10.アンデッド
「アンデッド」
反芻するように言葉を繰り返すと、津守さんが首肯する。
「該当する魔物が出現した場合。その呼び方は魔物の名称の後ろに『アンデッド』と付けることとなった」
今回のゴブリンであれば、ゴブリンアンデッド。キングゴブリンはキングゴブリンアンデッドと呼ぶということか。
「それでだ。ここからは推察になるけれど」
そう言いながら、津守さんは手元にあったタブレット端末を起動させた。
何度かタップやスワイプをしたのち、「これを見てほしい」とテーブルに置く。
画面にはキングゴブリンの……いや、キングゴブリンアンデッドが映されていた。ちょうど、私がキングゴブリンアンデッドに治癒魔法を使っていた場面のようだった。
「少し気になるところがあってね」
津守さんがタブレットを操作するために少し前かがみになる。
距離が近づいたことで、ふわりと津守さんと香水のいい匂いがした。
「佐々貴君?」
「す、すみません!」
何を考えているのか、私のアホ!
自分を戒めながらタブレットに視線を落とす。
映像の中で、私の治癒魔法に包まれたキングゴブリンアンデッドの身体が白く光っていた。じわじわと解けるように消え去っていく。
きちんと撮影で来ていたか少し不安だったが、けっこう綺麗に撮れていて安心した。
自動撮影ドローン、なかなかやるじゃないか。
キングゴブリンアンデッドの身体がまもなく完全に消滅する……といったところで津守さんは動画を停止させた。
画面の真ん中には、キングゴブリンアンデッドの核が映っている。
「私も研究所の連中も、この黒い核が少なからず関係していると考えている。普通の魔物の身体に何らかの影響を与えて、アンデッドとしているのではないか、と」
「……そうですね」
津守さんの言葉に私も同意する。
昨日、直接見たから良く分かる。あの核は明らかに異質なものだった。見る者を暗闇に吸い込んでしまうような、禍々しさすら感じた。
黒い核がアンデッドをアンデッドたらしめている可能性は十分にあるだろう。
「ただ、この映像だけでは判断はできない。アンデッドについては、更なる調査と研究が必要になるだろう」
ま、やっぱり結局は結論はそうなるか。
如何に迷宮保安庁とはいえ……いや、迷宮保安庁だからこそ、確証もなく結論を出すわけにもいかないのだろう。
とはいえ、研究しようにもサンプルは消えた。私が消してしまった。
消してしまったと言うか、倒すには仕方がなかったわけだけど。
研究所の人たちは、あのダンジョンに再調査にでも赴くのだろうか? 何か見つかると良いんだけど。
なんて、他人事のように思っていると。
「そこで佐々貴君」
「は、はい」
名前を呼ばれて視線を向ける。
にこにこと津守さんが私を見ていた。
……嫌な予感がする。
「先ほどちらっと話したように、今後アンデッドが出現した際は君に討伐と調査をお願いしたい」
「わ、私ですか!?」
次回以降、という言葉があった時点で察してはいた。
だけど、まさか調査だけではなくて討伐まで任されるとは思わなかった。
迷宮保安庁の仕事は日本各地に点在している迷宮を管理管轄し、魔物、探索者たちの管理やデータの収集、研究など。ほとんどが裏方業務だ。
迷宮保安官が攻略の前線に出ることはほぼない。
もちろん、調査のために魔物を討伐したり、現地調査の際に研究員たちの警護をするときはある。
とはいえ。
今回のキングゴブリンアンデッドのように、ダンジョンの主を倒すのは異例と言っていい。それは迷宮保安官の仕事の域を超えて、最早、探索者の仕事である。
「通常であれば、このようなケースは探索者や探索者事務所に依頼をして任せるのでは」
「通常であれば、ね」
含みを持たせるように言って、津守さんは言葉を継ぐ。
「アンデッドについて、ある程度の把握ができるまでは迷宮保安庁で対応するようにと上からのお達しだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。今の状態で一般の探索者に任せるわけにもいかないのだろう」
未曽有とも言える魔物の出現だ。
迷宮保安庁としても慎重に動かざるを得ないのかもしれない。
下手に任せて責任問題になりたくはないだろうから。
それから津守さんは「それに」と続ける。
「今回のように政府が管轄している攻略済み迷宮に出現した場合は、一般の探索者を入れるわけにもいかない」
政府管轄となっている攻略済みダンジョンの多くは、ダンジョン内の資源を得るための準備が行われているところが多い。
故に政府管轄ダンジョンの多くは、一般の探索者は立ち入り禁止となっていた。
となると。
治癒魔法が使える迷宮保安官が対応するしかないわけで。
そもそも治癒魔法を使える迷宮保安官はほとんどいないはず。少なくとも、私は私以外に治癒魔法を使える人を知らない。
だから、津守さんが放つ白羽の矢は私を打ち抜くことになる。
「佐々貴君と執行君の対応も見させてもらったが、実に見事だった。佐々貴君であれば、安心して任せられるのだが……どうだろうか?」
ダメ押しでもするように、津守さんがふわりと微笑みを浮かべた。
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