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第三十八話

 目を開けるとトーマスが居た。

「ケイル!大丈夫か!」

「ええ。大丈夫です。」

「よかった。何があったんだ!?いきなりこいつが死んで…」

「大丈夫ですよ。もう、終わります。」

「何言って…」

「おい。」

『どうしたんだい?』

「敵を殺して欲しい」

『いいよ。ヌルって子は君と話がしたいみたいだけどね。』

「分かった。」

『じゃあ、始めるよ。』

 本当に実行されたのか分からない。ただ、血の匂いだけが王宮に充満している。

「トーマス先輩はエラリアたちと合流してください。」

「そ、そうか?」

「はい。もう、勝ちです。」

「わ、分かった。」

 困惑しているトーマスは外へ歩き出した。

 部屋を出ると肉塊だけの異様な光景が目に入る。

「おい。」

『なんだい?』

「ヴァルとエリドアとリオナーを集めてほしい。」

『いいよ』

 3人が瞬間移動してくる。

 何が起こったのか分からない3人を連れて、王の間の奥へと進んでいく。

「ケイル、お前…」

「どうしたのヴァル?」

「いや、何でもねぇ。」

「そう?」

 王の間の奥には女性が座っていた。黒い髪の毛を地面に垂らし、素足で歩いてくる。

「そうですか。あなたが『万能』の」

「あんたが女王だな。」

「ええ。私がヌル。お話をしましょう。」

「そうだな。」

「お三方はここで待っていてください。」

「戦わねぇのか?」

 ヴァルが剣を抜いた状態で質問する。

「私では『万能』には勝てません。無駄死にする前に答えあわせしましょうか。」

「大丈夫。3人ともここで待ってて。」

「あ、ああ」

「分かった。」

「気を付けるっすよ。」

 静かにうなずき、ヌルに続いて歩く。

 案内されたところは王宮の地下だった。小さな机があるところに座り、お茶を提供される。

「彼ら強かった?」

「彼ら?」

「あなたたちが戦った御親兵。」

「強かったよ。」

「嘘。」

「?」

「私が作った模造品よりも神から与えられた『能力』の方が強いに決まってる。」

「意味が分からないんだけど。」

「彼らの『能力』はね、私が作ったの。『創造』はどんなものでも作ることができる。『能力』でさえも。生物でさえも。」

「じゃあ、」

「そう。あなたたちが戦った彼らは私が作った生成物なの。『能力』も作り物。そんな彼らが勝てるわけないと思った。だから、こうなることは予想で来ていたの。」

 お茶を啜りながら、何かを考えている彼女は疲れ切っている表情だ。

「300年前。戦争があったんだ。この地で。」

 悲壮感あふれるその口ぶりに引き込まれる。

「そこで私たち共和国は負けた。それも完全に。戦争の始まりは簡単な話だった。我々、共和国は様々な種族が存在していた。エルフ、獣人、ハーピィ。名前をあげるときりがない。でも、敵国は人間だけ。人道主義って彼らは呼んでいた。人間こそが最も優秀な種族であり、この地を支配するのに適しているとね。」

 泣きそうな、笑っているような、あきらめがついているようなその顔は、誰にも拭えない悲しみを背負っていた。

「彼らは『魔法』と呼ばれる力で戦況を有利に進めていた。我々にはその技術がなかった。だから負けた。そして、共和国人の多くは処刑されあの国は終わった。でも最期に私は神に出会ったんだ。その神に力を貰って、ある計画を進めた。」

「計画?」

「そう。共和国を復活させる計画をね。それにはかなり多くの素材が必要だった。国を興そうとするんだ。一万や十万では足りない。そんな数の人間を集める必要があった。そこで思いついたのが奴隷と〈魔王〉を使った素材の調達だよ。」

「そうか…」

「東の土地に〈魔王〉なんて最強の生物が居れば討伐したいなんて輩はごまんといる。毎年、数百人の素材を集めることに成功していた。それと同時にやっていたのが奴隷の収集だよ。奴隷制を展開することで、どこで誰が居なくなっても不思議に思わない。この二つを同時に行うことで、300年で10万人ほどの素材が集まった。御親兵が君たちとの闘いの中で多少使っていたとしても問題ないと思っていた。」

 そうか。すべては人間を『能力』の素材とするための物だったのか。

 一つ分かった。『スペア』は素材となった人間の体を自分に移植することで回復していたように見せかけていたのか。

「もう少しだった…。もう少し私に道徳が欠けていれば…。もっと大胆に行動するべきだった…。」

「…」

「もう少しで悲願が達成できたのに…。もう少しでみんな元に戻ったのに…。」

「なんで、最後に戦わなかった?」

「『能力』はね、儀式なんだよ。精霊に生物の体を捧げることで現実を否定してもらう。君の『万能』はその精霊と会話ができる力でね。精霊が君に協力している間、他の『能力者』は力が使えない。そんなのに勝ち目があるわけないでしょ…」

