18.帰り道
八王子ダンジョンからの帰り道。
土曜日ということもあって道は少し混んでいたけど、車は比較的順調に進んでいた。
赤信号で止まったタイミングで、バックミラーを見る。
後部座席に座っている執行さんは、ぼんやりと景色を見ているみたいだった。
「今日は早めに終わってラッキーだったね」
「はい。ですが、今日は私は必要なかったなと……」
「そんなことないよ。いてくれて助かったよ」
「そうでしょうか」
執行さん的には、アンデッドがいなかったから何もしていないし、それなのに早く帰れるということに申し訳なさがあるのかもしれない。
真面目な性格なのだろう。
それにアンデッドに関しては不明な点が多い。
出現についても分からないことばかりなのだから、今回のように調査に行っても「空振り」することだって、今後もあると思う。
だから、あんまり気にしなくていいんだけどな……。
「執行さんが一緒にいてくれるから調査ができるわけだからね。執行さんと一緒だと、私も心強いよ?」
「だったら、良いのですが……」
浮かない表情すらも絵になる執行さん。
だけど、できることなら表情は晴れさせたい。
「だから気にしないで? むしろ、時間が余ったから家に帰ったらいっぱい遊んでやるぞー! くらいの気持ちで良いと思うよ」
「遊ぶ、ですか」
「そうそう。執行さん、お休みの日とか何してるの?」
「お休み……そうですね……」
あごに手を添えて、執行さんは数秒の間、思案する。
「……刀の鍛錬、でしょうか」
「え、お休みの日も?」
「はい。いえ、毎日ですけど」
「お休みじゃない……」
毎日やっているのなら、それはルーチンワークのようなものだろう。
お休みの日にも行っているのなら間違いではないけど、私が聞きたいのはそういうことではなく。
「ダンジョンの中で配信の話したけど、学校では流行ってないの?」
「やってる子もいるみたいですが」
やってる。
この世代の子たちにとっては、見るものではなくてやるものになっているらしい。
たしかに近年では高校生でもダンジョンに入れるようになった。それだけ身近なものになっているのだろう。
「執行さんは一緒にしたりしないの?」
「私がですか?」
「うん。強いし、クラスの子たちから誘われないの?」
「ありません。学校では言っていませんから」
「そうなんだ」
「正直、好きではない……というか、周りの子たちがダンジョン配信をしているのも、よく分からなくて。私が変なんでしょうか」
「変じゃないよ。私もそんなに配信好きじゃないし」
「え? そうなんですか?」
あ、しまった。
つい流れで答えてしまった。
迷宮保安官としては適切じゃなかったかもしれない。
でも言ってしまったものは仕方ない。
それに執行さんだったら、たぶん大丈夫だろう。いや、出会ってまだ一週間くらいの相手の何を知っているんだという話だけど。
「実を言うとあんまりなんだよね」
「少し、意外です」
「そう?」
「迷宮保安官の方だから、良く見るのかな、と」
八王子ダンジョンの中でも、迷宮保安官だからダンジョンが好きなのか、と聞かれた。
世間の迷宮保安官への印象はそんなものなのかもしれない。
「仕事で見ることはあるけど、プライベートでは一切見ないよ」
「そう、なんですね」
「他の人は分からないけどね。結局は人によると思うよ」
一応、フォローをしておく。
別に私としても、ダンジョン配信者やダンジョン配信が好きな人を否定をする気はないのだ。
「佐々貴さんのお話を聞けて、良かったです」
「そ、そう?」
「はい。少し安心したと言うか……あ、佐々貴さんのお話は誰にも話しません」
「……そうしてくれると助かるよ」
その後、渋滞に巻き込まれることもなく、スムーズに23区に戻ってきた。
オフィスビルなどが立ち並ぶエリアから離れた住宅街近くを走行する。
カーナビの案内で進み、辿り着いたのは高層マンションの前だった。
ちょっと想像と違ったので、少しの間、絶句してしまう。
「執行さん、ここで合ってる……?」
「はい、ありがとうございます。」
「剣術の家元って聞いてたから、てっきり日本家屋で平屋かと」
「ここは一時的に住んでいるだけですから。両親の住んでいる実家は佐々貴さんの言うような家です」
「そうなんだ……って、え?」
納得しかけたけど、少し引っかかる言い方だった。
だって、両親が住んでいる実家はってことは、ここには両親は住んでいないってこと?
「じゃあ、今はどなたと住んでるの?」
もしかして、彼ピ!?
いや、いやいやいや!?
自分で聞いておいてドキドキしてきた。
別にそれでもいいんだけどね!
「一人暮らしです」
「一人!?」
ほっとしたような、しないような。
いや、しない。余計なお世話かもしれないけど、流石に心配の方が勝つ。
「大丈夫なの!?」
「大丈夫です。高校入学してからずっとですから」
「そ、そうなんだ」
執行さんは手早く荷物をまとめると、車のドアを開いた。
「わざわざ送ってくださり、ありがとうございました」
「こちらこそ。またよろしくね」
「はい。こちらこそ」
ぺこっと小さく会釈をして、執行さんはドアを閉め――ずに、立ち止まっていた。
どうしたんだろう?
八王子ダンジョンの管理事務所に忘れ物でもしたのだろうか?
「あの、佐々貴さん」
「うん?」
「あ、いえ……。お疲れ様でした」
「え? あ、うん。お疲れ様」
何か言おうとしたけど、飲み込んだように見えた。
さすがの私でも気づく。
でも執行さんはぺこり、と頭を下げると、そそくさとマンションに入っていってしまった。
うーん。
まぁ、何かあれば、改めて言ってくれるだろう。
「あ……」
そういえば、執行さんの連絡先を知らないや……。
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