第二十九話
・リオナー視点
足を引きずりながら進む。剣を失い、素手でしか応戦できない状況でひたすらに前だけを見つめる。館まではもう少しだ。
路地裏に入ったところで少年と出会う。痩せていて、ボロボロの服を着た少年は私の格好を見て不思議に思っているようだ。警備隊が追ってくる。少年の前で転ぶ。立ち上がろうと手を地面に着くが少年が布を被せた。
「?」
足音が近くで止まる。
「おい!ここで男を見なかったか?」
「見てないよ」
「クソ!あっちを探せ!」
足音が遠くに行くのが聞こえる。布から頭を出す。
「助かった。少年ありがとう。」
「いいよ。別に。」
布を少年に渡す。
「なんでそんなに血だらけなの?」
「少し込み入った事情があってな。」
「そう。どこかへ逃げるなら裏路地を案内してあげようか?」
「本当か!?是非頼む。」
「どこまで行きたいの?」
「レイヴァンス邸までお願いしたい。」
「レイヴァンスって、上級貴族の名前じゃん。なんで?」
「少し用事があってな。」
「そう。でも中央までは行けないよ。」
「近くまで送ってほしい。お願いできないか?」
「良いけど。その代わり何か頂戴。」
「何かか…。これなんかどうだ?」
短剣を手渡す。質屋で売ればまとまったお金になるはずだ。
「これでいいや。」
「助かる。では、頼むぞ。」
「うん。こっちだよ。」
道を案内される。流石に道が狭いが、そのおかげで誰ともすれ違わなかった。
「少年。名前はなんだ?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「世話になった人の名前くらい知っておきたい。」
「…リオン」
「改めてリオン。助かった。このお礼は必ずする。」
「さっき短剣を貰ったよ。」
「それ以外にも何かしよう。」
「お金持ちなんだね。お兄さんは。」
「多少な。」
「じゃあ、欲しいものがあるんだけど。」
「なんだ?ある程度のものは買ってあげられるぞ。」
「王都に行ったお姉ちゃんを取り戻したいんだ。」
「…」
「なに?ダメなの?これ以上は案内しないよ。」
「すまない。呆気に取られていただけだ。名前とか特徴は?」
「アリス。銀髪のお姉ちゃんだよ。」
ケイルにべったりな女性を思い浮かべる。
「そうか。なんとかなるかもな。」
「ほんと!?」
「すぐにでも会わせてやる。」
「約束ね。」
「そうだな。」
リオンは笑顔を見せ、歩く。アリスに弟がいたとは知らなかった。しかも、この土地で。うまくいけば明日にでも会うことができるだろう。
「ここから先は大通りを通るしかないよ。」
「助かった。ありがとう。」
「いいんだ。お姉ちゃんに会えるなら。これも返すよ。」
短剣を手に出した。
「なぜだ?」
「物を売ってお金を稼いでいたけど、もういいんだ。」
「そうか。明日の朝、門の近くで待っていてくれ。迎えに行く。」
「分かった。」
リオンとは別れ、館に向かって歩く。ヴァルからもらった花束を体に擦りつける。館の前まで到着すると目の前に広がっていたのはフィーアの死体と思われる肉塊とケイルの寝顔だけだった。
・ケイル視点
リオナーは一人で大丈夫だって言っていたけど本当に加勢しなくても大丈夫だろうか。正直かなり心配だ。今までは多対一で勝てていたけど一対一でどうなるかは分からない。でも、邪魔をするわけにもいかないし。
顔を隠し、館に到着する。幸い誰にも会わなかった。
「早かったですね。走りにしては。」
「お前…なんでこんなところに!」
「わたしですか?愚問です。あんなのとまともに応対するわけないです。」
「僕を先に消しに来たわけか。」
「一般人並みの力しか持ち合わせていないあなたとは勝負になりませんよ。」
「そうかよ!」
剣を取る。
『物体移動・剣』
胸の中心に一突き。言葉通り勝負にならなかった。地面に倒れる。硬く冷たい地面は僕を簡単に受け入れてくれた。血が地面を温める。意識がこの世から離れていく。前にもこんなことがあった気がする。冷たく、孤独に、救いがない。こんなことを2度も経験する人はいるのだろうか。やたらと頭が回る。考え事をするのにちょうどいい。
「死なないでほしいね。」
