り払って、こちらに戻ってくるところだった。
ゴブリンはたしかに初心者でも倒せる魔物だ。
だけど、迷宮保安庁に勤める私の目は誤魔化されない。
執行さんの動きや速度、攻撃の威力などは、一度見れば別格だとすぐに分かる。難易度の高いダンジョンに挑んでいる探索者や配信者を見る機会もあったが、執行さんは彼らに引けを取らない洗練された動きだった。
津守さんが選んだ人材なので、それなりに強いとは思っていたけど、一体何者なんだろう?
「執行さん、すごいんだね」
「いえ、このくらいは……」
謙遜するように言って、執行さんはゴブリンの亡骸に視線を送る。
「ここは攻略済みなんですよね? どうしてゴブリンがいたのでしょうか」
「分からない」
執行さんの問いかけに首を振る。
「でも、撮影はちゃんとできてるから、あとで解析してもらおう」
「そうですね」
「他にも生き残っている魔物がいるかもしれないから、最深部まで行ってみようか」
「はい」
このダンジョンは地下3階層で構成されている。
二階層でゴブリンが現れたということは、奥に進んでいけば、他にも魔物が生きている可能性は否定できなかった。
津守さんの見立ては的中していたらしい。
てっきり私は犬や猫が迷い込んだのかと思っていたけど、まさか十数年前に攻略されたダンジョンで魔物が生き残っていたなんて。
このダンジョンの主がいたとされる最深部はどうなっているのか。
確かめるべく、私たちは再び歩き始める。
――そのときだった。
「――っ!?」
どこからが低い唸り声が聞こえてきた。
まるで地獄から這い上がって来たような恐ろしい声。
「佐々貴さん!」
執行さんの声で振り返る。
視線の先に立っていたのはゴブリンだった。
唸り声を上げながら、よたよたと前に倒れそうになりながら歩み寄ってくる。
もう一体、どこかに隠れていたのだろうか?
だけど、それ以上に気になるのはゴブリンの様子がおかしいこと。
改めてゴブリンの姿を見て、違和感の正体に気付く。そして、私はぎょっとした。
「ど、どういうこと……?」
目の前にいるゴブリンは、頭が上下逆さまになっていた。顎が上で、頭頂部が下の状態。
まるで騙し絵みたいで痛々しい姿だ。
こんな見た目のゴブリンが普通にいるとは思えない。
このゴブリンは、先ほど執行さんが倒したゴブリンだろう。
おそらく、執行さんが刎ね飛ばした首を、小さな子供が工作するみたいに無理矢理くっ付けたのだ。
だけど、そもそもゴブリンは執行さんが確実に倒したはずだ。どうして未だに生きていて、動いているのだろう。いくら魔物と言っても、あり得ない。
私は目の前で起こった出来事に混乱して、信じられなかった。
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