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第九話

 朝目が覚める。最近で一番ちゃんと寝た日かもしれない。体を起こす。ベッドでは、もうアリスは起きていた。

「おはよう。アリス。」

「おはよう」

 以前に比べたらだいぶ会話が増えた。声を掛けたら返してくれる。

「今日は何かすることあるの?」

「シルヴィアさんが、手伝ってほしいって」

「そっか。頑張ってね!」

 部屋を出て、階段を下りる。シルヴィアとヴァルは下で寝泊まりしているようだ。黒髪の女性とすれ違う。

「おはようございます…」

「え、うん」

 お互いに驚いて、変な挨拶になってしまった。誰だコイツみたいな顔で見られる。

「何してんだ、二人とも」

 ヴァルが立って不思議な顔をしていた。

「ヴァル。この方は?」

 黒髪の女性に質問される。

「こいつはケイル。一緒に仕事をすることになった。」

「そうなの?失礼。怪しい顔をしていたので。私はサリナ。よろしくお願いします。」

「うん。よろしく。」

 握手をする。怪しい顔って…。

「ケイル。アリスを連れてこい。飯にしよう。」

 アリスを迎えに階段を上がり、もう一度下に下がる。

「おはようございます。お二人とも。」

「おはようございます。シルヴィアさん。」

「…おはよう」

 4人で食卓を囲む。

「あれ?サリナは?」

「ああ、あの人は部屋で食べる。」

「なんで?」

「一切動けない男を連れてて、介護してる。」

「そうなんだ…」

「なんだぁ?朝から辛気臭い顔して。」

「いや、変なこと聞いちゃったと思って…」

「あんまり、他人に気を使いすぎるなよ。余計疲れるぞ。」

「そうだね。ありがとう」

「何か手伝えることない?ヴァル。」

「いや、特に。なんで?どうした急に」

「泊らせてもらったからお礼に何かしたいと思って…」

「だから、あんまり気を使うなって。どうせここに住むことになるんだから。」

「それって、どういう…」

「ああ、そうだ。はい、これ」

 手紙を渡された。

「今朝届いてたぞ。」

 中身を確認してみると

「解雇!?王家の名のもとに、国王軍王都警備隊3階層東地区ケイルを除名とする…!?なんで!?」

「意外に早かったな。」

「ふぁ!?」

「考えてもみろ。兵隊やってるやつは自由に動けないだろ?」

「そうだけど、相談くらいあってもいいんじゃ…」

「あきらめろ。」

「そんなぁ~」

 ショックでご飯の味が全く分からなかった。朝食も終わり、気分転換に外に出る。

「はぁぁぁぁ」

 ため息が止まらない。せっかく王都にきて兵士として立派になれると思ったのに…。

 前から赤髪の人物が歩いてくる。前に見た王子の護衛だ。確か名はリオナーだったか。身長が高く、視線だけで人を圧倒しそうな目つきだ。

「お前か。ヴァルとかいうやつはどこにいる?」

「中にいますよ。どうしたんですか?昨日の今日で。」

「解雇通知が朝来たはずだ。」

「来ましたよ。なんです?あれ」

「見たままだ。そんなことより、王子からの伝令がある。」

「中へどうぞ…」

 ここまでどうでもいいと思われていると流石に不貞腐れる。なんだヴァルといい、リオナーといい、人の人生を何だと思ってんだ。

「こちらへどうぞ。」

 先ほどまで朝食をとっていた机へと案内する。

「リオナーか。もう何かするのか?」

 ヴァルはすんなりこの状況を受け入れた。

「ああ、お前ら愚民に王子からの伝令を伝えに来た。」

「ぐ、愚民…」

