何でも欲しがる異母妹へ。最後に最高のプレゼントを贈るわ
お母様が儚くなってから喪も明けないうちに義母と異母妹が我が家へやってきた。
「お前の母になるサバンナと妹のエミリーだ」
異母妹と私の年齢差は一歳で、成長して知った真実。お父様は、お母様が健在のときから裏切っていた事に大きなショックを私に与えた。
義母と異母妹が家へやって来た日から私の日常も大きく変化して、お母様が大切にしていたドレスや宝石も奪われ売られて、お母様から貰った誕生日のプレゼントも異母妹に奪われた。
お母様との思い出の物だから返して! と、訴えると泣き散らして我を通そうとする。
「お姉ちゃんなんだから妹に譲りなさい」「何、私達が平民上がりだからって馬鹿にしているの?!」と、怒鳴られ叩かれて暗く狭い押し入れに押し込められる。
私が「出して」と叫んでも「反省するまで此処にいなさい。これは出来の悪い貴方の為を思っての躾です」と、義母は言う。
怖くて、怖くて、強く目を瞑り楽しかったお母様との思い出を思い浮かべる。
心が折れたのは最後に残ったお母様の形見のオルゴール。
珍しく返して貰えたと喜んだ私に、異母妹はにやにやと笑っていた。
その理由は直ぐに判った。
壊されたオルゴールを見て初めて人前でみっともなく泣いた。泣いたら義母に「このくらいで泣くんじゃない」と叩かれ、お父様は見て見ぬふり。
「何で私のばっかり奪うの!? お母様との大切な思い出も、お父様から愛情も全部持っているのに!!」
「そんなの当たり前じゃない。エミリーが一番じゃないといけないの」
何を言っているのか理解出来なかった。
そんな私も結婚できる歳になり婚約者ができた。
一度だけじゃない。
二度、三度、……と奪っていく。
ひっそりと付き合っても奪われる。それなら、私は爵位が継げる歳になるまで婚約者をつくらないと決めた。
そんなある日、とある出逢いをした。
その話は私にとって魅力的だった。
「喜んでお受け致します」
それから実行に移すのは早かった。
ある男性と婚約を結んだ。
私はお洒落をして、表向きは婚約者の護衛として雇われている侍従に送り迎えされている。婚約者の事を異母妹に知られたくないと思わせる為に敢えて家から離れた場所を指定して、餌を撒く。
異母妹は、そんな私に目をつけた。私が撒いた餌に掛かった。内心で微笑む。
「お姉様の婚約者を譲って」
落ち着くのよ、私。
「譲って欲しいって譲れるものではないわ。それに、エミリー、私の婚約者が誰か判るの?」
「ふふ、美しい私に取られたくないからって、遠く離れた場所で逢瀬を重ねていたみたいだけど残念ね」
勝ち誇ったかの様に笑う異母妹。
にやける顔を必死で整えて惨めに見えるように心掛ける。
私って役者に向いているじゃないかと本当で思ったわ。
私のこと馬鹿にしている異母妹だから騙せるのだと思うけどね。
「何度、私の婚約者を奪えば気が済むのよ」
「仕方ないじゃない。みーんな、私の事を好きになっちゃうだもの」
此れは否定できない。
本当にそうだから。
裏でどんな風に言われているか異母妹は知らないみたいだけど、私ならあんな不名誉のあだ名で呼ばれているなんて知ったら外を歩けないわ。いっそのこと自害しそうになるわ。
「彼は、そんなひとじゃない」
「ふふふ、どうかしらね」
これで良い。
これ以上何かを言うと、ボロが出そうなので泣きそうな顔で去っていく。ひとり、自分の部屋の屋根裏部屋で深呼吸をする。
鳩笛を使って呼び、婚約者の侍従に手紙を届けて貰う。
"計画は上手く行った"
予定通りに婚約者の侍従に近づいた様だった。
どんな話をしたのか分からないけど、勝ち誇ったかの様にある物を見せて来た。
"契約魔法"による婚姻。
絶対的な物で破棄した側は悲惨な死を遂げる。
「彼ったらね、私に一目惚れをしたらしいの」
ふふふと、嬉しそうに馬鹿にするように嘲笑う。
「残念ね、お姉様」
「そう、おめでとう」
「恨まないでよね、お姉様」
「仕方ないわ。彼が貴女を選んだだもの」
彼が一目惚れしたのは本当の事だもの。
彼が言っていたわ。「僕が五歳の時に彼女、エミリーに一目惚れをした」と。
貴女も望んだ事でしょう?
