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第二十八話

「昨日の話から、決行は今日にでも行いたい。」

「そうだな。ケイルには後で説明しとくから。」

 簡単な話だけ聞いてヴァルに外に連れていかれた。

「昨日の…アリスも来たのか。」

 後ろを見るとアリスが着いてきていた。

「うん」

「まあ、いい。昨日のガーヴィンから話を聞く限りルシアスが危険だ。」

「王子が?」

「ああ。現国王のやつ奴隷のあれこれをルシアスのせいにしやがった。」

「なっ…」

「これまでの人攫いはルシアス派閥が国王に黙ってやっていたことになっている。これで国民は怒り、ルシアス陣営がかなり数を減らしてる。」

「そんな、バレる嘘を…」

「だが、これでルシアスを生かしておく大儀名分が向こうにもできたはずだ。ルシアスは殺されない。問題なのはルシアスが王になったときに納得しない連中が多すぎるところだ。」

「そうだね…」

「だから、一刻も早く【フロストホロウ】に行きたい。今日迅速に事を終わらせなければならなくなった。」

「そっか…。分かった。準備するよ。」

「ああ。頼んだぞ。ケイル!」

「ん?」

「大丈夫じゃないときは誰でも良い。頼れよ。」

「ありがとう。」

 部屋に戻り、準備をする。

「ありがとう。アリス。」

「ううん。お礼なんかいらない。」

「そう?」

「いつも助けれているから、私も助けたかっただけだから。」

「そっか。ありがとう。」

 一階に降りる。僕が最後だったようだ。みんな覚悟している顔だ。

「作戦を説明する。アリス、セラフィナ様、エラリア、フェルガスが居残りだ。そのほかのメンバーで上級貴族並びに御親兵を殺しに行く。あまり、情報を集められなかったからこのまま臨機応変に行くぞ。」

 顔を隠し、都市へと向かう。都市へ着くころにはもう夕方だった。

「おい、ケイル降りろ。」

「え?」

「早くしろ。」

「あ、はい。」

 リオナーから言われ馬車から降りる。

「ここからは二手に別れる。そっちはヴァルを主導に頼むぞ。」

「ああ。そっちこそ。」

 馬車は走り、門へと向かって行った。

「なんで僕だけが?」

「寄りたいところがあるだろう?」

「それは…」

「行くぞ。」

 リオナーは歩き始め、都市内へと入っていく。歩いて行った先は僕が生まれ育った家だ。家は燃えた後でもう残骸しか残っていない。

「辛いか?」

「いや…。」

「強がるな。大丈夫だ。付き合いは短いがなんとなくわかる。お前は幸せな家庭で育ったタイプだ。」

「分かるんだ…」

「こう見えてもセラフィナ様の護衛だからな。人を見る目は鍛えられた。怒っているか?」

「何に?」

「私たちにだ。こうなってしまったのは私たちの落ち度だ。すまない。」

「怒ってない。ただ、自分で決めたことへの責任の大きさを理解していなかっただけだよ。」

「そうか。もう、行こう。」

「そうだね。」

 二人は歩き始める。暗くなって人通りが少なくなってきた道を。

「なんで護衛の仕事を?」

「そんなに長いこと護衛しているわけではない。5年ほど前に誘われてな、そこからセラフィナ様の護衛を担当している。今でも忘れない。太陽みたいな笑顔を振りまいて権力になんか興味がない彼女を見たその情景を。」

