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アンデットだらけの2周目ダンジョンには治癒魔法が欠かせません!?~とある迷宮保安官と用心棒少女のダンジョン再攻略~  作者: 春街はる
八王子ダンジョン

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16.八王子ダンジョン最深部

 もぬけの殻だったとはいえ、念には念を。

 ということで、私たちはそれぞれ分かれて主であるキングリザードマンがいた主の広間を調べていた。

 だけど、やっぱり異変という異変は見つからなかった。


「執行さん、そっちはどう?」

「いえ。特に何もありません」

「そっか。私の方も」

 

 十年以上前に攻略をされて以来、そのままの姿なのだろう。

 岩肌が崩れていたり、炎を浴びたのか変色していたり、当時戦っていた探索者の物だと思われる折れた武器が落ちていたり。ところどころに戦いの形跡が残っていたが、それだけだった。

 

「やっぱり、物陰や足音はあの猫のことだったのでしょうか?」

「そういうことになると思う」

「そう、ですか……」


 表情にこそ出ていないけど、執行さんの声のトーンは僅かに下がっていた。

 その気持ちは分からないではない。


 アンデッドを調査して、倒すぞ! と意気込んで乗り込んだダンジョンに、何もいなかったのだから。いや、猫はいたけど。

 特に執行さんは私の用心棒的な存在で、表に立って戦ってくれる係だ。アンデッドと戦う気で来ただろうから、肩透かしをされたような気になるのは無理はなかった。


 それに、アンデッドがいなかったからといって、骨折り損というわけでもない。


「何もなかったって分かったことも大事だから。それに猫ちゃんも救えたし」

「そうですね。それに、魔物がいないのが普通なんですよね?」

「うん」


 頷いて、私はもう一度、主の広間を見渡す。

 かつて探索者たちとキングリザードマンとの激戦が繰り広げられたであろう、この場所だけど、今は伽藍洞のようで少し寂しさを感じさせた。


「攻略されたダンジョンしては、これが正しい姿だから。これで良かったんだと思うよ」


 アンデッドが出現した、渋谷ダンジョンのほうが特異なのだ。


 ここ八王子ダンジョンも、渋谷ダンジョンと同じくらい古くからあるダンジョンで、どちらも攻略されて十年以上が経過している。

 だけど、こちらにはアンデッドは出現しなかった。

 古くから存在しているダンジョンだからと言って、アンデッドが出現するというわけでもないらしい。何かアンデッドが出現する条件のようなものがあるのかもしれない。


 アンデッドそのものの調査はできなかったけど、これも十分な成果だろう。

 と、ちょうど自動操縦で主の広間を撮影していたドローンが戻ってきた。


「映像の撮影も十分にできたから、そろそろ戻ろうか」

「はい」


 あとは津守さんや解析班、研究員の人たちに任せよう。

 もうこの場所に用はない。長居は無用だ。

 私たちは踵を返して、元来た道を歩き出す。

 

「そういえば、津守二等迷宮保安監から聞いたんだけど」

「はい」

「執行さんのお家って剣術の家元さんなんだよね?」

「……はい。そうです、けど」


 う、うん?

 反応の速度や、口調が微妙に引っかかる。

 気のせいだろうか?


「じゃあさ、子供のころから剣……というか刀? を習ってたの?」

「そうですね」

「すごいなぁ」

「……それだけですか?」

「それだけって?」

「いえ、津守さんから聞いたと仰られたので」

「うーん? 聞いたのはそれだけだよ。あっ、もしかして間違ってた?」

「大丈夫です。合ってます」

 

 執行さんは小さく頷くと、そのまま口をきゅっと結んでしまった。

 しん、と静かな空間に私たちの足音だけがやけに大きく聞こえる。


 き、気まず……。

 もしかして、お家のことはあまり話したくないのかもしれない。

 このくらいの年齢のときって、家族のこととかあんまり人に話したくないって思う時もあるし、特に執行さんの場合はお家が特殊だ。触れてほしくなかったのかもしれない。


 黙ったまま帰るのも気まずいからと思って、適当に話題を振ったんだけど失敗だった。

 他の話題を探さないと。

 とはいえ、執行さんの好きなものや趣味などを全く知らない。

 話題になるもの。何か話題になるものは……。


「そうだ。執行さんって、すごく強かったからさ。てっきり探索者なのかと思ってたよ」

「いえ、あのときが初めてでした」

「らしいね。じゃあ、ダンジョンについては知ってる? 配信者とか見たりする?」

「いえ、あまり……」

「そうなんだ。じゃあ、今回はどうしてこのダンジョン調査に協力してくれたの?」

「……津守さんに言われたので」

「あー、津守さんも言ってた。知り合いなんだってね」

「はい。父と」


 迷宮保安官には、年に何度か剣術や体術の講義が行われる。

 その関係で、津守さんと執行さんのお父さんは知り合いだったのかもしれない。


「佐々貴さんは、ダンジョンがお好きなんですか?」

「え、どうして?」

「迷宮保安官だから、そうなのかなと」

「うーん、どうだろ。私も含めてそういう人ばかりじゃないと思うけど」


 少なくとも、私の場合は好きかと聞かれたら違う気がする。

 ダンジョンが好きな人が就くのなら、迷宮保安官ではなくて探索者や配信者だろう。

 配信者の人が「好きなことを仕事に!」みたいなことを言っていたWEB広告を見たことがあるし。


「……そういうものなんですね」

「そうだと思うよ」


 私の答えをどう感じたのかは分からないけど、執行さんは納得したように頷いていた。


お読みいただきありがとうございます。

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