19.連絡先交換
八王子ダンジョンの調査から数日後。
次に私が訪れたのは、千葉県柏市にある柏ダンジョンだった。
「というわけで連絡先を教えてほしいんだけど、いいかな?」
「え、はい。構いませんけど……」
管理事務所に入って執行さんを見つけた瞬間、私が連絡先を聞いたものだから、執行さんはちょっと困惑気味だった。
気持ちはわかる。
私が執行さんと同じ立場でも困惑する。
挨拶もなしに連絡先を聞かれるなんて思わないだろう。
私だって、交換のタイミングは色々と考えた。
でもダンジョンの調査中にお互いにスマホを出して交換するわけにもいかないし、調査が終わってからだと忘れそうだ。
ということで、会ったらすぐに交換しようと決めていたのだった。
執行さんがスマホを取り出したので、メッセージアプリを起動させる。
あとはアプリ内のフレンドコードを交換すればオッケーだ。
……ん、待てよ?
最近の高校生って、このアプリしてるの?
ちょっと引っかかって、フレンドコードを表示させようと操作していた指を止める。
私にとって、連絡先と言えば、この緑色のアイコンのアプリだ。
でも、前に見たテレビで、若い子たちはもうこのアプリでは連絡を取っていないと言っていた気がする。
だとしたら、流行に乗れていない古い人間だと思われるかもしれない。
ま、まぁ、執行さんに限って馬鹿にしたりはしないと思うけど……。
恐る恐る、私は震える手で画面を見せた。
「あの……このメッセージアプリってやってる?」
「はい、やってます」
「ほんと? じゃあコード交換しよう」
よ、良かった!
心底ほっとして操作を再開する。
と、今度は執行さんが「あの」と尋ねてきた。
「連絡先の交換って、どうすればいいんでしょうか」
「…………」
やっぱり普段は使っていないアプリなのかもしれない。
交換の仕方も分からないくらい馴染みはないけど、私に合わせてくれたのだろう。
「佐々貴さん?」
「あ、えっとね。ここを押してもらっていい? そしたら、その画面を私が読み込むから」
「こうですか?」
「そ。あ、できたよ」
「ありがとうございます。すみません、あまり慣れていなくて」
「大丈夫大丈夫。私もそこまで分かってるわけじゃないからさ」
執行さんに気を遣わせないため、にこっと微笑んでみせる。
でも心は泣いていた。
だって、まあまあ分かってるから。ていうか、このアプリしか知らない。
少しばかり心に傷を負いながらも無事に連絡先を交換できたので、そろそろ本題に入らないと。
今回は、柏ダンジョンにおかしな魔物が出ると報告があって、私たちはやって来たのだ。
管理事務所の担当の方と少しお話をして、私と執行さんは事務所を出発した。
「このダンジョンは魔物が出るんですよね?」
「うん。だから、今日は執行さんに今まで以上に頼ることになると思う」
柏ダンジョンは今も探索者たちが訪れる現役のダンジョンだ。
だから、これまでに訪れた渋谷ダンジョン、八王子ダンジョンと違って、普通にダンジョン内には魔物が出る。
一番の特徴は、最深部にいる主の魔物を倒しても一定の期間で復活することだろう。そのため、このパターンのダンジョンは循環型ダンジョンと呼ばれていた。
国際規格でDⅢを与えられているこの柏ダンジョンは、探索者たちにとっては初心者から中級者になるための試験的な場所になっていた。
もちろん、復活と言ってもちゃんと生体反応のある普通の魔物が復活していた。
……これまでは。
今回は普通ではない、それこそアンデッドのような魔物が出てしまったのだろう。
「前回はお役に立てませんでしたから、今日はがんばります」
「気にしなくていいのに。無茶はしないでね?」
「はい」
柏ダンジョンは週末になるとたくさんの探索者で賑わう人気のあるダンジョンの一つ。
今日は調査のために一般探索者の出入りは禁止となっていた。
以前、何回か訪れたことがあるけど、こんなに静かな柏ダンジョンは初めてだ。
まるで休園日の遊園地みたい。
そんなことを思いながら、撮影の準備をして、私たちは柏ダンジョンに足を踏み入れるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマークや評価(☆)を付けていただけると嬉しいです。




