第三十七話
・エリドア視点
王宮は部屋数が多すぎる。本当にすべて使っているのか疑問に思う。
「君はいつか、僕を殺した子だね!」
部屋を開けると、黒髪の男が立っていた。
「だれっすか?」
「忘れるなんてひどいな!『肯定しよう!君の無礼を。』」
「なるほど。『能力者』っすね。」
「『肯定しよう!その質問を。』そうだよ。『全肯定』。これが『能力』さ。」
「一瞬で負けて死ね。」
ドスが効いたその声で威嚇する。
「『肯定しよう!その発言を。』『肯定しよう!君の』」
「『遅延』」
前に聞いた。この『遅延』は戦闘向きではないと。そうだと思う。だって、集中を少しでも失うとすぐに時間が進みだしてしまう。これが欠点だった。なら、この欠点を補うならどうすればいいだろうか。
ずっと考えていた。世界の時間を止めるのではなく。ここだけ。ほんの一部だけ止めることはできないだろうか。例えば、この部屋だけとか。
部屋の大きさは大体把握していた。この部屋だけ、時間を止められるように調整した。それなら、集中力はさほどいらない。
止まっている空間の中でオイラだけが動ける。剣を抜き、首を落とす。これほど簡単な作業はない。
時間が進み始める。首がなくなったことも理解していないその男は、まだ何かをしゃべっていた。それを無視して部屋を出る。扉を開けると暗い空間が広がっていた。
・ケイル視点
「『浅はかですね?戦い方も忘れてしまうとは』」
以前のようには行かない。心の隙にもぐり込まれる前に方を付ける。
剣を抜き、向かって行く。
「学習したようですね。少しは賢明に見えます。」
二対一の攻防。トーマスの剣が最初にドライを捕らえる。後ろから近づくが蹴りが飛んでくる。トーマスは攻撃をやめない。音だけが鳴り響く。
隙をつこうとするが、ドライは多対一に慣れているのか全然攻めきれない。焦りが自分を追い込む。
「『浅はかですね?立ち方を忘れてしまうとは。』」
足が震えはじめ、その場に座り込んでしまう。しまった。やられた。
トーマスはそのまま剣劇をやめない。座りながら、ドライにナイフを投げる。剣ではじかれるが、その隙をトーマスは狙っていた。ドライの剣を奪い、首を落としに行く。
「『浅はかですね?剣の握り方も忘れてしまうとは。』」
トーマスの剣が手から離れ、どこかへ飛んでいく。
「ふふ。」
ドライは不吉な笑みを浮かべ、トーマスの頭を力ずくで引き抜いた。血が飛び散る。その光景を僕の頭では理解できなかった。
「な、、、トーマス?」
転がった生首に話しかける。返事が返ってこない。
「終わりです。浅はかですね。一般人の分際で戦うことを選択しているところが愚者なのです。普通は逃げなくてはいけない。」
なんで、なんで、トーマスが、返事をしてくれない、どうしてだ、どこで間違った、なんで、どうして、
『呼んだかい?』
いつか聞いた声を思い出す。夜の街中、アリスと出会ったあの場所を。
「トーマスが…」
『彼が死んで悲しいのかい?』
「なんで…」
『そっか。助けてあげるよ。』
トーマスの体と首がつながり、目を覚ます。トーマスも困惑している。
「なんです!?」
『彼のことを助けてあげたよ。』
「あ、ああ。」
『次は何をしたい?』
「答えるのです!何をしたのですか!?」
『どうしたいのか命じて。』
「こいつを排除してほしい。」
『うん。分かった。』
ドライが木っ端みじんになった。生臭い匂いと共に肉片が宙を舞う。なんだろう。何も感じない。意識が記憶に引っ張られる。
強い衝撃を受けながら、眠りについた。
我が家は虐待がひどかった。暴言、暴力。みんなが想像できる限りのことはすべて経験したと思う。大切にしたい家族が一人だけいた。妹だ。この子には真っ当に生きてほしい。そんな風に考えていた。いや、依存していたのかもしれない。
自分が経験できないキラキラした生活を妹がすることで自分を救済したかった。言い訳をしたかった。自分は壮絶な過去を持っているのだから、未来に期待してはいけないと。変わる努力を捨てた。
中学を卒業して妹と二人で家を出た。今時、中卒を雇ってくれるところを探すのは大変だった。誰も知らない町工場。そこはオアシスだった。真面目にしていれば殴られないし、暴言を吐かれることはない。
さすがに工場だけの給料だけでは十分に暮らせなかったので、バイトもすることにした。昼は工場で働き、夜はコンビニでバイト。
妹が高校生になった。妹もバイトすると言っていたけど、勉強してなさいと一喝してしまった。自分の役割を奪われたくなかった。自分を必要としてくれている何かが支えだったから。
妹が大学を卒業する。今日は早く帰りたい。横断歩道を渡る。
「危ない!」
横を見ると車が突っ込んできていた。一瞬の静寂。流れ出す様々な記憶。そっか、僕は救われるのか。
・エラリア視点
家の中には誰も入れていない。村の人も気を使って近づいてこない。3人で同じ部屋を占拠している。誰も失いたくない。これが総意であると思っているから。
「二人とも大丈夫ですの?」
「大丈夫」
「エラリアは少し休んだ方が良いよ。」
「なぜですの?」
「気負いすぎはよくないよ。」
「そうですわね。」
アリスが心配してくれている。
「お茶でも淹れようか?」
「いえ、私が淹れますわ。みんなで移動しましょう。」
「分かった。」
アリスが立ち上がった時に思いがけないことが起こった。
「アリス!」
「お姉ちゃん!」
アリスが全身から血を吹き出しながらそこへ倒れた。
「アリス!アリス!!」
体を揺すって返事を期待する。
「リオン!何か布を!」
「う、うん!」
正直止血できるレベルの傷じゃない。いきなりなんで!?何も食べていないし、近くに人は見えない。なんで!?
