第二十七話
王都からかなり離れた。これで追ってが来ることもないだろう。
「夜は交代で見張りをする。女性陣は中で寝ていろ。」
リオナーがみんなに指示を出す。
「最初はロイク、フェルガス頼んだぞ。」
二人は持ち場に向かう。
「ケイル、ヴァル、エリドア、トーマス、マルリックこっちへ来い。いろいろ説明する。」
焚火を囲うように座る。
「王家は今、面倒なことになっている。ノアレイ様が王になったことで、弟のルシアス様とセラフィナ様を王都から排除したいらしい。故に我々は今後御親兵壊滅ではなく、上流貴族排斥を目的とする。」
「排斥だと?」
「単純に殺せばいい。地方を一時的に没落させ、ルシアス様を王として君臨させる。ここに居る者はルシアス様派閥だ。あの方と共に夜明けの景色が見たい者ばかりだ。」
「あんたはそんなことを考えているようには見えないけどな。」
「ここに居る者だけに伝えておく。私はルシアス様が王になることには興味がない。」
「だろうな。」
「え!?」
「なるほどね。」
「???」
「なぜだ。」
「私は元々セラフィナ様の護衛だ。セラフィナ様が王都で生活できるように場を整えることができるルシアス様について行っているだけに過ぎない。セラフィナ様が幸せになるのならばなんだっていい。」
「そうか。だから今まで大々的に動かなかったわけか」
「そうだ。セラフィナ様はまだ王族としての自覚が足りていない。故に私が一日中護衛してよからぬ者を排除している。」
「大体はわかった。【ルメレイン】の上級貴族から排除するとしてそのあとはどうする?」
「その後は、【フロストホロウ】でルシアス様と合流して、上流貴族を殺して回る。最後にノアレイ様を殺すことができたら完璧だ。」
「結局顔の広い第二王子様が居なかったら何もできないわけか。良いだろう。その話乗った。」
「乗る意外に選択肢はないがな。」
「次に交代するのは誰にする?フェルガスと私は明日以降も馬車を動かし続ける。故に休憩を多めに貰いたい。」
「分かった。僕が交代してくるよ。」
トーマスが暗闇に消えていく。リオナーは馬車の方へ歩いていく。
「ヴァルはどう思うの?」
「俺か?どうもこうも従うしかねぇだろ。この話に。どうしたケイル不安か?」
「不安ってものじゃないけど…。王政に関わるほど話が大きくなるとは思わなかったから。」
「いや、第二王子、ルシアスが王位を貰えないくらいは想像してた。」
「なんで?」
「おかしいだろ。奴隷売買に王宮が絡んでたのは間違いなかった。そこに王様が噛んでないわけないだろ。この段階でルシアスが王になることはないと思った。それだけだ。それ以外に根拠はない。」
確かにルシアスの好奇心と正義感は王にとっては邪魔なものでしかないかもしれない。この件が終わったら〈魔王〉についても調べようとしていたから。知られたくない情報。隠しておきたい真実。忘れてほしい何か。王家が守っているだろうものを好奇心がどうするのか想像もつかない。
「ヴァル。私はついて行くぞ。」
マルリックは意志を固めていたらしい。
「私は乗った話は目的地に到着するか、沈むまで首を突っ込むつもりだ。だから、これ以上もついて行く。」
「正直助かる。ここから先はおそらく死闘になる。」
「なんでっすか?」
「前の襲撃、おかしかった。戦力を確認するような。現状を把握しておくような。人物を捜索しているような。戦闘ではない何かを感じた。ここから先、『能力者』が増えるかもな。」
「増えるか…。実は私は『能力』とやらを見たことがない。どんな力なんだ?」
「俺は周辺に花を咲かせて、傷を癒すことができる。」
「オイラは周囲の時間を遅らせてることができるっす。」
「僕は、風を操るらしい…。」
「リオナー殿は先日見せた炎を扱うのか。にわかには信じがたい話だな。」
「だが、これがないと戦いにならないぞ。」
「そのようだな。」
月は沈み太陽が昇ってくる。馬車は歩く。
約4週間後。産まれた故郷の空気を吸う。久しく吸う空気は暖かかった。一年も経たないうちに帰ってくるとは思わなかった。
