第六話
なぜか急に三連休を貰った。王子との会話の後、班長から直接言われた。
「お前、妹居ないらしいな」
「あ…」
「俺に嘘をつくとは良い度胸だな。」
「いや、ええと…」
どう説明しよう…。どうにかこの状況を切り抜けなければ。
「まあ、いい」
「?」
「どうせそんなことだろうと思った。彼女の顔を見たときに大体察した。」
「察した、ですか?」
「ああ。胸糞悪い話だ。だから、軍のやつには声をかけずに俺の家で、妹にお風呂に入れてもらった。」
「ありがとうございます…」
「いや、礼はいい。だか、気をつけろよ。あの手の件に首を突っ込んで一生昇進できないやつもいる。殺されたって話も珍しくない。」
「なんで、そんな…」
「言いたいことはわかるが、俺ら程度の力では何ともできん。俺は知らないという体で風呂くらいなら貸してやる。」
「ほんとですか!?」
「ああ。その代わり何かあったら絶対に相談しろ。知らん間に首を切られるのは嫌だからな。」
「もちろんです。ありがとうございます。」
「もう、今日は休め。」
「はい!失礼します。」
班長の会話後部屋から出て自室へと戻った。流石に眠い。こんなに動き回ったのは初めてだ。ベッドに飛び込みたい…
自室の部屋を開け、中に入る。ベッドの方に近づくと銀髪のかわいらしい少女が眠っている。服が変わっているのを見ると、班長の家からなにかいただいたのだろう。気持ちよさそうに眠っているので僕は床で眠ることにした。
硬くて冷たい床に、妙に落ち着く自室の雰囲気。服を枕代わりにして、夏に使おうとしていた布団をかぶって眠る。
腕に何かが押し付けられる。熱くて涙を流すが、声を出すと殴られる。7歳程度の男の子と4歳程度の女の子が半裸で煙草を押し付けられている。煙草を押し付けている人物は30歳手前くらいの女性だ。泣いている子供を前に「うるさい」と声を荒げ殴る。これで何かが解消されるとでもいうのか。なぜ、こんなことになるんだろう。殴られて床に転がる。暖かくて柔らかいと感じる床に、一時も安心できない雰囲気。僕はこの女が嫌いだ。
目が覚める。また同じような夢を見ていた。熟睡はできなかったが、ある程度疲れは取れた気がする。夜中の中途半端な時間に起きてしまった。体を持ち上げて、立ち上がるとアリスも起きていた。
「おはよう。よく眠れた?」
「うん。寝れた。」
「よかった」
ここにきて初めてちゃんと会話した気がする。
「その服似合ってるね。班長の奥さんにいただいたの?」
「うん。貰いました。」
「そう。よかったね。お腹すいた?何か食べる?」
「うん」
昼間に買っておいた食べ物を机に並べてお互い好きなように食べる。アリスを座らせて、立ちながらご飯を食べる。
「あ…とう」
「ん?どうかした?」
「ありがとう」
恥ずかしそうな、弱い声だったけどはっきりと聞こえた。
「どういたしまして。でもそんなに気を使う必要はないよ。兵士として当然のことをしたまでさ。」
「…うん」
一応お礼を言われるくらいまでには信用してくれているらしい。もうすぐ夜も明けそうだし、この連休中にいろいろとなんとかしなくちゃな。
「僕は明日休みにしてもらったんだけど、探す人がいて夜までには帰れると思うんだけど。アリスはどうする?あんまり街中に出たくないでしょ?」
「うん。ここにいる。」
「そっか。また班長にお風呂貸してもらえるように頼んでみるよ。」
「うん」
アリスは地方に逃がしてあげるのが一番いいだろう。でも、ひと月ほどの長旅ができる体調ではなさそうだ。しかも、一人でどこか行かせるのは危険すぎる気がする。どうしたものか…。
「家の中にずっといても暇だろうから何か買ってきてあげるよ。」
「ありがとう…」
アリスのことは隊長に相談するとして、手紙の探し人を誰か特定するのは難しいだろうな。王都の人口は多い。多すぎる。この中から特定するのは不可能に近いだろう。しかも、個人に対する命令ってことはあまり大事にしないでくれということでもあるんだろう。
「お花…」
「ん?ああ、ここへ来たときに買ったんだ。知り合った人から。花好きなの?」
「うん、綺麗」
「そっか。また、買ってくるよ。」
あまり考えても仕方がない。行動あるのみだ。食事を終え、日が少しずつ出始めたので少し街に出ることにした。
「少し出てくるよ。」
「行ってらっしゃい」
部屋を出て、歩き出す。まだ、昼間ほどの人はいないがそれでも多いと思もう。あまりいろいろと聞ける間柄の人物がいないので、花屋に行くことにした。あまり気は進まないが、今は何でも情報が欲しい。
東側の2階層と3階層の門の前まで来た。流石にまだお店はやっていないらしい。どこかで時間を潰さなければいけないと考えていると。
「どうも。ケインさん」
「ヴァルさん…」
「そんなに警戒しないでくださいよ。傷つくな~」
「いえ、以前は失礼な態度をとってすみませんでした。」
「良いですよ。多分誤解があっただけですし。」
「誤解?」
「手紙を持ってきたんじゃないですか?」
「なんでそれを?」
「まあ、細かいことは良いじゃないですか?」
「細かくないでしょ…」
「もういいや。ケイン。早く手紙を出せ。」
急に敬語がなくなり、前みたいな冷たい声色へと変貌する。それに驚きながらもしぶしぶ手紙を渡す。
「なるほどね。」
手紙を読みながら独り言をつぶやいている。
「ちょっと待て。シルヴィアに声だけかけてくる。」
「え、うん」
それだけ言い残して店の中に入っていった。すぐに出てくると
「じゃあ、行こう。」
「どこへ?」
「鈍いな、まったく。第二王子のところだよ。あと、もう敬語とさん付けなしにしよう。面倒くさいし」
「う、うん」
二人は歩き始めた。まだ、太陽の明かりが満ち切っていない道を。