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第八話

 昼前の空気。普段なら暖かく居心地がいい。しかし、この場ではその限りではない。殺伐とした、意見交流会とでも言おうか。この話し合いが終わるころには誰がどう感じるのか。想像もできない。ただ、それぞれの声だけが交差していく。

「まずは俺の疑問に答えてもらいたい。王子殿。」

 ヴァルが声をかける。味方になると言った以上少しは、態度を改めたらしい。

「〈魔王〉とはなんだ?」

「質問の意味が広すぎるけど、何が言いたいんだい?」

「俺は15の時、東の大陸に行ったことがある。」

「何!?」

「ほう…」

 思わず椅子から立ち上がってしまった。王子は興味深そうに、にやついている。

「生還者なんて聞いたことがないぞ。」

「落ち着きたまえ、ケイン君。ヴァル君話の続きを。」

「討伐隊に志願した俺は、東の大陸へと上陸したが、〈魔王〉どころか、草木が生い茂り、生き物が静かに暮らしている自然豊かな土地だった。あそこに〈魔王〉がいるなんて想像もできない。一番奇妙だったのは、夜眠るためのキャンプ地だ。数百年、人員を投入し続けたにしては綺麗すぎる。」

「一晩で毎回全滅していたんじゃないのか?」

 ここで質問をしてみる。

「じゃあ、なんで道具も何も落ちていなんだ。雑草が生い茂っていて、まるで新品だったぞ。そして、朝になるとそこにいたはずの数百人の討伐隊がすべていなくなていた。」

「!?」

「なるほど…」

 相変わらず王子は落ち着いている。何か知っているのだろうか。

「船もそのまま、荷物も置きっぱなし。なぜ、一晩であんな人数の人間が消えるんだ?」

「そのまま帰ってきたのかい?」

 王子がここで質問をする。

「ああ、大陸を一人で探索するのは無理があるし、地図もない。どうすることもできなかったから帰ってきた。」

「なるほどね。でも、私が知っていることはほとんどない。」

 王子はまだ興味深そうに、にやついている。

「じゃあ、なんでそんなに落ち着いてる。嘘をつくようなら、俺は手伝わないぞ。」

「知っていることは何もない、でもある程度予想していた。」

「予想?」

「うん。東の地に何もないことはね。なにもないというより、隠しておきたい何かがあるのだろうね。でなければ、〈魔王〉なんて架空の生き物がいる嘘をつく必要がない。」

「そうだな…隠したい何か…。でも、隠しておきたいな、なぜ毎年人員を送る?ほかっておけばいいだろ。」

「そこだよ。問題は。なぜ、人を送ることにこだわるのか。なぜもっと多くの討伐隊を組織しないのか。生存者0の謎。あげればきりがない。」

 〈魔王〉なんて存在しないことだけが事実としてある。これ以上は誰も知らない。ならばどうするのか。

「この際、そんなことは置いておこう。一度にたくさんのことを成そうとするとうまくいかない。今は、王位と奴隷だけで十分だ。」

「そうだな。あと、戦力について確認しておきたい。そこの赤髪の護衛。そいつも『能力者』だろ。」

「そうだ。彼は、第三王女セラフィナの護衛でリオナーという。仲良くしてくれ。それに君たちも『能力者』だろう?」

「ああ、俺はそうだ。」

「申し訳ありません。私はなんのことだか…」

 以前訪れた時にも同じ質問をされたが、ピンと来ていない。

「ケイル君が保護した少女。陰ながら護衛させていた。その時に、君が力を使ったと報告を受けてね。」

「あれは…」

「分かっている。無意識なのだろう。でも、現実として君は『能力者』だ。報告を聞く限り、風をどうこうするものなのだろう。人間を一瞬で殺れるその力は、ぜひ欲しいと思ってね。君を呼んだ。」

