⑧ 結婚
リシャラテが神託してから三年目となり、王家から驚くべき言葉が告げられた。
『水神祭での神託の儀は今年からしない事とする』
という内容だ。
この言葉にマエバーシャ領民は驚き暴動が各地で起き、王家は暴動の沈下に右往左往していた。
その頃、ヌマーダ領でも問題が発生していた。
三年目の白い婚姻の時期が近付こうしていたのである。
─ リシャラテ ─
とうとうこの時がきた。
既にヌマーダに移住した母と妹には事情を知らせてある。
後はこの離縁届けを出すだけだ。
だけど・・・
何故だろう、解っていたはずなのにカナージャと解れるのは寂しい。
リシャラテはカナージャと会った三年間を思い返していた。
楽しい三年間であった。
今までこんなに楽しい三年間はなかった。
ユーリッチとの婚約していた時よりも幸せを感じていた。
だけど・・・それも終わりにしないと。
リシャラテは覚悟を決めカナージャがいる執務室に向かった。
─ カナージャ ─
三年目のあの日が近付こうとしている。
彼女が私の側から居なくなる。
彼女の笑顔。
彼女の涙。
彼女の喜怒哀楽を思い浮かべる。
私の心には幼馴染みであった亡くなった妻への想いや感情などの全てをリシャラテへの想いで上書きされていた。
リシャラテが私の部屋にきた。
用件は解っていた。解っていたのだが諦める事が出来ない。
リシャラテが部屋に入ってから無言で立ち尽くしている。
リシャラテも思うところがあるのだろうか。
私は勇気を出して告白した。
─ リシャラテ ─
カナージャのいる執務室に入るが足が動かない。
頭では理解しているのだけどからだが否定している。
私が体の矛盾に戸惑っているとカナージャが声を上げた。
「リシャラテ。私は三年前に前の妻の事が忘れられないと三年目に離縁をする話をした。だが、リシャラテと過ごす日々により私の妻の喜怒哀楽の想い出が全てリシャラテに塗り変わっていた。
三年前に失礼な事を言った事は解っている。
君がいない食事、君がいない生活、君がいない未来、そんな事を思うと私は恐ろしくなる。私は君なしでは生きてはいられない。勝手で申し訳ないが私と離縁せず本当に私の妻になって頂けないだろうか」
カナージャが頭を下げている。
突然の事で頭が追い付かない。
妻に?私を?
彼の言葉が少しずつ私の耳を通り徐々に彼の言葉を理解し出した。
「嬉しいです。私、また幸せでいて良いのですね?」
─ カナージャ ─
勇気を振り絞り告白をした。
彼女は動かないままだ。
離縁しようとしていた男に突然告白されたのだ呆気にとられていても仕方がない。
私は半分諦めていると彼女から返事が聞こえた。
「嬉しいです。私、また幸せでいて良いのですね?」
本当なのか?
私は嬉しさのあまり彼女のもとに駆け寄り彼女を抱きしめた。
結婚して三年目にして初めてのキスであった。
それからは忙しい日が続いた。
まずはリシャラテの家族に謝罪をし再度結婚式を上げる事にした。
結婚式にはルサールカ王妃やティティーヌも参加した。
協会を出ると街はお祭り騒ぎであった。
ヌマーダ領では今日から3日間を婚姻祭として祝う事になった。
そして結婚式後の夜、私とリシャラテは本当の夫婦となった。
─ ラモス ─
娘から話は聞いていたので娘が帰って来ても良いように部屋の準備をしていたが、カナージャ侯爵が我が家に来られた。
「お嬢様を私に下さい」
突然のカナージャ侯爵の告白に何て言えば良いのか難しく考えてしまった。
「えーと、娘は既に侯爵様のものですが」
いや、娘が白い結婚であることは知っている。
知ってはいるがカナージャ侯爵の告白のせいでなのような返しとなってしまった。
隣にいる妻が私の頭を叩く。
返しを間違えてしまった。
「頭をお挙げ下さい侯爵様。私共は既にリシャラテをカナージャ侯爵様のもとに嫁がせております。離縁するも婚姻を継続するもお二人の判断にお任せ致します。私共が何かいう事はございません」
私が返答をいい直すと妻が話に入り込んできた。
「でも、リシャラテの結婚式の姿が見られず残念に思っていたのですよ。だって、想像してみて下さい、リシャラテのウエディング姿を」
妻の言葉の通りリシャラテのウエディング姿を想像してみたが凄く美しい姿を思い浮かべる事が出来た。
カナージャ侯爵様も同じであったのだろうか、顔を赤くしたカナージャ侯爵様が結婚式を挙げる事を約束して頂いた。
結婚式当日、何故か泣いてしまった。
既にカナージャ侯爵様とは三年前に結婚しているのだが、娘がやっと幸せになれたと思い涙が止まらない。
聖女としての務め、大聖女としての矜持、王子の婚約者としての責任、ヌマーダでの生活と娘の人生を共に近くで見てきたラモスは今日から娘の本当の幸せが始まるのだと思えて仕方がなかった。
隣にいる妻を見ると妻も同じように泣いていた。
良かった妻も同じで思いのようだ。
─ ユーリッチ ─
1月くらいしてユーリッチ王子のもとにカナージャ侯爵とリシャラテ侯爵婦人の結婚式が行われたニュースが届いた。
「やっと結婚式をあげられたのですね」
ニュースを聞いてメヌメールが私に話し掛ける。
「三年も経たなくは解らないなど私も私だが彼も彼だな」
「宜しいのですか?」
「何がだ?」
「私の側にいて」
彼女の質問は的を射ている。
リシャラテの結婚式のニュースを聞いて私は本当にリシャラテと終わってしまったと一瞬思ってしまった。
「私はメヌメールそなたを選んだのだ。リシャラテは関係ない」
私は嘘つきだ。
私の嘘にメヌメールは「そう」と返事をした。