12.執行七瀬について
「では最後に、執行君について話そうか。と言っても、畏まって話すような子ではないけどね」
津守さんの言葉で、私は昨日行動を共にした執行さんのことを思い浮かべた。
執行七瀬さん。
艶やかな長い黒髪に、すらりと高い身長は170センチくらいはあった。
可愛らしくも綺麗な顔立ちも相まって、芸能人のような女の子だった。女の子というと失礼かもしれないけど、24歳の私よりも若そうだったから女の子と言っても間違いではないはずだ。
そして刀の武器を使い、探索者としての能力は非常に高い。
ゴブリンとキングゴブリンがそれほど驚異的な魔物でないにしても、執行さんの実力は探索者としてトップに近い位置にあるだろう。
知っていることはそのくらいだ。
とはいえ。
あれだけ魔物に対して、一人だけで戦えるとなると、何者であるかは限られてくる。
何となくの予想はしていた。
「有名な探索者だったりしますか?」
ダンジョンが出現したばかりの頃は、ダンジョンに挑む人は全員が「探索者」だった。
だけど、今では2つの呼び方に変化した。
ダンジョンの最前線にいて、攻略や依頼をこなしているのが探索者。
ダンジョン内での活動を配信サイトでライブ配信するのが配信者。
配信者の中にはチャンネル登録者が数百万人という人もいる。そのおかげもあってか、配信者は芸能人的な扱いとなっていて大人気だ。
探索者になりたい、という人の多くは探索者ではなく配信者になりたい人である。
ではあるけど。
執行さんの場合は配信者ではないだろう。
あれだけの強さ、そしてルックスであれば、私の耳にも届いているはずだ。
だから、数々のダンジョンで黙々と腕を磨いてきた探索者ではないだろうか。
と、予想をしていたのだけど……。
「いや、彼女は探索者ではないよ」
「え?」
津守さんに否定をされて、私は思わず声を漏らしてしまった。
「もしかして配信者ですか?」
「いやいや、どっちでもないよ。迷宮に入ったのも昨日が初めてのはずだから」
「そうなんですか!?」
「一応、普通の高校生だからね。事前に講義と試験は受けてもらったけど」
思い返してみれば、ダンジョンに慣れているはずの探索者にしては私への確認作業が多かったかもしれない。
てっきり、迷宮保安庁の仕事だからかなと思っていた。
けど、初めてダンジョンに入ったから私に色々と確認をしていたらしい。
それにしても武器の扱いや身のこなし、魔物を倒す際の躊躇のなさは初めてとは思えなかった。それこそ、ベテランの探索者のようだった。
「初めての実践であれだけ動けるなんて……」
「執行君の家は数百年前から続いている、ある剣術の家元だからね」
「剣術。なんとか流……みたいな感じですか?」
「大雑把に言えば、そんな感じかな」
剣術というものに縁がなさ過ぎて、正直ピンと来ない。
白い着物に紺色の袴で刀を振る感じだろうか?
凛とした執行さんの姿を、すぐにイメージすることができた。
「私と執行君のご家族に少し縁があってね。執行君の腕が確かなことは知っていたから、今回、佐々貴君の同行をお願いしたというわけだ」
「そうだったんですね」
柔道や空手でいうところの黒帯みたいなものかもしれない。
いや、実家が家元なのだから師範級?
ともかく、探索者として一切の経験がなくても津守さんがお願いをするくらい、執行さんの実力はずば抜けていたのだろう。
それは実際に見た私も良く分かっていた。
「佐々貴君。執行君はどうだった?」
「えっと、可愛い子だなと」
「いや、容姿ではなくて……。迷宮内での対応や、君との連携について聞きたいんだけど……」
「あ、そっ、そうですよね!」
しまった。
見た目について、聞かれるはずはないじゃないか。
私の馬鹿!
「ふむ。君はああいう子がタイプなのか」
「いやいや! ちょっと間違えちゃっただけですから!」
「冗談だよ」
にやり、と悪戯っぽく
「アンデッド調査の要は佐々貴君だ。だから君の意見次第で別の同行者を手配することもできるけど」
そうか。
てっきり、これからも執行さんとペアでアンデッドの調査を行うとばかり思っていた。
ペアについては、私に選択肢があるらしい。
…………。
脳裏に執行さんの微笑んだ顔が浮かんだ。
それに彼女のことをもう少し知りたいという気持ちもある。
いや、決して下心などではなく!
高校生に手を出したら普通に犯罪だ。懲戒免直は免れない。
私もこれからダンジョンに何度も潜ることになるのであれば、執行さんから学ぶことはたくさんあるはずだ。
第一に昨日の再攻略で執行さんに文句何て一つもない。執行さんとなら安心だ。
他の人と一緒というのは考えられなかった。
「執行さんさえ良ければ、今後も執行さんでお願いします」
「分かった。では執行君にも今後のことを伝えておくとしよう」
私の返答を聞いて、津守さんはどこかほっとしたような表情をしていた。
知り合いと言っていたけど、何か思い入れのようなものがあるのかもしれない。
「執行君のこと、よろしく頼むよ」
「はい」
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