そうか。戦艦に素手で立ち向かうようなものだ。あきらめるしかないこの状況を理解したうえで、納得できていないのだ。この女王は。

「私を殺せば君たちの勝ちでしょ?早く殺ってよ。もう、私には希望がない。」

「そうだな…どんな理由であれ、こんなことを許してはいけないと思う。」

「そっか…」

 剣で振りぬいたその首は、300年生きていたとは思えないほどきれいだった。血しぶきを浴びたその体は力が抜けた人形のように地面に転がる。

 僕も疲れた…。いきなり記憶を頭に移植され、飛躍した話を耳から入れられる。疲労感が体をむしばんでいく。地面へと転がる。


「ゲームクリア!!!!!!!」

 拍手をしながら金髪の幼女が歩いてくる。

「いやぁ、良いね!!よかったよ!最高の映画を見た気分だよ!レビューにはなんて書こうかな!」

「お前…」

「本当にうれしいよ。僕はこの空間から解放される。彼と共に。」

「最期になったら答えを教えてくれるんだろ?」

「答え?」

「このシナリオは、いや運命はお前が仕組んだんだな。」

「へぇ…今日は頭が回るね。」

 満面の笑みが消え、不吉な笑顔が顔に張り付いていた。

「そうだよ。僕があの日。管理人になった日、精霊からことのすべてを思い出させてもらった。管理人は生物だったころの記憶を消される。唯一僕だけがすべてを覚えていたんだ。だから、運命のレールを引いた。」

 淡々と話す。まるでマニュアルでも復唱しているかのように。

「レンジが管理する惑星で、レンジの『権限』を少女に強制的に移植して行動を始めさせた。そして、300年。君たちと波長が合う王家の人間が誕生するまで待った。産まれたと同時に君たちを召喚という形で子供として転生させた。奴隷反対という大義名分を得た君たちは戦場に出た。そこで、彼女たち4人を殺すために運命を書き換えたのさ。君たちがここまでたどりつけるように。」

「そうか…」

 これくらいしか感想が出なかった。

「運命のレールは綺麗に作動した。ヌルを殺すためのこの戦いは幕を閉じる。僕のシナリオが成功した形で。安心してよ、地球の時間は止めてある。君たちが目を覚ますと元の生活に戻れるよ。」

「なんで僕たちだったんだ?」

「それは簡単な話だよ。僕が運命を変えたんだ。あの日。王子ルシアス・アルカンシアが産まれると分かった日。事故を起こさせたんだ。君が轢かれたあの事故は僕が仕組んだものさ。あの事故で運命が変わるであろう8人を召喚した。ちょうどよかったからね。8人というキリのいい数字が。何より都合がよかった。」

「都合...」

「君たちは死ぬという運命から逃げたんだ。そのため、善行を積む必要があった。運命の鏡写しである彼女らを君たちが救済することで、運命から許されるんだよ。前世でいいことをすると来世で優遇されるって言うでしょ?そんな感じ。君たちは見事にやって見せた。そして、『権限』を与えた。母親から花のように扱われている彼には『花園』を。自分で自分の時を止めた彼には『遅延』を。一般を羨み、嫉妬した彼には『焔』を。他人からすべての可能性を奪われた君には『万能』をそれぞれ与えたんだ。生物に『権限』を与えるには生い立ちを考慮しなくてはいけないからね。」

「なんでこんなことを...なんでここまでいなきゃいけなかったんだ!」

「君はなにか作品を見たことあるかい?」

「作品...?」

「そう。なんでもいいよ。漫画、アニメ、映画、ドラマ...いろいろあったよね地球では。それらの中には選択肢があるよね。」

「何が言いたい?」

「例えば、地球を救うかヒロインを助けるか。みたいなさ。」

「だかr」

「もちろん素直にこの二択から選ぶ作品もある。三択目を作り出す作品だってある。でも、本来なら選ばなくちゃいけないんだよ。3番の答えなんてないんだよ。僕は彼を選ぶ。生まれ育ったこの地ではなく。彼との未来を選ぶ。その結果多くを地獄に落としても。何を犠牲にしても。何に恨まれても。僕...私はこの選択が一番だと考えているから。」

「...」

 声が出ない。出そうとした言葉が音にならない。

「『万能』の『権限』は返してもらったよ。これでこの空間は僕の支配下だ。君たちにこの選択を肯定してほしいとは思わない。巻き込んだから話しただけで。これ以上は何も期待しないよ。」

 目の前のアリスが立ち上がる。他の女性陣も立ち上がる。椅子が消え、背景に扉が刻まれる。体が勝手に動く。アリスの手を掴んで扉まで歩いていく。声もなく。体が自然に。

「パートナーと一緒に扉から出ると良い。君たちの魂は元の体に戻れるよ。」

 扉に手をかけ、開かれる。

「君たちはこれ以上この惑星に滞在することはできない。『権限』は返してもらった。これで君たちはあの惑星で体を保つことができなくなった。『権限』を付与することで、君たちの魂を惑星にとどめることができたんだから。」

 一歩目を踏みしめる。背中から声が聞こえる。

「君たちとはもう会うことはないけれど、応援しているよ。ここまで非道な行いをしたからね。応援している。君たちが人生をやり直せることを。ただの生物としてね。輪廻の輪の中でまた会おう。」

 身勝手な正義はこの世を去らなければならない。正義を語ったつもりの僕たちは多くのやり直しの利かない人々を地獄に残して。


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