馬車が止まり、建物に入る。街はずれの村だ。街には最低限しか入らないらしい。
「ここが一旦の基地だ。派手に動かなければバレることもないだろう。」
「だが、ここだと情報はどうする?何も入ってこないぞ」
「協力者が今晩訪ねてくるまずだ。まずはその者を待つ。」
村では珍しい3階建て。部屋数も多く、二、三人で一部屋くらいならいける。疲れているので少し眠る。故郷で寝るというのは自分が思っているよりも安心するらしくすぐに意識が落ちた。
夜になると起こされ、情報を運んでくる人物が訪ねてきた。
「よぉ!諸君元気かい?」
「ガーヴィン!?」
ガーヴィンは学校で知り合った友人だ。ただの農家だったの思っていたが、こんなことまでしているとは…。
「久しぶりだな!ケイル!」
「何してんの!?」
「副業だよ、副業。よくある話だろ」
「そ、そうなの…」
そんなよくある話は聞いたことがない。正直、全然話が入ってこない。
部屋の中央に集まって、話を始める。
「王が変わって、地方の現状はな…」
一枚の紙が机に置かれる。
①御親兵への勧誘
②家族構成の提出
③国家転覆を目論む者の似顔絵と名前
④国家転覆を目論む者の家族の没落
このような内容が書かれていた。
「これ、俺らやん。」
国家転覆の犯罪者は当然僕たちだ。王都にいた、セラフィナやリオナー、フェルガス、ロイク以外の似顔絵がきれいに描かれている。
「家族の没落って…」
「ああ、割とまずいな。処刑まではいかないだろうが…」
「それは説明しとこう。まず、エルトリア家は貴族としての地位を失った。【ニクスポート】のマルリックさんの道場は壊されるらしい。ケイルの家族は…」
「どうなったの…?」
「見せしめに…」
「!?」
「上級貴族の館の前で…」
「は…」
急すぎる展開に何も頭が働かない。殺された…?僕のせいで…?父も、母も、弟も、みんな殺されたのか…?視界が曲がるように周りの声が聞こえなくなった。
アリスに手を引っ張られて、部屋に連れていかれる。ベッドに力なく座る。
「大丈夫だよ。」
アリスに抱きしめられる。暖かくて安心する匂い。目から涙が流れる。
「ごめん。ごめんなさい…」
誰に謝っているのか。誰に許してほしいのか。誰に懺悔しているのか。もはや何もわからないが謝罪だけが口からこぼれる。
アリスをベッドに押し倒して、首元に顔を埋める。アリスの服を濡らしながら。何も考えたくない倦怠感を感じながら。
「こんなことになるなんてわからなかった…。想像できなかった…。考えたくなかった…。」
「うん。うん。」
頭を撫でられながら、子供をあやす母のような声だけが耳に残る。肌に感じる体温と心に感じる冷たさで風邪をひきそうになる。沈んでいく意識とアリスの声だけ現実に置いてどこかに消えたい気分だった。
朝になってもアリスの体を離したくなかった。それでも何も言わずに抱きしめていてくれる。夜目が覚めるたびに「大丈夫」と声をかけ続けてくれた彼女の声はとても落ち着く声色をしていた。流す涙も枯れてもなお何かが晴れないそんな感覚だった。
「起きた?」
「起きたよ」
ガラガラの声で返事をする。
「下降りる?」
「もう少しだけ…」
「うん。いいよ。」
力いっぱい抱きしめる。離れないように。忘れないように。見失わないように。
体を起こし、服を着なおす。一階に降りるとヴァルとトーマスが座っていた。
「だから、ルールを覚えてよ。」
「うるせぇな。こんな遊びにマジになるトーマスの気が知れねぇ」
「昨日から負け続きで残念だね。」
「あ!?もう一回するぞ。」
「いいけど。」
ボードゲームをしている様子だ。ヴァルが明らかにイライラしているのが分かった。
「おはようございます。」
二人が振り向く。
「ああ。」
「おはよう。」
何も聞かずにボードゲームを再開する。彼らなりのやさしさなんだろう。顔を洗い席に着く。アリスと一緒にご飯を食べる。全員が揃ったところで話が始まる。




