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第二十五話

・ケイル視点


 馬車でアリスと一緒に座っているとエリドアがマルリックとエラリアを連れてきた。

「あれ?ヴァルとトーマスは来てないっすか?」

「まだ来てないよ。」

「おかしいっすね。すれ違ったかな」

「トーマス殿が居れば問題なかろう。」

 マルリックはトーマスのことをかなり評価しているようだ。

「そうですね。二人を待ちましょう。」

「待つ必要なんてないぜ。」

 ヴァルとトーマスが森の中から歩いてくる。

「二人とも御無事ですの?」

「ああ。俺たちは何ともない。」

「よかったですわ」

「こんな美女に心配されるなんて光栄だね。」

「おっさんくさいぞ、トーマス。」

「え…。」

「トーマス先輩今のはちょっと」

「ごめんね。おっさんで。」

 全員が集まり馬車の状態を見る。

「どうする?歩くにしては距離がありすぎるぞ。」

「そうだな。1か月以上かかるぞ。しかもアリス殿はあまり歩けそうもない。」

「村を探すのは?」

「それが一番だな。」

「近くの村までは二日くらいでつけそうだよ。」

「そうか。馬車の商人を起こせ。移動するぞ。」

 商人に事情を説明して、荷物を担ぐ。静かで冷たい森を進む。動物の声だけが響き渡る。全員警戒が抜けない。今度は急な奇襲に対応できるかわからない。

 夜になると野宿だ。屋根のないところで眠る。こうして思うと家とは偉大だ。夜になっても寒さをしのげるし、雨の日は水から守ってくれる。こうしてなくならないと普段の生活のありがたみが分からないなんて不思議な話だ。

「隣良い?」

「良いよ。」

 木に座っているとアリスが話しかけてきた。夜は交代で見張りだ。

「アリスは寝なくて大丈夫?明日も結構歩くけど。」

「大丈夫。みんなについて行けるように頑張るから。」

 手を握られたので握り返す。特に会話はない。空も十分に見えない森の中、冷たい風が体に当たり生きていることを実感する。

 この先の『能力者』に勝てるだろうか?今までは誰かに助けられて何とかなったけど。そんな何回もうまくいくだろうか。こっちの『能力者』は二人。僕も何かしらの力を持っているようだけど力を使いこなせていない。足手まといになる前に何とかしなくちゃ。

「何考えてるの?」

 アリスが静寂を打ち破った。

「何も考えてないよ。野宿に緊張しているだけ。」

「ケイルは何でも緊張するね。」

「そうかな?」

「うん。なんでも初めてを怖がっている気がする。」

「怖がってる?」

「いつもはじめてに怯えているのに誰にも助けを求めない。そんな感じがする。」

「そうかな…。なんでわかるの?」

「分かるよ。ケイルのことくらい。」

「そ、そう。」

「うん。」

 怯えているか…。的を射てると思う。なんだって最初に飛び込むのが怖い。前任者が居ないのが怖い。周りに誰もいないのが怖い。僕にとって孤独は恐怖のシンボルなんだから。だから自分から『能力』を使うのが怖いんだと思う。初めて使ったあの日から。死の孤独を知ってしまったあの日から。

「大丈夫。いつでも横にいるから。」

「ほんと?」

「うん。だからそんなに怯えなくても大丈夫だよ。」

「ありがとう。アリス。」

 アリスの胸の中に頭を入れる。鼓動が聞こえる。とても早い鼓動だ。アリスも怯えているのだろうか。怖いのだろうか。恐怖しているのだろうか。それとも心配なんだろうか。アリスにとっての恐怖のシンボルはなんだろうか。

