⑨ 罪人
私はヌマーダの屋敷で編み物をしている。
大きくなったお腹によって思うように動く事が出来ずにいた。
本当の夫婦となって数ヶ月して私のお腹に新しい命が宿しているのが解った。
そして私の目の前にもう一人の妊婦が座っている。
メヌメールであった。
─ メヌメール ─
ユーリッチと結ばれるようになってから二年が経つ。
ユーリッチは私を大事にしてくれていた。本当に愛するものは違うとしても。もしかして彼女の代わりに私を愛してくれているのかと思う時もある。
リシャラテの結婚式のニュースが届き、彼らが本当の夫婦になった事に気付いた。彼は何ともないような事を言っていたが嘘つきね。
貴方は嘘を着くのが下手なのよ。直ぐに顔を見て解ってしまったわ。でも、解っていたことなので私も「そう」としか返事が出来なかった。
最近、体がダルい。
気持ち悪さもある。
私は王家専属の医師に見て貰うと医師は笑みを浮かべて私に向かっていい放った。
「おめでとうございます」
この言葉に使用人達が喜んでいる。涙を流すものもいた。
私も驚いた。
本当に愛して貰えなくても子は出きるのだと。
私は妊娠した事をユーリッチにも伝えた。
ユーリッチは私が妊娠したことを知ると一言呟いた。
「間に合った」
─ ユーリッチ ─
メヌメールから妊娠したと告げられた。
良かった。
此で彼女を助けられる。
私はレッグエル王のもとに向かった。
「父上、メヌメールが妊娠致しました」
「本当か!それは喜ばしい事だ」
今の王は昔のように危うい姿ではなくなった。
だが、何処かトゲが抜かれたように落ち着いた顔をしている。母からの手紙には何て書いてあったのだろうか?
いけない。
話をしないと
「それで父上、メヌメールの体のためにももう少し落ち着く場所で出産した方が良いかと思うのです」
「落ち着く場所か」
「はい。ヌマーダ領あたりを考えております」
突然に出てきたヌマーダと言う言葉にレッグエル王は目を見開いた。
そして、「そうか」「そう言うことか」と自問自答した中でレッグエル王はメヌメール妃の出産のための静養を認めた。
─ メヌメール ─
「えっ?私は」
私はユーリッチの言葉に理解が追い付かず呆然としている。
確か間違いでなければユーリッチは「出産のためにヌマーダで静養してくると良い」と言われたように思える。
えっ!私がヌマーダに?
どうして?
何故?
私は涙が溢れだした。
突然に泣き出した私にユーリッチが慌ててハンカチを渡してくれた。
彼には私の涙の理由が解らないのだろうか?
もしかしたら嬉し涙と思っているかもしれない。
だとしたら余計に悲しくそして悔しくて仕方がない。
「なぜ?なぜ、そんな事を言われるのですか?
私は女神の言葉を偽って民に告げた罪深い女でございます。
そんな私が民をおいてヌマーダに行けと?
それはあんまりでございます。私は既に覚悟が出来ております。最後までユーリッチ様の側にいさせて下さい。あなたのお心が他にあったとしても私は最後まであなたの側に居たいのです」
「メヌメール、ソナタの言葉は嬉しく思う。ソナタは信じて貰えないかと思うが私はリシャラテを愛して後悔しているのではないと思う。私はリシャラテの言葉を信じずにいたことを後悔しているのだ。
君が君を罪人と言うなら私の方が罪人だ。私もマエバーシャと共に滅びようかと思う。
メヌメールも最後まで側に居てくれると言う言葉が嬉しく思っている」
「でしたら」
「だが、私もソナタも罪人だ。だが、ソナタのお腹の中にいる子には何の罪があると言うのだ。
罪人通しの子だから子も罪人になるのか?
否、女神ヴィシュナ様は許してくれるはずだ」
「卑怯な。何て卑怯な人なのでしょう。私の覚悟はどうされるのですか?私は女神様に許されないまま生きなければ行けないのですか?」
「許せメヌメールよ。私はソナタと離縁する。此でソナタは妃でなくなった。既に聖女でもない。今は一人の女性としてお腹の中の子を守って欲しい」
メヌメールはヌマーダ行きの馬車に乗せられた。一通の手紙をユーリッチから渡されて。
翌日、ユーリッチ王子とメヌメールの離縁が発表された。メヌメールが懐妊したことは伏せて。
─ リシャラテ ─
リシャラテはメヌメールから一通の手紙を渡された。
「此がその時の手紙なのですね。私がお読みしても宜しいのですか?」
「はい、お願いします」
『カナージャ侯爵及びリシャラテ侯爵婦人様、此度はメヌメールが懐妊した。自分勝手で申し訳ないがお腹の中の子は罪がないと思う。どうにか助けてくれないだろうか。また、メヌメールも王家の被害者で我々のせいで神に叛く罪人にしてしまった。どうにかソナタの力で彼女を救ってくれないだろうか?
最後にメヌメールの子が産まれたら男の子ならヴィナガ(グーマ国の言葉で女神を守る者)、女の子ならヴィーナ(グーマ国の言葉で女神のような女性)と着けて欲しい。メヌメールに嫌がられたら仕方がない。メヌメール、君は幸せに生きてくれ
ユーリッチより』
「ごめんなさい、リシャラテ様。私が勇気を出して正直に民に神託をお伝えしていれば多くの民が救えたかもしれません。私が王家の忖度などに飲まれなければ・・・なのに私がここにいるなど民に何とも言えば良いのか」
私達の話を聞いて側にいたカナージャが話し出した。
「メヌメール殿、私はあれから考えたのだが、私は誰が悪いと責めることが出来ないと思う。私がリシャラテと同じ立場であったらば、メヌメール殿と同じ立場であったらば、ユーリッチ王子と、レッグエル国王と同じで立場であったらばと考えてみたのだが、どの立場であったとしても私も同じ行動をとっていたかと思う」
夫の言葉に私は頷く。
「そうですね。メヌメール様、今回の件で私はたまたま最初の神託を受けましたがメヌメール様と同じ立場であったのならば私も同じ事をしたかと思います。メヌメール様が本当に個人として罪人になるとすればお腹の中の子を見捨てる事です。本当の罪人にならないためにもお腹の中の子を愛して下さい」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
数ヶ月後、私は男の子をメヌメールは女の子を産む。