「ですが、あれが初めてで…なにがなんだか…」

「大丈夫だ。いつか使いこなせる。あとは?」

 誰も何もないようだ。

「なければ今後について話そう。君たちには御親兵の解体をまずやってほしい。」

 御親兵。上級貴族が持っている独自の部隊だ。国王軍所属ではなく、上級貴族の命令のみに働く。御親兵の選出は貴族自身が行い、人員に口を出すことは国王にだってできない。

「邪魔な私を暗殺しようと目論んでいる者も少なくない。それに、もし私が王になれなくても御親兵だけ解体しておけば悪さもできなくなるだろう。」

「だか、一人一人相手していたら時間がかかりすぎるぞ。どうする?」

 僕もヴァルと同意見だ。あまりに時間がかかるし、規模も分からないのにどうやるのだろう。

「それについては問題ない。いくつか考えている。実行する前に伝えよう。今日は楽しい茶会であった。礼を言う。」

「そうだな。いろいろと準備するものがありそうだ。これで、解散しよう。」

 僕とヴァルは立ち上がり帰路に着こうとする。

「今後は使いを送る。それに従ってくれ。」

「本日はお招きいただきありがとうございました。失礼します。」

 頭を深く下げ、中庭を後にする。

 3階層に戻ったところで、

「ケイル。少し話さないか?」

「良いけど、どこで?」

「俺の花屋だ。」

 店までついて行き、お店に入る。

「おかえりなさい。」

「ああ、ただいま。」

「お邪魔します。」

 以前もいた店員さんが出迎えてくれた。きれいな青髪に気品のある立ち振る舞い。どこか貴族のようなものを感じる女性だ。

「少し、彼と話してくる。彼女連れてきてくれた?」

「ええ、2階にいらっしゃいます。」

「分かった。ありがとう。」

 2階へと案内され部屋に入ると。銀髪の少女がいた。窓から入った太陽の光で照らされた顔はどこか儚げな印象を受ける。

「アリス?」

 向こうもこちらに気が付いたようで。

「…ケイン」

「なんで感動の再開みたいな空気出してんだよ。お前ら。こっちが気まずいわ。」

「なんで、アリスがここに?」

「ケインが住んでるところだといろいろと不便だろ?だからここへ連れてきた。」

「正直助かるよ。どうすればいいか不安だったんだ。彼女をずっと閉じ込めて置くわけにもいかないし。」

「それはよかった。この部屋は好きに使ってくれ。」

「ありがとう。ヴァル」

「ああ」

 ヴァルはベッドに座る。

「ここで話すの?」

「ここしか、空いてる場所がないからな。」

「そっか…」

 壁にもたれて、ヴァルの正面に立つ。

「で?話って?」

「ああ、さっきのことだ。どう思う?」

「どうって言われても…僕はやるつもりだけど。ヴァルはやる気じゃないの?」

「そこじゃない。信用できるかどうかだ。俺はここで表向きは花屋をやっているが、裏では奴隷になってしまった人たちを地方に返すことをやっている。奴隷排斥には大いに賛成だが、本当にそんなことを考えているのか不安だ。」

 そんなことをしていたのか。窓際でアリスが不安そうな顔でこちらを見ている。笑顔を返すと外を向いてしまった。ちょっとショック…。

「裏切りが怖い。最悪俺はどうなってもいいが、これまで地方に返してきた人たちのことを考えると…」

「そっか、意外に考えているな。」

「はぁ?どういう意味だ?」

「いや、最初ひどい態度だったから。」

「それは、奴隷の多くは貴族や王宮から逃げてくる。そんな胸糞悪いところに呼び出されたら誰だって顔をしかめるだろ。」

「そうだ!なんで、自分が呼ばれたってわかったの!」

「ああ、それか。お前に花を買ってもらっただろ?あれは、俺が『能力』で作ったものだから、大体の事情は把握していた。それに、あの日少女が訪ねてくると聞いたが訪れなかったから様子を見に行った時に偶然見たからな。」

 おそらく僕が『能力』を使ったところを見たのだろう。

「そこから、なんとなくな。」

「『能力』について教えてほしい。」

「詳しくは俺も知らん。ただ、普通の人間にはできないことができるとしか。」

「大雑把な説明…。」

「知らないものはしょうがないだろ。」

「ヴァルはどうするの?手伝わないの?」

「いや。もちろん手伝うが、雲行きが怪しくなった瞬間俺は逃げる。正直王族がバックにいれば、情報が入りやすくなるし、この先仕事がしやすくなる。」

「そっか。第三王女の話はなかったけど、どうしてだと思う?」

「それは、単純に現国王に選ばれなかっただけだろ。それに今まで女性が王になったことはない。だから、王女はこの話から除外して問題ない。」

「なるほど。物知りだね。」

 正直そうだと思っていた。王女はあまり、権力に興味がないような印象を受ける。それなのに王子が王女を連れていたのは、おそらく貴族サイドを仲間に引き入れるのは不可能だとわかっていたから王家の人間を仲間にしたのだろう。

「お前が知らなさすぎるだけだ。お前、優秀なんだろ?軍では。」

「書類の上だけね。」

「そっか、お前ポンコツか」

「もっと言い方考えてよ、傷つく。」

「悪い、嘘をつくなって教えられたから。」

「酷い。今後は違う花屋の常連になることにする。」

「うちのカモが逃げるんじゃねえ。」

「誰がカモだ!」

 二人で笑う。以外に相性がいいのかもしれない。

「よろしくな。ケイン。」

「うん。よろしくヴァル。」

 握手をする。

「宿舎に戻るのか?」

「そのつもりだけど?」

「いや、アリスちゃんがケインがいないと寂しいって泣いてたから」

「え!?」

 アリスが顔を真っ赤にしてこっちへ来る。

「…もん」

「え?」

「そんなんじゃないもん…」

 顔を下に向けていても分かるくらい真っ赤だ。耳まで真っ赤になっている。

「そうなの?じゃあ、僕は帰るね。」

 顔を上げて睨んでくる。

「ええっと…」

「泊ってけよ。こっちが気まずいわ。」

「分かった。今日は泊まらせてもらうよ。」

 アリスは少しうれしそうな、恥ずかしそうな顔をして、急いで元座っていた椅子に戻っていった。

「ベッドはいっぱいだが、布団くらいなら貸してやる。」

「ありがとう、何から何まで。」

 ヴァルは布団を持ってきて部屋においてくれた。

「ケイン、今日の仕事は?」

「僕は明後日まで休みだよ。急に連休を貰って。」

「そうか、シルヴィアがもうご飯を作ってくれているはずだから二人とも来いよ。」

 そう言われ1階に降りてご飯を食べる。

「彼女はシルヴィア。ここの店員をしてくれてる。」

「よろしくお願いします。ケイン様、アリス様。」

「様はやめてくださいよ。お邪魔させていただいているのに。」

「そうですか。かしこまりました。」

 簡単な挨拶だけして、会話をしながら食事をする。最近賑やかな食事をしなかったため、いつもよりもおいしく感じる。

 食事が終わると流石に疲れがたまっているので睡眠をとることにした。部屋に戻り、アリスはベッド。僕は床に布団で寝る。初めての場所なのになぜか安心感があり、気が休まる。今日はどんな夢を見るだろうか。


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