「イチャつくなって。」

「ヴァル!?」

 そこにはトーマスが立っていた。

「ヴァルならこう言うかなと思って。」

「驚かさないでくださいよ。」

「ごめんね。二人とも緊張してたみたいだから。解そうと思って。」

「ありがとうございます。」

「お礼を言われると思わなかったかな。」

「なんでですか?」

「ヴァルならキレるから。」

「あいつは悪口で構成されてるからですよ。」

「ケイルも口が達者になったね。」

「そうですか?」

「そうだよ。そんな気がする。」

「トーマスさん私のを盗らないで。」

「ごめんね。ちょっとからかってみただけだよ。別にケイルに何かしようってわけじゃないよ。」

「だっていつもヴァルと一緒にいるから、次はケイルかと思って…」

「僕にそんな趣味はないよ」

「僕だってないよ!」

「そう?」

「そうだよ。それにケイルはアリスのことが好きでたまらないみたいだしね。」

「なっ!?」

「…」

 きれいなカウンターを貰ったアリスは顔を真っ赤にして寝床へと戻っていった。

「ごめん。言い過ぎたかな?」

「そんなことないと思いますよ。」

「そうかい?ならよかったよ。」

「もう交代の時間ですか?」

「少し話そうと思って。」

「話ですか?」

「ケイル…『能力』のことで悩んでいるでしょ?」

「なんでそれを…」

「分かりやすいよ。顔に出てるからね。」

「そんなにですか?」

「そうだね。結構分かりやすいよ。ヴァル風に言うなら、顔に出すぎだぞケイル。かな。」

「そんなにですか…。そうですね。このまま戦力にならなかったらどうしようと悩んでいます。」

「そっか。でも追い込みすぎはよくないよ。戦闘において『能力』の恩恵はでかい。でもそれが君のすべてじゃないよ。」

「そうですか?」

「そうだよ。別に誰かに頼ってもいいじゃない。誰かにすがってもいいじゃない。孤独に戦わなくてもいいと思うよ。みんな横で立ってる。僕はケイルに誘われたからね。誰かがやめると言っても、ケイルが降りない限り戦い続けるよ。」

「そう…ですか。」

「だから、そんなに自分の力不足を嘆かなくてもいいと思うよ。そんなこと言ったら僕たち『能力者』じゃない身からしたら肩身が狭すぎるよ。」

「そうですね。あまり自分を虐めないように頑張ります。」

「うん。良いと思う。そのくらいのラフさが君には足りないよ。」

「ありがとうございます。」

「早くアリスを追いかけてあげてよ。」

「分かりました!」

 アリスを寝床まで追いかける。


・トーマス視点


 若者はすぐに成長してしまう。誰かがあくびをしている間にも。誰かが寝ている間にも。誰かが歩いている間にも。誰も気が付かないスピードで成長している。それは大人も同じだと思いたい。だからみんなに世話を焼く。自分が成長していることを実感したいから。

 ケイルに言ったことは自分に対する慰めだった。『能力』を持たない自分はみんなの荷物でしかない。ヴァルのエリドアのケイルの。だから悩んでいるケイルを慰めることで実感したかった。自分は成長していると。

「おっさんが一人でしんみりしてると風邪ひくぞ。」

 ヴァルの顔が見える。最近はペアを組まされることが多かったからよく見る顔と声だ。

「いや。余韻に浸っていただけだよ。」

「ケイルに対する言葉のか?」

「聞いていたのかい?」

「ケイルはアリスのことが好きすぎるくらいからな。」

「ちょっとセリフが違うけど。結構聞いてたね。」

「ああ。」

 ヴァルが横に座る。

「まだ交代の時間じゃないと思うけど。」

「トーマスだってまだ時間じゃないだろ。それに、あっちにいるとケイルとアリスが始まりそうで逃げてきた。」

「そっか。それは災難だね。」

「ああ。助かった。ありがとう。」

「何が?」

「昼間のことだよ。トーマスが居なかったら勝てなかった。だから、ありがとうだ。」

「あれは君一人でも勝っていたよ。」

「そうか?じゃあ、さっき言ってた自分を追い込みすぎない方が良いってセリフは嘘だったんだな。」

「それは...」

「さっきの誰かに頼れば良いってのは嘘だったんだな。」

「違うよ。」

「なら感謝くらい受け取っとけ。そうじゃないと俺たち『能力者』も肩身が狭いだろ。俺が折れなかったのはトーマスのおかげなんだから。」

「そうかな。君は自分で起き上がったと思うけど。」

「意地が悪いおっさんだな。これだから歳取るのは嫌だぜ。」

「そんなこと言わなくてもいいじゃない。」

「いや、よくないね。俺たちがお前らにどれだけ助けられてるか知らないだろ。」

「そうだね。分からない。」

「お前があの時ナイフを投げてくれなかったら俺はここに居ないかもしれない。ケイルがあの時フィーアを殺してくれなかったら。最初に王子に会わなかったら。マルリックやエラリアが援軍に来てくれなかったら。サリナが『能力者』と戦ってくれなかったら。アリスがケイルと会っていなかったら。シルヴィアが俺についてきてくれなかったら。コレだけ助けられてるのに、なんでお前らが悲観的なんだよ。」

「それは…」

「もう一度言うぞ。助かった。ありがとう。」

「うん。受け取ったよ。」

「素直は大人の成長なんだろ?」

「そうだね。僕が忘れてたよ。」

「ああ。忘れるなよ。」

「分かった。」

 ヴァルは帰っていった。

 素直か…。年下に何かを教えられるなんて僕もまだまだ成長できるのかな。いつか親に言ってしまった。僕を子供扱いするなって言葉。素直に言い換えると、もっと子供みたいに甘えたいって言葉になるのかな。僕もまだまだ成長途中ってことか。誰かに助けられて、誰かを助けて、相互に依存していることに教えられるまで分からなかった。一方的に頼っていると思ったから。でも今は誰かに頼られていることが素直にうれしい。今は自分の成長を見守ろう。今の自分を成長させよう。今の誰かの成長を称えよう。


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