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第三十六話

・ヴァル視点


 とんでもない巨体と速度で圧倒される。ツヴァイは確実に息の根を止めにきている。一振り交わすだけで剣が悲鳴を上げ、体から正気を奪っていく。

 殺され、生き返り。殺され、生き返り。何度繰り返すかわからないこの状況を一変する。

 反撃に出た俺にツヴァイは少し驚く。剣術の打ち合い。だんだんと体の速度に意識が追いついてくる。

「どうした?もっと速度上げても構わないぞ。」

「なんだと?てめぇ、この状況で軽口たたくとは良い度胸だな。」

 最近分かったことがある。『花園』の中で死んだ回数だけ身体能力が付与される。だから、最近自分の成長が分からなくなっていたんだ。

「『身体強化』」

「『花園』」

 両者がぶつかる。もうすでに4回は死んでいる。このスピードではだめだ。追いつけない。もっと速度を。もっと力を。もっと頑丈さを。

 自分に剣を突き刺す。

「なにをしている。」

「よく見とけよ。これがてめぇを殺す、とっておきの業だ。」

 何度か心臓を貫いた後にツヴァイに視線を向ける。

「『身体強化』」

「『花園』」

 周りの景色が遅く感じるほどの速度。踏み込んだだけで周りが壊れるほどの力。あんなに大きな剣で斬られても擦り傷程度しか傷つかない体。何もかもが強くなっている。

 お互いに擦り傷だけが増えていく。周りの壁は壊れてなくなり、大きな広場が完成する。

「おい、息が上がってるぜ。」

「勝負はここからだ。」

 人間離れしたその攻防を誰もとらえることはできない。

 大剣を振り回しているところに飛び乗り、大剣の上を走る。そのまま首を切断しようと試みる。その首の強度で剣が折れる。

「クソ!」

 大剣が俺の方へ向き。右からの大振り。それを足で破壊する。お互い強度は鋼を超えているらしい。

 素手での殴り合い。剣よりも重いその拳には何が詰まっているのだろうか。

 血が噴き出る。だんだんと回復する速度が遅くなり、めまいがしてくる。この体で長い間無理をすることはできないようだ。

 ついに花が消える。風に乗ってどこかへ飛んで行ってしまう。


 目の前にシルヴィアが座っている。走馬灯か。ここで終わりだな。寿命が尽きたような力が抜けていく感じがある。

「終わらせてもらっては困るよ。」

「は?」

 力が抜けたわけではなく、健康な状態に戻っているのだ。

「なんだ?」

「もう少し頑張ってよ。君たちの力なら負けることはないよ。」

「何言って…」

「やぁ。僕だよ。」

 シルヴィアの後ろから金髪の幼女が登場する。

「お前かよ。」

「そんな残念そうな顔しないでよ。悲しいじゃないか。」

「なんで俺はここに居る?」

「僕が呼んだからね。『権限』が生身の生物に適合するわけがないことを失念していたよ。ごめんね。」

「『権限』?」

「君たちが『能力』と呼んでいるそれは、もともと僕の力なんだ。僕たちには寿命や健康といった概念が存在しないからね、デメリットを知らなかったんだ。」

「意味が分からん。」

「そのうち話すよ。もうすぐ。さぁ、行っておいで戦場へ。そして、帰っておいでここまで。」


 少し夢を見ていた気がする。壁にめり込んだ体を見ると気絶していたのか。先ほどまでの傷が何もない。それどころか、体のだるさもない。新品のような体を確認して起き上がる。

