⑤ 王妃
「お久しぶりでございます。本日は遠くまで来て頂きありがとうございます」
今日は前々からヌマーダに移住したい旨の手紙を頂き、その準備が出来たたのでお手紙にてご報告したところ直ぐに此方に向かうと手紙が届いた。
そして、本日到着したようし本邸に挨拶に来られた。
「ええ。久しぶりね。本来なら数ヶ月前の婚姻パーティーの主役は貴女だったのに残念だわ」
「そのお言葉だけでも嬉しいです王妃様」
そう。目の前にいるのは王妃ルサールカ様であった。
─ ルサールカ ─
私は覚悟を決めた。。
王政に私の意見が反映されない事などいつもの事であった。
なのでその事で憤る事はない。
あの男が私を必要とする事がないと言う事が解ったからである。
あの男にとっては優しさのつもりであり必要のないことなのでしょう。
現にあの男は降雨などで川の氾濫が頻繁に起きていたグーマ王国を山沿いにダムを設けたり河川敷に土手を設けたりと治水事業に取り組んだ事でここ十年近く川が氾濫したと言う話がない。
それに外交も優秀なようで各国と友好的な関係を結ぶことが出来、民からは賢王と尊敬されている。
そんな男の隣に私がいるなど誰も知らないだろう。
外交でも挨拶を交わした後はあの男より後ろに立たされ私が言葉を発する事はない。
あの男は私を子を産むだけのために婚姻したのでしょう。
あの男の期待通り三人の王子と三人の姫を授かる事が出来た。此だけの子がいれば跡取りの心配がないのでしょう。第三王子が産まれて8年ほど経つがあれからそういった行為すらもなくなった。
私は諦めたの。何もかも諦めた私の気分は楽になったが、食べる気力もなくなると体も徐々に軽くなってきた。
そんな私を心配してくれるのはリシャラテしかいなかった。
リシャラテは私の家族より家族。
そんなリシャラテを処罰すると言う。
私の意見は相変わらず通ることはなく、リシャラテが処分される事になった。
それでも私は今まで通り諦めるつもりはない。
次に選ばれた聖女の話を聞いても意見を変えない夫に見切りをつけ今はヌマーダ領主館にいる。
「御免なさいね。手紙で書かせて貰った通り私はもう王妃である必要がないの。だから最後は自由に過ごしたくて此方で静養しに来ましたの」
「ルサールカには本当の娘かのように大事にして頂きましたし、再び一緒にいられるかと思いますと嬉しいのですが、王妃はルサールカ様しかおりませんのでそんな悲しい事言わないで下さい」
「あら、本当の事よ。外交も期待されない。政策も期待されない。子を産むだけであった私の価値は8年前に終わったみたいですもの」
「ルサールカ様・・・私にとってルサールカ様は必要な方です。
此方では一緒にヌマーダ地方を廻りましょ。空気は綺麗ですし、溢れる温泉はお肌に良いみたいですよ」
「あら、楽しみね。そう言えば、使用人の住まいまで申し訳ないわね。私が助けられる命は此が精一杯なの。これ以上動かすと王都に暴動が起こる恐れがあり王に反対されてしまう。私に力がもう少しあれば良かったのでけど、頼りない王妃で御免なさいね」
「そんな事ございません。ルサールカ様は最後まで私の事を信じて下さいました。私の方こそ今の信用をもっと得ていれば神託も信じて貰えたかと思うと皆に申し訳なく思っております」
「貴女のせいではないわ。あんなに判断を間違える事がなかった夫がこんな愚行するなんて信じられないわ。でも嬉しいわ全ての使用人を引き受けて貰えて」
「お手紙頂いた時は驚きましたが本当に2万程の人が来られるとは思いませんでした」
そう、ルサールカが使用人として連れて来たのは2万程いた。
表向きには使用人の家族達と言われている人達や全く関係が無いものもいる。それらの者も王妃に関わりがある人物として来ているがそれでも2万人は多い。
王妃が言われた通り様々な伝や方法を使い限界まで頑張られたのでしょう。王妃は滅ぶと神託された王都から一人でも多くの命を助けたかったのかもしれない。
王妃は知らない。
領地の開拓は王妃周辺だけではない。
いや、王妃周辺よりも他の地の開拓の方が広く行われている。
王妃は気付いていない。
王妃が療養でヌマーダにと公表された以降、ヌマーダへの移住希望者が凄まじく多い。
元々あったヌマーダの空家は全て売却済みとなってしまい、開拓により住まいを急増している。
未だ追い付かず待機中の者もいるが、その数は5万人を越える。これ等は王妃の影響が大きい。
王妃の影響は此だけの人を動かせるほど大きかった。
だけど、数年後の滅びの時が来られた時、王妃はこの上なく後悔されるかと思われる。その時は私も一緒に後悔や懺悔をしたいと思う。
─ ヌマーダ王 ─
ルサールカとは12歳の時に婚約し20歳の時に婚姻を結んだ。
彼女に初めてあった時の事は忘れられない。
一目惚れであった。
ルサールカは側でいてくれるだけでいい。
政策等に意見を述べる時があったが、「君が気にすることはないよ」と告げた。君が悩んだり苦労するのを見ていられない。政務など大変な事は私がするので君はただ側にいてくれるだけで良かっのだ。
外交でも彼女が喋れる事は知っているが私は彼女を守らなくては行けないから「君は私の後ろにいるだけでいい」と告げると「はい」と下を向いて返事をした。
だが、彼女は私の側から離れると言う。
私の側から離れると聞いた時は信じられなかった。
私はリシャラテがあまり好きではない。
彼女がルサールカと親しくなってからルサールカは痩せ細ってきた。
リシャラテが何か黒魔術を使ったのに違いない。そうでなくてはルサールカがあそこまて痩せ細る事などあり得ない。
他の理由など検討もつかなかった。
リシャラテの招待が解り処罰したが、その処罰に対し妻が反対した。私の意見に反対などしなかった妻が今回は全く引かない。リシャラテの魔術の影響がまだ残ってしまっているのか?
だが、メヌメールの話を聞いた時は同様してしまった。リシャラテの神託は真実であった?
リシャラテは魔女でなかったのか?
では愛する妻は何故痩せ細ってしまったのだ。
妻は療養としてヌマーダに行く日が決まった。
確かに痩せ細った妻には療養が必要なのだがヌマーダでは簡単に会いに行けないではないか。
だが、既に使用人達を少しずつヌマーダに移住させていると言う。
使用人?2万人も?
妻の考えは解った。だけど、妻がいなくなる事が理解できずに「どうしても行くのか?」と問い掛けてしまった。
その時に妻は「あら、貴方は私の事を必要としていなかったでしょ」と笑みを浮かべていい残すと馬車に乗りヌマーダに向かった。
あの時の笑みは何故か懐かしく感じる。
ルサールカの笑顔はいつから見ていないのだろうか。
妻の最後の言葉と笑みが頭から離れる事が出来ない。
私は何を間違えてしまったのだろうか。
─ とある貴族 ─
ルサールカ様が療養を理由にヌマーダに移住されるようだ。しかも話に夜と2万人程の使用人が少しずつ移住しているらしい。
王妃の考えは解った。
我が領地は王都のすぐ近くだ。
王都が滅びるならわが領地も被害がゼロとはならないだろう。
私も準備をしないと。
そう呟くとヌマーダ侯爵夫婦宛に手紙を書こうとしていた。