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第三十五話

 王宮を走り回る。王の間はまだまだ先のようだ。

「もう戦いに来たのね。」

 知らない女性が前をふさぐ。

「オイラが」

 エリドアが剣を抜き、向かって行く。

「全員で相手してよ」

「オイラだけで十分っす。」

「任せたぞ。」

「はい!」

 エリドアを置いて、走っていく。どんどんと人が多くなっていく。何度も剣を交え、進む。王宮に侵入した逆賊にはふさわしいお迎えだと感じる。

 壁をぶち抜いて獣のような男が突進してくる。

「『花園』」

 ヴァルが間髪入れずに『能力』を展開する。

「行け。」

 その言葉を皮切りに、進む。走って。中の兵士を殺しながら。

「この先に王が居るはずだ。」

「分かった。」

「私は他の面々に加勢してくる。2人とも頑張れよ。」

「リオナーも気を付けてね。」

「分かっている。」

 リオナーは来た道を戻っていく。

「行こうか。ケイル。」

「はい!」

 扉を開けたその先には大きな空間が広がっていた。

「浅はかですね。一般人がここに最初に来るとは。」

「ドライ…!」

「覚えていてくれましたか。少しは知性があるみたいだ。」

 以前対峙したドライが目の前に居る。殺意をむき出しにしたその男は剣を抜いて歩いてくる。

「さぁ、始めましょう。ここだけのダンスパーティーを。」


・フェルガス視点


 姫を守ることができなかった。ヴァルの言うとおりだと思う。自分が悪いはずなのに誰かのせいにすることで自分を救済したかった。責められたくなかった。責任を負いたくなかった。

 でも誰も私を責めなかった。どころか、リオナーでさえ普通に接してくれた。だから、自分には罰が必要だと思った。王宮で処刑されるのは来世で自慢できるかもな。

「あら、覚悟を持ったその目。嫌いじゃないわ!」

「そうですか。ご婦人。足止めさせてもらいますね。」

「勝つとは言わないのね。」

「勝てるとは思いません。あなたを仲間から離れさせることが私の務めです。」

「始めましょうか。ここだけの規則を。」

 身震いしてきた。処刑台に立つような気分だろうか。それとも光栄に思っているのだろうか。自分でもわからない心境に震えているのだろうか。

「『ルール!私とあなたの戦い。『能力』は禁止。剣だけ使用できる。』」

「いいだろう!」

「良いわ!やっぱり規則に忠実な殿方は嫌いじゃない!」

 剣を握り、集中する。

 南に伝わる剣術。名を狼月。連撃を得意とするこの剣術は、一撃目は軽く、二撃目は深く。三撃目は命を取る。受け流すことができないこの剣術は、まるで動物が獲物を逃がさないように食らいつく姿に見えることから狼の名を呼ばれる。

 踏み込み走る。

「良いですわ!その姿、泥臭い殿方は嫌いじゃない!」

 一撃目をわざと受けさせる。一撃目を放った瞬間に二撃目の態勢に入る。二撃目を放ち、三撃目の態勢に入る。踏み込んだ瞬間に綺麗なカウンターが飛んでくる。

「なっ!」

 二撃目まで完璧に入ったのに三撃目をかわされるのは初めてのことだった。

「悪くない殿方ね!やっぱり嫌いじゃない!」

 こいつ、元気にしゃべる余裕まであるのか。こっちは冷や汗が止まらないというのに。

「あなた、南の剣士ね!狼月には致命的な弱点があるのをご存じ?」

「はぁ…はぁ…弱点…だと?」

「そう。予備動作を最小にするために攻撃しながら次の態勢に入る。だから、次の攻撃を予測しやすい。手の内がばれたって顔ね!」

 しまった。『能力者』は勝手に剣術が苦手だと思っていた。なぜなら、『能力』に頼れば剣術なんていらないと思っていたから。

 これなら。

 西に伝わる剣術。名を弧月。多対一を前提とする戦場で一人孤高に舞うこの剣術は、最小の動きで敵を捕らえ、すぐには殺さず、致命傷を与える。

 大振りの一撃。かわされる。二撃もかわされ、次に放とうとした剣を振り落とされる。

 これは…。

「幻月。東に伝わるとされる剣術ね。あなたすごいわね!もしかして四方の剣術を使えるの?」

 剣を手元から失う。

 幻月。読めない剣の動きに、手数の多さ。武器を取り上げ、戦闘不能にする剣術だ。

「クソ…」

「なんで悔しがっているの?褒めているのよ!嫌いじゃないわ!その顔。」

「あなたも剣術をつかえるのか…」

「そうね。私は4つの剣術の師範になっているわね!」

「そ…うか」

「何驚いているの?あなただって四方の剣術を使えるのでしょ?」

「そうだが、師範になったのは2つだけだ。」

「そうなの?でも人間の年齢でその手数の多さは驚いたわ!一つの剣術を師範にするのは30年かかってもおかしくないのよ!それを二つも!やっぱり嫌いじゃない!」

 隙だらけの彼女に懐の短剣を思い出す。目指すのは首元。この一瞬で戦況を変えて見せる。短剣を投げるために投擲の構えをした瞬間、短剣を持っていた腕が飛んで行った。

「は?」

 右腕が飛んで、痛みが後からやってくる。

「ああああああああ」

 痛い!なんだ急に!何も見えなかった。剣を振る素振りなんて見えなかった。なんで腕が!

「やっぱり嫌いだわ。」

 声色を変え、表情が一変した彼女。

「規則を守らない人なんて大っ嫌い。」

 震えが止まらない。記憶の箱がどんどん開いていく。なんでこんな状況で思い出を巡らせているんだ。

「死になさい。規則を破るような人は。」

 振り上げた剣は綺麗に首を切り取り、宙を舞う。最期に見た記憶の中にルシアス様の笑顔があった。そうか、私は叱られるのが怖かったんじゃなく。ルシアス様のそばに行きたかったのか。

 転がった首は王宮の草を赤く染め上げた。


・フュンフ視点


「あなたと再戦できるなんて、運命みたい。」

「そうっすか。」

「それで、勝算はできたの?」

「そうっすね。なんとか勝てると思うっす。」

「お手並み拝見と行こうかな。『泉』」

 足元から動物を数体出す。この男は大した『能力者』じゃない。数で圧倒すれば問題ない。

「首を持ってきなさい。」

 動物たちが動き出す。私は何もしなくていい。これで勝てる。どうしてこの者たちは戦うのか。どうして希望に満ちたその目で現実を見れるのか。生物として、いえ。人間として興味がある。

 女王に仕えたあの日から。国の復興だけを信条に生きてきた。【アルカンシア】なんて滅べばいいのに。私たちこそが共和国人としてこの地を収めるべきなんだ。

 何かが転がる音がした。それは鈍く、重たく、聞き覚えのある音だった。動物たちが消えていく。そうか。私の首がなくなったのか。この状態では『スペア』は使えない。

 フュンフの名を与えられたその日から、こうなることを予想していたのに。この世界を離れることが、とても苦しい。

「良いわ。消滅しましょう。女王が私たちの国まで運んでくれるから。」

 孤独だった世界に別れを告げて。エリドアの冷たい視線だけを記憶に残して。


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