「その傷でよくやるな。」

「お前こそ。」

「『身体強化』」

「『花園』」

 周りに見たこともないようなきれいな花が咲く。ここで戦えることに誇りを持とう。

 一歩踏み出したつもりが相手の後ろまで体が引っ張られる。手元にはツヴァイの頭を持っていた。

「は…勝ったのか?」

 ただそこに立っている五体満足の自分と頭のないツヴァイを見比べて勝ったと表現するのが適切だろう。その呆気ない勝利に酔いしれることはできなかった。

 次へ進もう。剣も持たないこの体で。どこまでも進もう。


 目の前が暗い部屋に移る


・リオナー視点


 王宮は部屋が多い。今日に限っては人が多いこともあってどこに誰が居るのか判断できない。

 まずはフェルガスを迎えに行くことにする。一番勝率が低いからだ。

 廊下である人物と遭遇する。耳が異様に長く、痩せている印象の女性だ。

「あらあら。どうしたの?こんなところで。」

「人を探している。侵入者を見なかったか?」

「目の前に居るわよ。」

「そうか。」

 お互いに剣を取りだす。

「ここで死んでくれ。」

「女性に対しての言葉使いがなってないわね。お姉さんが教えてあげる。」

 後ろから槍が飛んでくる。それを剣で防ぐ。一回、さらにもう一回。何度も同じ槍が飛んでくる。誰かが操っている感覚だ。

「よろしくね。私はズィーペン。お姉さんに名前を教えて。」

「リオナー。お前を殺す者だ。」

「良いわね。始めましょうか。」

「『焔』」

「『浮遊』」

 周りを炎で囲む。ズィーペンは浮いている槍をくるくると回転させて炎を防いでいる。

 剣で斬り込む。炎を纏ったその剣はズィーペンの剣とぶつかった瞬間、爆発のようなものを生む。服が燃え、火傷の傷が体を包む。

 槍で押し返される。一撃目、二撃目。まるで生きているかのようなその槍はどこまでも追跡してくる。

「聞いていたよりも出力があるのね。お姉さん本気出しちゃうぞ。」

 槍が地面に落ちる。まるで魂を抜かれたように地面に転がる。

 部屋から大量の武器が飛んでくる。それがズィーペンの後ろに集まる。

「さぁ、私たちだけの戦いをしましょう?」

「『焔』」

 周りを溶かすほどの熱を発する。飛んでくる剣や槍を溶かしながら前へ進む。首に斬りかかるが飛んできた剣に遮られる。飛んでくる数の多さに圧倒される。

「『焔』!」

 さらに温度を上げ、周りを炎の海に沈める。ズィーペンは余裕な顔でこちらを見ている。

 ズィーペンが剣をこちらに向けたとき、炎の海が割れる。

 驚く速度で突進してくる。剣の打ち合いになる。鋼の音が周りに響く。

「私の『浮遊』はね、なんでも浮かせられるのよ。たとえ火だろうと。」

 剣から炎がどこかへ行ってしまう。剣がぶつかっている間にも剣や槍が飛んでくる。ズィーペンを押し返し、引きながら戦う。擦り傷が、また一つ。もう一つ。どんどんと増えていく。

 炎を集中させておくことができない。近づけさえしない。

「お姉さんはね、こんなこともできるのよ。」

 体に衝撃が走る。その勢いのまま後ろの壁まで押される。

「かはっ!」

 血が噴き出て、骨の折れる音がする。

「空間を動かしたのよ。お姉さんすごいでしょ?」

 避けられない攻撃。光景が歪む。剣を使って何とか立つ。

「よく見ると良い男じゃない。残念ね、こんなに無力だと。」

「うるせぇな。今から勝つところなんだ。」

「お姉さん、興奮してきちゃう。」

 武器をよけながら、炎で廊下を包む。この温度の中、汗もかかずになんで立っていられるんだ?

「お姉さんはね空間を自由に浮かせられるのよ。温度が通らないようにするくらいできるわ。」

 自身の周りを見えない壁で埋める。絶対防御。

「前に思ったんだ、」

「何を?」

「私の『焔』は『能力』に有効なんじゃないかって。」

「何を言っているのか分からないわね。」

「前にフュンフと戦った時に、水から出てきた動物が一瞬で消えた。だから、あんたの方じゃないのか追い詰められているのは。」

「お姉さんが追い詰められてる?」

「その火傷。なんで最初から空間で防御しなかったんだ?」

「…」

「それは、防げなかったんだろ。炎で『能力』が使えなかったんじゃないだろうか。」

「良い妄想ね。現実に負けているあなたにお姉さんが逆転されるとでも?」

「行くぞ。」

「来なさい。」

 自分の体でさえ、燃えるのではないかと思うくらいの火力を出す。もちろん効果はない。目くらましと飛んでいる武器を溶かすためのものだ。

 ズィーペンが後ろへ退く。その隙を見逃さない。骨が折れている状態でも動ける。守る者が無くても戦える。絶望的な状況に俯かない。これまで学んだことだ。

 前に出る。ズィーペンの元まで。剣を弾き飛ばし、剣を慎重に首に入れる。首を飛ばし、剣を鞘に納める。

「私の勝ちだ。」

 飛んでいく生首に別れを告げる。


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