「俺より態度悪いぞ。コイツ」

 僕らも席に着く。アリスとシルヴィアはどこかへ行ったらしい。

「まずは、解雇の件だ。軍にいたら扱いづらいのでクビにするそうだ。」

「そりゃそうだ。」

「そんなぁ…」

「報酬は払うそうだ。人数分。」

「当たり前だろ。」

「そんな勝手に…」

「次に最初の御親兵狩りの場所は【ピロニス】。南の上級貴族を落とすそうだ。」

「すぐ行くのか?」

「ああ、ここからだと往復に2か月かかる。他の場所も考えてすぐにでも移動を開始したほうがいいだろう。」

「往復?そのまま移動していった方がよくないか?」

「王子にも考えがあるのだろう。馬鹿どもには分からなくていい。」

「口悪すぎだろコイツ。」

「僕は無職の馬鹿…」

「ケイルが、がっつり傷ついてんじゃねえか!」

「しょうがない。事実を言ったまでだ。」

「なんだコイツ。で、行く人数は?」

「馬鹿どもが何人くるのかは自由らしいが、こちらからは私、フェルガス、王女、王子の4人だ。」

「ちょっと待て。なんで王子が来るんだ?しかも、王女まで」

「王子が来なければ、地方の中級貴族にどうやって話をする気だ。」

「そうか、王子が来れば第二王子派が力を貸してくれる訳か。」

「そうだ。理解できたか馬鹿一号。」

「ああ、次その名前で呼んだら殺す。なんで王女まで?」

「王子が行くと言ったら自分も行きたいとおしゃって。旅行だと思っている。」

「なんだそれ。ガキのわがままかよ。」

「王女はガキではない。わきまえろ、カス一号。」

「お前のネーミングセンスは何とかならんのか?」

「お前らの人選は?」

「俺、ケイル、シルヴィアだ。他は置いていく。」

「そうか。じゃあ、明日出発するから準備しろ。」

 そう言い残すと店から出て行った。

「僕は…無職で…馬鹿で…カス…」

「お前、繊細過ぎるだろ。もっと寛容になれんのか?」

「いや、結構傷つくよ。誰だって」

「ほんとポンコツだな。」

 ヴァルが追撃してきた。泣きそう。

「そうだ。3人だけでいいの?」

「ああ、そんなに連れてけないしな。サリナはエリドアの世話があるし、アリスは連れてけないだろ。」

「確かにそうだね。エリドアって?」

「前に行ったろ?サリナは動けないやつを介護してるって。」

「そうだった。病気か何かなの?」

「原因不明だそうだ。専門じゃない俺らがどうこうできるものじゃない。」

「そっか…。アリスは置いて行って大丈夫なの?地方に逃がしてあげた方が…」

「それも考えたが、適当にほっぽり出したらかわいそうだろ。本人が行きたいところに連れて行ってやった方がいい。」

「出身とか親の話とかした?」

「俺は何も聞いてない。ケイルの方が好かれてるからお前が聞けよ。」

「なんか根ほり葉ほり聞くのはかわいそうかなって。」

「タイミングは任せる。ちゃんと聞いとけよ。」

「うん。シルヴィアさんも連れてくんだね。意外。お店を任せるのかと思った。」

「良いだろ別に。そこは聞くな。」

「なんで?」

「黙れ、この話は終わりだ。」

 ヴァルの地雷を踏んだらしく怒ってどこかへ行ってしまった。

 借りている部屋に戻り、窓辺の椅子に座った。景色が特別いいわけではない。少し通りが見えるだけだ。今日も絶えず人が歩いている。アリスはここに座って何を見ていたのだろう。いや、見張っていたのかもしれない。自分を捕まえに来る何かを。

 やることもないので、部屋を出る。横の部屋から出てきたサリナとエリドアと会う。エリドアは車椅子に座って虚ろな目をしていた。介護が必要という意味が分かった。意識がないのだ。

