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第三十話

・エリドア視点


「『遅延』」

 次々と押し寄せてくる御親兵に対して『能力』を連発する。必殺の一撃を披露し続ける。もうすでに地面は赤色が支配していた。

 急に動きづらさを感じ、下を見る。人差し指の関節ほどの水が溜まっていた。

「なんすか…」

 気持ち悪さを感じる。トーマスも違和感を持っているようだ。

「君たちかい?私らにちょっかいをかけてきているという輩は。」

 目の前を黒髪の女性が横断する。腰まで伸びたその髪をなびかせながら我が物顔で歩く。自信に満ち溢れたその姿はどこか狂気じみたものを感じる。

「その生き方少しずれていると思わないのかい?」

「どういう意味っすか」

「いや、深い意味はないのさ。ただ、なんでそんなに傷ついているのに戦うのか生物として興味があるんだよ。」

「お前たちがどんなことをしてでも止めてみせるよ。」

「そうかな。どんなことでもか…。例えばこんなことかな?『泉』」

 水が光始め動物が生えてくる。1匹しか出てこないところを見るとそこまで強力な『能力』ではないと思ってしまう。犬だろうか?やけに大きい。

「あの人たちの首を持ってきて。」

 こちらを向くと襲い掛かってきた。

「『遅延』」

 周囲の時間を止め、女性に襲い掛かる。首に剣を向けたとき右側から強い衝撃が走った。

「ぐっ!」

 その大きな犬のパンチにより壁まで飛ばされる。なんて力なんだ。

「危ないね。そんな物騒な力を女の子に向けないでほしいね。」

「な、、、」

「何が起こった…。」

 トーマスは時間を止めている間のことを理解できていない。一瞬で壁に打ち付けられたオイラのことだけを視認している。

「君はその力を完全に理解しているわけではないことだけ分かったよ。」

「は…?」

「『能力』は万能じゃないってことさ。申し遅れたね、私はフュンフ。君たちの息の根を止める者さ。」

「大丈夫か。エリドア。」

「問題ないっす。」

 まだ御親兵もいる状況で『能力者』と対峙するのは分が悪い。

「『遅延』」

 数人の兵士を減らす。

「そのボロボロの体でよくやるね。賞賛を送らせてほしいね。」

「余裕みたいっすね。」

 フュンフも剣を抜いて向かってくる。トーマスは御親兵を殺しながら歩いてくる。3人と3匹になった。

「ふふふ。始めましょうか。」

「そうっすね。」

「そうだね」

「『遅延』」

 フュンフではなく、犬の方を攻撃する。体重を乗せた一撃で首を落とそうとするがまたもやパンチを受け、吹き飛ばされる。一手遅れてトーマスはフュンフと斬りあいになる。フュンフは余裕の表情を見せ、応対する。犬がトーマスの右腕を引きちぎり、トーマスがよろめく。その隙に、フュンフがトーマスの喉元に剣を突き付ける。