「アリス!アリス!!」
返事がない。この血の量を見ると死んでいるのかもしれない。
「アリス…」
もう息もしていない。『能力者』が近くに居るのかもしれない。だとしたらリオンが危ない。
リオンを迎えに行こうとした時に、泣きそうな顔のリオンが走ってきた。
「お姉ちゃん…大丈夫なの…?」
もう助からないと言えなかった。無言でリオンを抱きしめる。胸の中でリオンは泣いていた。声を荒げて。もう会うことができない姉に対して。
久々に再開した姉がすぐに遠くに行ってしまった、彼は誰を恨んでしまうのだろうか。誰を頼るのだろうか。私に彼の悲しみを拭えるのだろうか。
嗚咽と泣き声のこの空間は誰かの幸せの糧になってしまうのだろうか。
・ケイル視点
見覚えのある空間に飛ばされる。4つの椅子が並んだ暗い部屋。目の前にはアリスが座っている。シルヴィアの前にはヴァルが。サリナの前にはエリドアが。セラフィナの前にはリオナーが。それぞれ並んでいる。
「ふふふ。」
金髪の幼女がこちらに歩いてくる。笑いながら。
「ふふふ。」
「何がおかしいんだ?」
「っふふふ、ははははは!僕の勝ちだ!!」
いきなりの大声に驚く。
「やっとだ!僕がやってきたことは無駄じゃなかった!これですべて終わる!300年僕は待ってた!この瞬間だけを!僕の勝ちだ!!」
「何言って…」
「やぁ、僕の可愛い駒たち。よくやったよ。本当によくやった。これで彼を下界へ引きずり下ろせる。本当に感謝しているよ。ケイル君。いや、佐藤君。今は君だけがこの空間でしゃべることができる。あまり、うるさいと話が進まないからね。」
「お前の目的はなんだ?」
「よく聞いてくれたね!僕の目的はこの惑星の管理人にされた元恋人のレンジを解放することさ!」
「管理人…?」
「そう。僕たちは前世で禁忌を犯した。その償いとして、輪廻の輪から外され、惑星の運命を管理している。君たちの惑星では神と呼んでいるのかな。管理人は輪廻の輪、つまり生物に戻されることを何よりの屈辱として心に刻まれる。僕はレンジと一緒に生者に戻りたいのさ。」
「運命?」
「歴史と言い換えてもいい。惑星には管理人が決めた、絶対的な運命が存在している。その運命を守るために僕たち管理人は『権限』と呼ばれる力を使って、世界を統括している。『権限』とは君たちのいうところの『能力』かな。」
「なんで僕たちに『能力』を与えたんだ?自分でやれば良いだろ。」
「それはできない。管理人は下界に干渉することができない。運命がかかわっていないと。だから、僕が管理していた地球から君たちを選んだのさ。僕が運命を変えてしまった君たちをね。『能力』について知りたいかい?」
「それは…」
「何でも答えようじゃないか。ここまできたお礼だ。『能力』とは『権限』である。でも、生身の生物が『権限』を使えないわけが君にわかるかい?」
「さぁ…」
「君はすでに経験している。」
「まさか…」
「そう。体がもたない。死んでしまうんだ。だから、誰かに肩代わりしてもらう必要があった。君たちが『能力』を使うたびに素材となる誰かが死んでいるんだ。」
「は…」
正義を謳った力は誰かを殺していたのか。
「でも、それは問題ない。重税に耐えかねた、一つの村があった。そこの住民は神様信仰していてね。彼らを君たちの素材にすることで、君たちは『能力』を行使することができた。」
「でも、それは」
「そう。限界があった。人数はさほど多くないからね。」
そういうことじゃない。非人道的過ぎる。
「だから、彼女たちを通じて君たちとつながる必要があった。彼女たちは地球で君たちと恋に落ち、結婚する運命にあった女性だよ。運命が強い君たちは架空の空間でもつながりを持つことができる。彼女たちをこの空間に閉じ込めて、『能力』の代償を僕が払えば君たちは一生『能力』が使える。僕には肉体がないからね。死ぬことがないし痛みもない。」
「いや、だから」
「君だけが失敗だった。僕の『万能』の力をもってしても、惑星を超えての召喚は難しかったみたいだね。君にだけ素材を提供できなかった。ごめんね。あまり怒らないでほしい。これからは自由に使ってもらっていいから。」
「だから、まt」
「『権限』を生物に与えて運命を壊すのは重罪だからね。僕と彼はすぐにでも輪廻の輪に還れる。彼の『創造』も王女様に渡っているみたいだし。これで二人、同じ道を歩めるわけさ!君たちはことが終わった後すぐにでも地球に送ってあげるから、安心してね。」
「待てよ!」
「どうしたんだい?こんな気分が良いときにそんなに声を荒げられても困るよ」
「なんなんだ、さっきから!そんな自分の都合だけで多くの人間を犠牲にしたのか!」
「犠牲…?何を勘違いしているのか分からないけど君たちは力が欲しかった。僕はレンジとの生活が欲しかった。Win-winじゃない?」
「もっとやり方があったんじゃないのか!」
「僕は誰を地獄に落としてでも彼を救うよ。」
「なっ…」
その本気の目に圧倒される。
「君たちがやらないならいいよ。僕が君たちを人形みたいに操るだけだから。」
「最後の景色は自分で見たい。」
「そう?なら、最後まで頑張ってね。」




