普遍的な試合
「軍隊では、強者が生き残る。だが、弱者は――?」
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2023年5月23日・日本全国高校サッカー大会 決勝戦
金川高校 vs 富士山高校
ボールがフィールドを飛び、星尾タツヤの足元に転がってきた。
「全員!あいつを囲め!またパスさせるなっ!」
相手チームのMFが叫んだ。彼の顔には焦りが滲んでいた。タツヤが再びボールを支配したのだ。
5人が一斉にタツヤに突っ込んでくるのを見て、彼はニヤッと笑った。
ボールを軽く上げて、1人目にヒールリフトでチップパス。
次に、2人目には股抜き!
そして自陣エリアから相手ゴール前まで、ロングスルーパスを一閃!
そのボールは見事、木下の足元にピタリと収まった。
彼はワンタッチで強烈なシュート!
ゴーーーーーーールッ!!!
観客は沸騰!またしても星尾タツヤが信じられないアシストを決めた!
「デ・ブライネ死んだんか?この子が転生してるやん!」
「ダレやあれ!?メッシの日本版かよ!」
「優勝は金川だわ。異論ねぇ!」
金川サポーターの応援は止まらない!
会場は「タ・ツ・ヤ!タ・ツ・ヤ!」のチャントが響いていた。
7-7
(タツヤ:アシスト6本+1ゴール)
「お前らホンマ弱すぎるわ。楽勝すぎて眠くなるレベルや。」
とタツヤはドヤ顔で相手チームを煽った。
試合は激戦。両チームに何度もチャンスが訪れたが、GKたちの神セーブでスコアは止まったまま。
後半アディショナルタイム 90+3分:7-7
「オレ空いとるで!早よパス回せや!」
金川MFの矢野が叫ぶ。
「任せた!ほれっ!」
とDFのカイリがクロス。
その瞬間、タツヤは中盤で敵DFの隙間を見逃さなかった。
「そこ、ガラ空きやんけ。」
彼は即座にスペースへ走り込んだ。
「おいおい!星尾がどフリーやぞ!!マークしろやぁああ!」
富士山GKが絶叫。
クロスを受けた矢野が、センターサークル付近から華麗なトリベーラを放つ。
そのボールは一直線に、タツヤの元へ――
相手DF3人が背後から迫る!
「もうこれしかねぇ!」
タツヤは迷わずジャンプして、バイシクルシュート!!
シュートはクロスバーに当たって、そのままゴールイン!
ゴオオオオオオオルッ!!!超決まったああああ!!!
だが――
タツヤは着地に失敗し、そのまま意識を失って倒れた。
――そして、すべてが暗闇に沈んだ。
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「軍隊では、強者が生き残る。だが、弱者は――?」
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「……ん?おい、みんなどこ行ったんや?」
星尾タツヤが目を覚ますと、そこは見たこともない土の地面だった。服は泥だらけ。
周囲を見回すと、まるで異世界のような、薄暗い森が広がっていた。
鳥の声一つ聞こえず、空気は重苦しい。血の匂いすら漂っていた。
ポケットに手を突っ込むと、なぜかスマホが入っていた。
「は?スマホ?ロッカーに置いたはずやんけ……なんで?」
混乱しながら彼は立ち上がり、森の中をさまよい始めた。
――そのとき。
1人の男が、死体の上に立ち、剣を構えていた。
「う、うそやろ……」
タツヤは声にならない悲鳴を上げ、身体が凍りついた。
「ほぉ?部外者か……つーことは、始末するしかねぇなぁ?」
男は不敵に笑い、血塗られた剣をゆっくりと振り上げた。
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第一章・完