「一般人にしてはやるね。君。名前を聞いておこうかな。」

「と、ます、、、」

「もうしゃべれないか。やっぱり脆いね。」

 腕を振り上げた瞬間に『能力』を発動する。

「『遅延』」

 目の前の犬を蹴散らし、トーマスを引き寄せてフュンフの目の前まで進行する。

「遅いよ。」

「!?」

 トーマスへの攻撃はフェイクだったか…。狙いはオイラか。突進した勢いは止まらず突っ込んでしまう。

 純粋な剣術の勝負。一撃を腹に刺し込まれるが力を込め抜けないようにする。手ぶらになったフュンフに一撃をくらわそうとするがまたもや犬にはじかれる。

 かつてないほどの強敵に当たったらしい。

「なるほどね。君の『遅延』の原理が分かってきたよ。」

「は…」

 もう骨が原型を保てていないらしい。一発一発が重い。流石にあの巨体の一発は体に響く。

「敵に塩を送るわけじゃないけど。せっかく興が乗ってきたところだから教えてあげる。その力戦闘向きではないね。」

「な、、、だと。」

「戦闘用にしては集中力が必要になりすぎる。集中している間だけ時を止められるって感じかな。だから一瞬でも気を抜くとゲームオーバーだね。」

 知らなかった。そんな弱点があったなんて。今までは気にしたこともなかった。懐から花束を落とす。

「へぇ~。まだそんな手を残していたなんて。」

 トーマスも立ち上がる。ヴァルからもらっていた花束だ。そんなに量は貰っていないけどこのくらいの傷を治すくらいはできる。最初で最後の回復だ。

 トーマスと共に走る。犬を何とかしなくてはいけないとお互いに思っていたらしい。犬の方に集合する。

 パンチを間一髪でよけ、腕を落とす。硬い。硬すぎる。こんなものを何回も両断していたらいつか剣が折れてしまう。トーマスは足を切り落とし、お互いに首を狙う。犬が起こって体をねじる。

「『遅延』」

 体を癒した今なら。集中力が研ぎ澄まされている今なら。一瞬だけ時間を止め、首を刎ねる。犬は力なく地面に転がる。

 フュンフは楽しそうにこの攻防を見ていた。そのつかめない表情が何より怖い。

 犬は足元の水に吸い込まれるように消えていく。

「やるね。この短時間で僕のワンちゃんがやられるなんて。4人もうちの『能力者』を倒せるわけだ。感心するよ。」

「余裕っぽいね。」

「まだ、出せるとかっすか。」

「ご名答。まだ、私は全然本気じゃない。だって、本気を出すほど追い込まれていないもの。」

 楽しそうに顔を緩めた彼女は言葉を発する

「『泉』」

 足元の水が光だし、熊が姿を現す。これもかなり大きい。4メートルはあるんじゃないだろうか。

「2戦目も大きな戦果を期待来ているわ。」

「『焔』」

 目の前が光る。熊は一瞬にして灰になる。

「大丈夫か。二人とも。」

「リオナー!」

「すまない。遅れた。」

「新しいお仲間さんかと思ったら王女様の護衛じゃない。こんなところに居るってことは、王女様はやっぱりあんたたちの側に居るってことね。なるほど。」

「なにぶつぶつ言ってんすか。」

「ただ、お土産が増えただけ。」

「『泉』」

「『遅延』」

「『焔』」

 3者が同時に『能力』を展開する。水の中から数体の熊と犬が現れる。そこを炎が包む。その隙にフュンフに近づく。

 自分が最も得意な距離としている懐に入り込み、一撃を繰り出す。簡単に止められてしまうが、後ろからトーマスが近づいているのが見えた。トーマスは剣を振り上げ、首元に振り下ろす。足元の水から犬が現れ、剣を止めトーマスを弾き飛ばしてしまう。バランスを崩したところを殴られる。牽制に剣を何度か突き刺そうとするが簡単によけられて後ろから熊の一撃を貰う。

「っ」

 トーマスとは反対方向に吹き飛ばされ、壁にめり込む。まだ、彼女の笑みは止まらない。

「大丈夫か!二人とも!」

 リオナーが声をかけてくる。

「問題ないっす。」

 正直なところかなり限界が近い。今までヴァルの『能力』に依存しすぎた。剣術も通じない。『能力』も自分が把握している以上に理解されてしまっている。頼みの綱のリオナーも大分顔色が悪い。

「もう終わり?」

 悠々としているフュンフはつまらないとぼやきながら広場の中心で座っている。

「『焔』」

「『泉』」

 炎で攻撃しているが生物の壁によって阻まれる。

「まだ立てるか?」

 近づいてきたリオナーが小声でしゃべりかけてくる。

「行けるっす。」

「そうか。一気に行くぞ。」

 立ち上がる。トーマスもこちらの意図をくみ取ったらしく立ち上がる。

「これからが本番らしいね。『泉』」

 10体以上のイノシシが誕生した。

「『焔』」

「『遅延』」

 集中力を引き上げ、時間を止める。時間を止めた中を一気に進む。ぶれないように。揺るがないように。立ち止まらないように。フュンフに近づいた瞬間に剣を振る。体重の乗ったこの一太刀で決める。イノシシに突進されぶれるが剣だけを振り下げ、肩に到着する。勝った!

 後ろへ吹き飛び、炎の中に突っ込む。その瞬間壁が壊れ、ヴァルが飛んでくる。血をまき散らしながら。


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