「そっか。良い人に仕えることができて幸運だね。」

「そうだな。故に俺は幸せ者だ。あんな素敵な人と出会うことができて。何を言われてもニコニコできるその姿勢に尊敬している。」

「リオナーは堅いイメージがあったから、こんな話は嫌がると思ったけど。」

「そうか?」

「そうだよ。」

「そんな最期みたいなセリフはやめてくれ。」

「そうだね。ごめん。」

「楽しそうですね。混ぜてほしいです。」

 聞き覚えのある声に驚く。

「お前は…」

「覚えていてもらえてうれしいです。」

「フィーア…!?」

 長い黒髪をなびかせながら登場したその男には、因縁があった。

「誰だ?」

「【ピロニス】の御親兵だよ。なんで生きているんだ?」

「生きているですか?やっぱり鈍いですね。今回は勝たせてもらいますね。」

「待て。ここで始めるほどイカれたやつではないだろう?」

「さあ?どうですかね。」

『物体移動・双剣』

 驚くほどの殺気を出し、近づいてくる。

「なんです?剣を出さないのですか?」

『物体移動・自身』

「『焔』」

 目の前が明るくなる。周囲から炎が出たのだ。

「それがあなたの『能力』ですか。」

「場所を変えないか?」

「仲間とは合流させませんよ。」

「そうか。」

 誰もいない裏路地に二人の『能力者』が激突する。

「ケイル。お前はヴァルたちと合流しろ。」

「リオナーは!?」

「私も後から行く。」

「僕も一緒に戦うよ。」

「いや、私の『焔』は味方を考慮した戦い方ができない。故に少し一人にしてほしい。」

 その真剣な目に気圧され、その場を離れる。


・リオナー視点


「お一人で大丈夫です?」

「問題ない。貴様程度に二人も人員を割けない。」

「そうですか。連れないですね。」

『物体移動・部隊』

 何もないところから数人の兵士が登場する。なるほどこいつは物を瞬間移動させるのか。

「『焔』」

 路地裏を炎で埋め尽くす。

『物体移動・自身』

 懐にフィーアが入る。炎で自分を包み、双剣を溶かす。手ぶらになったフィーアに剣を向ける。

『物体移動・自身』

 簡単によけられてしまう。

「なるほどですね。あなたの『焔』かなり凶悪ですね。部隊が一瞬で灰になるとは驚きです。」

「貴様だってその身のこなし、舐めていたよ。」

「そうですね。お互い時間が限られている身ですからね。手短に行きましょうか。」

「そうだな。」

『物体移動・剣』

 わき腹に剣が現れるが炎で溶かす。フィーアに突進する。

『物体移動・自身』

 目の前から姿を消し、建物の屋根に現れる。

『物体移動・剣、剣、剣』

 無数の剣が腹に刺さりそうになるが、火力を上げすべて溶かす。

「なるほどです。あなたには勝てそうもない。」

 こっちのセリフでもある。相性がお互い悪すぎる。双方の攻撃が当たらないのだから。

 ジャンプで建物の屋根に乗る。

「『焔』」

 再び炎の盾を体中に展開して、剣術を炎で強化する。屋根に火が移らないように慎重に制御する。

『物体移動・弓』

 矢が飛んでくる。下手に燃やすと火事が起きそうなので斬って落とす。矢を落としながら上級貴族の館を目指す。

「させませんよ。」

『物体移動・剣、剣、剣』

 急に全身に突き刺さる剣を溶かしつつ屋根を走る。建物間を飛び越えながら、火の斬撃を飛ばす。

『物体移動・自身』

 お互いに牽制程度の攻撃が続く。次の足場がなくなり、下に降りる。まだ人がちらほら居るのを確認して『焔』を解除する。まだフィーアが追ってきていないのを確認して走り始める。

 暗い夜道を走っていると住民らしき人物とすれ違う気にも留めかなかったが、すれ違った瞬間背中に激痛が走る。

「っ!」

 立ち止まるとすれ違ったはずの男は小さな短剣を持っていた。

「何をする!」

 そのまま逃げていく男の首を斬る。

「クソ!」

 ここでおっぱじめた訳はこれか。誰が敵かわからない状況を作り出すことが。適当に殺して回るわけにいかない。どうするこのピンチを。

 もう一度適当な建物の屋根に上る。まだ上級貴族の館までは距離がある。フィーアの姿も見えない。

『物体移動・剣』

 またフィーアの攻撃が始まった。

『焔』

 咄嗟に『能力』を使うが一本防ぐことが着なかった。足に剣が刺さっている。剣を抜き走る。これでは跳躍することができない。建物と建物の間を飛び越えることができない。血の付いた足のまま走るが、ついに建物間を飛ばなくては行けないところに直面する。

「っ!」

 跳躍するわけにもいかないのでできるだけ顔を見えないように努めて下にゆっくり降りる。足もそろそろ限界に近い。痛みを訴える体を無視して走る。周りの誰が敵かを選別している暇はない。

 3人組の剣を持った兵士とすれ違う。何もしてこない。

 2人組の酔っ払いとすれ違う。何もしてこない。

 4人組の女性たちとすれ違う。何もしてこない。

 全然気が休まるタイミングがない。血液が地面を汚し、注目が集まる。こんなに人に見られていると誰がどんな目的で視線を向けているかわからない。

 気が抜けた一瞬で短刀を腹に刺される正面から。

「くっ…」

 相手の腕をつかみ、引き寄せて首の骨を折る。地面に転がし、また走る。傷が3か所になってしまった。

「はぁ…はぁ…」

 息が上がる。これまでにないほどの疲労感が体を襲い、心が折れかける。胸に隠しているネックレスを触る。これは護衛の就任記念でセラフィナ様にもらったものだ。これをつけている間は自分が強く守られている気がする。

 深呼吸をして前を見る。まだ負けてない。フィーアの位置を見つけ出して館に向かう。これ以上のことはしなくていい。私はまだ立てる。走れる。戦える。

「よし!」

 小さな声で決意をして走る。館に到着するまで。夜風を体に受けながら、自分の体温で暖める。

後ろから声がする。

「警備隊だ!そこの者止まりなさい!」

 剣を取りだしてこちらに向かってくる。

「殺人の容疑で来てもらう!」

 しまった。これも作戦の内だったか。

 万全の状態なら余裕で逃げ切れる相手にもこの怪我では厳しい。それに、顔を見られてルシアス様の立場を悪くするわけにはいかない。

 振り向いた瞬間、足に激痛が走る。ボロボロの少年が泣きそうな顔で包丁を足に刺したみたいだ。おそらく奴隷だろうがこの子に構っている余裕が今はない。

 子供を無視して、走ろうとするが両足を怪我しているので思ったように速度が出ない。後ろを確認した時、警備隊の一人の胸に剣が刺さっていた。その剣には見覚えがあった。私の剣だ。腰にあるはずの私の剣だ。このタイミングでルシアス派閥を完全に没落させるつもりらしい。

 ここが正念場だ。私は負けない。目に強い意志がともったのを感じる。


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