「さっきぶりね。ケイル。どこか行くの?」

「適当に散歩しようと思って、二人は?」

「エリドアを外に出してあげようと思って。ずっと部屋にいても楽しくなさそうだし。」

「そっか…」

 表情一つ変えることのできない彼に彼女は感情を見ているようだ。ずっと一緒にいると心まで読めるのだろうか。

「ついて行ってもいい?」

「別に構わないけど…そんなに遠出はしないわよ。」

「いいよ。遠くに行くつもりはなかったし。」

 3人で外に出る。昼前なのに食事するところはどこもいっぱいだ。ここで並ばないお店なんてあるのだろうか。

「ヴァルとはいつ知り合ったの?」

 サリナから質問された。

「最近だよ。ご飯食べてたら仲良くなった。サリナは?」

「私はエリドアと放浪生活中に知り合って、一緒に王都に来たの。」

「じゃあ2年くらい付き合いがあるんだ?」

「そうなるわね。あいつは忙しそうにしてるからあんまりちゃんと喋ったことないんだけどね。」

「そうなんだ。」

「あんたが羨ましい。すぐ打ち解けられて。」

「いや、あいつは僕のこと馬鹿にしてるだけだよ。」

「そう?いつも楽しそうだけど。」

「サリナってヴァルのこと好きなの?」

「何?急に。」

「ヴァルの話をし始めたから。なんとなく…」

「そうじゃないわ。露頭で迷っているところを助けてもらったんだから感謝はしてるけど恋愛感情はない。それに私にはエリドアがいるし。あいつはシルヴィアにゾッコンよ。」

「え!?あの二人ってそういう…」

「気が付かなかったの?ヴァルがシルヴィアを見る目他の人と全然違うじゃない。」

「気が付かなかった…」

「そう?わかりやすいと思うけど。あんたたちはどうなのよ。」

「僕たち?」

「そう!アリスちゃんとどうなのって!」

 急にテンションが上がるサリナに驚く。

「驚かした?こういう話大好物なのよ!」

「そうなんだ…でも別に何もないよ」

「何もないことないでしょ。結構いい感じじゃない。」

「そう…なのかな。多少信用してくれてるみたいだけど…」

「なに弱気になってんのよ!女の子はもっとぐいぐい来られた方が喜ぶって!」

「そんなこと言われても…」

「本人に私が聞いてきてあげる!」

「なんでそこまで?」

「だから、こういうの好きなんだって!」

 このテンションに若干引きつつ、歩く。もう出発した花屋が見えたので適当に話を終わらせて帰ることにした。

「サリナとエリドアはどうなの?」

「この状態を見てそんなこと聞くんだ?」

「あ…ごめん。今のは、よくなかった」

「別に良いけど。そうね、エリドアが元気になったら二人でどこかに家を買って幸せに暮らしたいわ。」

 言葉が出なかった。あまり踏み込んではいけない気がしたから。その顔を見る限り、おそらくだがエリドアはこれ以上良くなる気配がないのだろう。3人で店に帰る。

「今日はありがとう。付き合ってもらって。」

 お礼を言う。それくらいしか雰囲気をごまかすことができなかった。

「こっちこそ。いつもは二人っきりだからエリドアも喜んでるわ。」

「それはよかった。」

 サリナとエリドアは部屋に戻っていった。二人の背中を見送り、台所へ入る。ご飯を食べようと思った。昼も過ぎようとしているし、お腹がすいたのだ。

「あれ?」

 シルヴィアとアリスがいた。二人は料理をしているようだった。

「珍しいね、アリスがご飯作るのって。」

「アリスさんはケイルさんにご飯を作ってあげたいみたいですよ。」

「え!?ほんと!?うれしいな!」

 アリスはなんで言うの!?みたいな顔でシルヴィアを見て、こちらに目を向けてくれない。

「なに作ってくれるの?」

「スープ…」

「ありがとう。うれしいよ。」

「…うん。待ってて。」

「うん!」

 言われるまま待つ。椅子に座って。

「はい。できた。」

 トマトと肉が入った野菜のスープ。

「いただきます。」

 一口食べる。家庭的な味で、地元を思い出す。おいしい一品だ。

「…どう?」

「とてもおいしいよ。」

 アリスはうれしそうな顔で厨房に戻っていった。もう一口、さらに一口。口の中になつかしさが広がっていく。初めて父と喧嘩した時にも母が作ってくれたのはこんな優しい料理だった。

「おわかわり貰ってもいい?」

「うん!」

 2杯目を食べているとアリスは僕の目の前に座って自分が作ったスープを食べ始めた。

「そうだ。明日から僕はしばらくかえって来られそうにないから」

 その続きを言おうとした瞬間、エリスの目には何を見得ているのか分からないくらい暗くなった。


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