11.調査の任
「……もし、お断りをした場合はどうなるのでしょうか」
「別にどうもしないよ。君は断る権利を有しているわけだからね」
正直に言えば、決めかねていた。
迷宮保安官としては、アンデッドの出現と言う未曽有の事態の解明に尽力すべきなのだろう。そして、その前線に選ばれたことを喜ぶべきなのだろう。
だけど。
実際に経験をしてみて、二つ返事では了承できなかった。
これは私一人の話ではないからだ。
私に戦う力がない以上は、今回の執行さんのように誰かに頼らなければならない。
近年は、武器や防具の性能向上やダンジョンや魔物の知識が豊富になったことで、死傷者は年々減少している。でも、本来はダンジョンというのは常に危険と隣り合わせなのだ。
実際に亡くなる人の数はゼロではない。
減少していると言っても、毎年何人もの探索者が亡くなっているのも事実なのだ。
「私としては無理強いはしたくない。だけど、これは佐々貴君にとっても悪い話ではないと思うよ」
「どういうことですか?」
思わず眉を顰める。
津守さんは元探索者だから、私以上にダンジョンの危険性は理解しているはずだ。
「まず。当たり前だが特別手当て――要するにお金の面だね。それに加えて、迷宮で必要になる武具などがあれば遠慮なく申請してくれて構わない」
たしかにお金は大切。
でも、迷宮保安官は決して少なくないお給料をもらっている。
私としては正直、お金に関してはそれほどメリットを感じない。
「それから、実際に迷宮に赴くことで得られる情報や経験は有益なものだと思うよ。佐々貴君だけではなく、君のお姉さんにとっても、ね」
「…………っ」
その言葉に、思わず心が揺らいでしまった。
私の姉――佐々貴百。
数年前。私がまだ大学生だった時にダンジョンで大怪我を追った。一命は取り留めたものの、未だに目を覚まさないでいた。
最初に入院していた一般病院では原因不明とされ、その後、迷宮保安庁の医療施設に転院した。そこで襲った魔物の影響だと分かったが、それ以上は何も分からないまま。
今も特に進展はないまま、姉は眠っているのだった。
転院を取り計らってもらったこともあって、津守さんは私や姉の事情を知っている。
「……アンデッドと姉は関係があるのでしょうか」
「分からない。だけど、何もしなければ、いつまでも分からないままだと思うよ」
アンデッドが確認されたのは二週間ほど前。
一方で姉が入院したのは数年前。
この2つに関係があるとは思えなかった。
でも、津守さんの言うように関係がないと分かるだけでも前進なのかもしれない。
それに直接の関係はなくとも、アンデッドに関する研究が進めば、その技術を姉の治療に応用できるかもしれない。
ダンジョンに入って、姉と同じ景色を見ることで分かることがあるかもしれない。
望みは薄いだろう。
だけど、望みが薄いのと無いのとでは大きな差だ。
頭の中で一つ一つ整理して、私は頷いた。
「……分かりました」
「本当かい?」
「はい。アンデッドの調査の任、謹んでお受けいたします」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
僅かに口の端を緩めて、津守さんがふわりと笑みを浮かべる。
「アンデッドに関しての話は以上だ。では最後に、執行君について話そうか」
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