目の前の空間には見覚えがあった。椅子が4つ並び、そのうちの2つにはシルヴィアとサリナが座っている。金髪の幼女はこちらに向かって話している。
「僕も意外に忙しいんだ。あまりそんな何度も助けられるわけじゃない。だから、頼むよそんな頻繁にこっちに来ないでほしい。」
「なんだよ…なんで二人がここに居る?」
「そんなこと今はどうでもいいでしょ。君の安否の方が重要じゃない?」
「僕のことなんかよりも二人の説明をしてほしい。いや、してください。」
「礼儀正しい君は可愛いね。だけどそれは無理だ。君は僕のシナリオを否定するだろうし。答え合わせは最期って相場が決まっているのさ。」
「そんな答え方で納得できるわけないだろ!」
「怒らないでよ。僕も無理やり力を使っているんだ。何度もうまくいくと思ってもらっては困る。」
「は?」
「じゃあ、頑張ってね。応援しているから。君が一番需要な鍵なんだから。アリスちゃんと仲良くね。」
「まっ」
目の前は館の前に変わっていた。血も出ていない。記憶も曖昧だ。どこかで話をしていた気がするけど何も重要なことは思い出せない。
「え?」
フィーアと思われる人間が、ただの肉塊に変わっていた。もはや誰か判別する方法はないだろう。
めまいがして倒れこむ。いきなり、睡魔が意識を奪い、目を閉じる。
・リオナー視点
何があったのか全く分からない。なぜ、『能力』を扱えないはずのケイルが五体満足で生きているのか。なぜ、『能力』を十分に扱えるはずのフィーアが原型を保てていないのか。
ケイルが生きている事実だけが目の前を横断する。
「なんなんだ…」
私の疲れが一気に吹き飛んでいき、その隙間に疑問が刺さる。
「ケイル!」
倒れているケイルに近づき声をかける。
「おい!ケイル。おい!」
何も返答がない。息はあるが、何も返答がない。体もだらけきっている。寝ている状態に近いのか…?
「おい!おい!!」
このまま放っておくわけにもいかないし、どうすればいい。ふと、リオンの顔がちらついた。
しょうがない。リオンに預けて後で迎えに行くことにするか。剣を借りることにする。後で事情を話せば問題ないだろう。
ケイルを担いで先ほどの路地まで戻ることにする。誰にも会わないことを祈って。
・ヴァル視点
「なんの冗談だ…」
館に到着する。目を疑いたくなる。敵の数が多すぎる。ここだけでも100人は居ると思う。5人でどうにかなるのか…。
「正面はオイラに任せるっす。」
「僕も行こう。」
トーマスとエリドアに正面の突破は任せて俺、ロイク、マルリックは適当なところからの侵入を試みる。塀を乗り越え中に入る。
やはり人数が多すぎる。さっきから絶え間なく人が襲ってくる。なんでこんな短期間でこれほど人員を補充できるのだろうか。
広間に出たときに見知った顔がいた。
「てめぇは…」
「覚えていてくれるとはなぁ。」
「アハトだったけか。やっぱり本体はどこかで隠れているんだな。」
「そりゃそうだろぉ。この『能力』を持っているのに前線で戦う意味なんてないだろぉ。」
「そりゃそうだ。」
「誰だ?こいつは?」
「『能力者』だ。こいつは3人まで自分を複製できる。」
「こいつも『能力』…」
「行くぞ。」
「『花園』」
『能力』展開と同時にロイクとマルリックが切り込む。アハトが二人に分裂してそれぞれに対応する。一瞬だけロイクの方が早く当たった。その隙にアハトの首を落とす。すぐに再生するが、おそらくこいつらには蘇生の限度があるはずだ。攻撃を続ければ近いうちに勝てる。
マルリックの方に目をやると、肩に矢が刺さっていた。3人目はどこかに隠れて弓を使っている。前と同じパターンだ。
二人目のアハトに追撃する。こちらに気づいたアハトに蹴られるが態勢を崩したアハトの首をマルリックが落としてくれる。弓兵の方を見るとその下に別の男が視界に入った。
身長が異様に高く、3メートルはありそうだ。頭に動物の耳が生えている。何かの飾りだろうか。動物の毛皮を肌につけているようなその男はこちらに向かってくる。
アハトの複製はここまで応用できるものなのか…?信じられない速度で突っ込んできて胴体を真っ二つにされる。人間の出せる速度じゃない。
最後に見たのは2人とも足しか立っていない異様な光景だった。