「一番じゃないといけない」と。
彼なら一番に愛してくれるわ。
十年以上も貴女を恋慕っているのだから。
「最後に彼に会わせてあげる、私、優しいでしょう。お・姉・様」
嫌がるふりをする私を無理矢理連れて行く異母妹。
「逢いたくないわ。何処まで私を惨めにすれば気がするの」
「お姉様の絶望する顔が好きなの。知らなかったでしょう? 馬鹿なお姉様は」
すごく、すごく楽しそうに愉快に私の腕を掴み引きずる異母妹。
元婚約者のダーレン。そして、今は異母妹のエミリーの旦那様となったダーレン様との御対面。
ふふふ、お父様とお母様に止めるのも聞かずに啖呵を切って出ていったエミリー。結婚した今、どんなに嫌がっても離縁はできないけどね。
「逢いたかったよ。僕の愛しいハニー」
「いやぁぁぁああアアー!! 私の旦那様は何処!?」
「何を言っているの? 目の前にいるじゃない」
「違う! 違う!! 私が見たのは、こんな気持ち悪い豚じゃない!! 騙したのね!!」
「騙したなんて人聞きが悪いわね。貴女が勝手に騙されただけよ」
「僕だけのハニー」
「なに?! ベトベトする。触るなァァ」
「照れているだね」
ハァハァと荒い息をするダーレンから逃れようとするけど、離さないとばかりに抱きしめる。
エミリーは天邪鬼だから嫌がっていても素直になれないだけなの、と伝えてある。
「イケメンの彼は何処よ」
「彼はただの護衛の侍従よ。私の元婚約者は目の前にいるダーレンよ。今は貴女の旦那様ね。結婚おめでとうエミリー」
「いやぁぁぁああーー、こんな豚と」
「破棄したら悲惨な死を遂げるわよ。逃げてもね」
あの契約魔法にはいくつか条件がある。
「忘れたの? 忘れたなら読み上げるわ」
私はひとつひとつ読み上げる。
――・如何なる場合でも離縁はできない。
――・ドネリー家から一日以上空ける事を禁じる。
――・ドネリー家の事は他言しない。
――・スキンシップは拒否しない。
――・キスは一日二回以上。
――・子どもは男子2、女子1。
――・ダーレンに危害を加えない。
「そうそう、言い忘れていたわ。
貴女のお父様――私の父でもあるけど、貴女のお母様は平民になるか、処刑になるわ」
「はァ? 何をしたのよ」
「知らなかったの? 貴女のお父様に爵位を継ぐ権利は無いの、婿養子だもの。正当な後継者はお母様の子である私。貴女を後継者にするつもりだったみたいだけど、それはね、立派な家の乗っ取りになるのよ。知らなかった? 優しいから選ばせてあげるつもり。 平民になるか、罰を受けるか。ね、私、優しいでしょ?」
「どこがよ」
「貴女、いつも言っていたじゃない。――それじゃ、お幸せに」
その場を後にして、何か叫んでいる異母妹に心の中でさよならを告げた。
私は、表向きは元婚約者の侍従と婚姻を結んだ。
奪われる心配はない。何もかも奪われる人生だったけど、今は幸せ。
「どう? これでスッキリしたかな? アンジェリーナ」
「ええ、とっても」