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第二十四話

・エリドア視点


 目の前には、倒れているケイルと震えているだけのアリスがいる。敵であろう男はドライと名乗った。足がすくまないように。現実から逃げないように。ケイルがオイラと同じ轍を踏まないように。

「行くっす。」

「来なよ」

 弓を引き、撃つ。

「『遅延』」

 ドライの足と腕に矢が当たる。

 『遅延』は周囲の時間を少し遅らせる。故にエリドアにとっては止まっている同然の標的に攻撃するだけの作業だ。

「なるほど。『浅はかですね?弓の使い方を忘れてしまうとは』」

「『遅延』」

 ドライが言葉を発すると同時に剣を抜き、走る。剣がぶつかり音を響かせる。

 コイツ手足の負傷でオイラと互角にやりあえるとは相当な手練れっすね。

 力の差で押し返し、2撃目を放つ。右腕を飛ばし、3撃目で胴体をかすめる。時間を遅らせているのに合わせてくるとは…。

「『スペア』」

 ドライの手が生えてきて、目に見える傷も完治した。

「なんすか。それ。」

「君『能力者』ですよね。こんなことも知らないとは浅はかですね。」

「そんな趣味の悪い芸当はできないっす。」

「これは知識の問題ですよ。浅はかですね。」

「そうっすか。」

「『浅はかですね?戦いをも忘れるとは。』」

「『遅延』」

 再び切りかかり、腕を落とす。

「あんたが戦闘中に口数が多いのは相手を煽って心を揺さぶる為っすよね?」

「ちっ!」

「その手には乗らないっすよ。」

 首を落としに行くが防がれる。カウンターに蹴りを貰い、バランスを崩す。その隙に剣を振り回し、首を狙われる。

「『遅延』」

 間一髪のところでよける。

「やりますね。なんでそんなに強いのに彼女のことを救ってあげなかったんですか?」

「なんすか。」

「彼女のことですよ。名前は確か…サリナ。そう、サリナですよ。」

「なんでそんなこと知ってるんすか?」

「知識を持っているから。知識はすべてを凌駕する武器になります。剣よりも強く、弓よりも早い。そんな武器を持っているから剣で立ち向かってくるあなたには負けません。」

「そうっすか。負けているように見えるっすけどね。」

「『浅はかですね?剣のことも忘れてしまうとは』」

「だからその手には、!?」

 しまった。心を揺さぶられてしまった。手元にある鉄の塊のことが分からない。なんでこんなものを持って敵と戦おうと思ったのか分からない。手元の鉄を投げ捨てる。弓を手に持つ。相手の出方も分からない。鉄の塊を使って何をするのだろうか。

「浅はかですね。この程度の会話に流されるとは。」

「クソ!」

「『スペア』」

 ドライの手が生える。

 心を落ち着かせながら距離を取る。落ち着かなければ『能力』を使われる。弓を放ち、牽制する。よけられてどんどんと近づいてくる。得体の知れない恐怖が全身を包む。

「『浅はかですね?戦うことも忘れてしまうとは。』」

 体が止まる。なんでこんなところに立っている?なんで弓を使う状況になっている?なんで目の前の男はこちらに向かってくる?わからない。オイラは何してんだ?

 ドライが鉄の塊を振りかざしたときに間にケイルが走って受け止めてくれた。

「ごめん。少し寝てたみたい。」

「ケイル!なんすかこの状況は?」

 わけも分からず弓を放つ。ドライの肩に刺さり傾く。その隙にケイルがドライの首を落とした。

「助かったっす、ケイル。」

「いや、こっちこそ。ごめん、エリドアが来てくれなかったら負けてた。」

「お互い様っすね。」

「そうだね。ありがとう。」


・ケイル視点


 エリドアのおかげで何とか勝てた。僕ももっと強くならなくては。一般人は『能力者』に勝てない。これを覆せるくらいに強く。

 アリスが泣きながら走ってくる。そのまま胸の中に飛び込んできて抱きしめる。ここでようやく生きていると実感する。

「大丈夫だった?」

 強く抱きしめてくる。

「ごめん。前にあんなこと言っていたのにすぐに負けそうだった。」

「…うん」

 力いっぱい抱きしめられる。ドライの生首が目に入る。フードがなくなり顔がはっきりと見える。耳が長く、尖っている。人間の特徴と離れたその容姿に驚く。

「ごめん。アリス、ちょっと」

「うん?」

 アリスを離し、首に近づく。

「なんだ、、、こいつ」

「どうしたっすか?」

「こいつの耳異常に長い…それだけじゃなくてほとんど筋肉がない。」

「そうっすね…」

「人間なのか…?」

「そんなことよりもみんなを援護しに行くっすよ。」

「そうだね。僕は馬車のところでみんなを待つよ。」

「了解っす。」

 エリドアとは別れて、馬車を直す。もう動きそうもない状態を見るとここからは徒歩か誰かに拾ってもらうしかない。みんなは無事だろうか。静かな森を見つめる。


・ヴァル視点


「結構中に入っちまったな。」

「そうだね。僕らだけになったね。」

「もうどこから来たのか分からなくなったな。」

「森は方向が分からなくなるから一回引き返そう。」

「ああ。」

 トーマスと二人だけになり、他の面々は見えない。振り返ると男がいた。黒い髪の毛を後ろで束ね、歴戦を感じさせる傷の数々。

「よぉ。お前らが邪魔者でいいんだよなぁ?」

「誰だ?」

「おれは、アハトって言うんだぁ。お前らの名前…なんて聞く意味ねぇか。」

「そうか。」

 トーマスとほぼ同時に走る。トーマスより先に剣が届く。止められるが、トーマスの一撃が肩から入り腰まで両断する。あっけないと思った瞬間、背中から手が生えてきてトーマスの剣をつかまれる。

『分身』

「なに!?」

 手の次に頭、首、胴体、足。すべてのパーツが出てきて一人の人間が登場する。アハトと同じ容姿のその男は剣を握り、アハトもろとも剣で貫き俺の胸に剣先が届く。

「『花園』」

 後ろへ退き回復する。

「なんだあいつ。」

「何かの『能力』だろうね。見た感じ自分を複製するのかな。」

「しかもあの回復量かなりやばいぞ。」

 先ほど切られた胴体はすでにつながっており、普通に立っている。向かってくる。

 トーマスが一撃目を止めた瞬間、2人目のアハトが間髪入れずに腕を切り落とす。その勢いのまま俺に剣を向けてくる。受け流すが、2人目の攻撃をかわせない。腹に剣が刺さり血を吐く。トーマスはすでに回復しており、振り向いて加勢してくれる。腹から剣を抜かれ、トーマスの両腕が切り落とされる。同時に。

 阿吽の呼吸。これほど似合う言葉はないだろう。二人の意識がつながっていないとできない芸当だ。

 トーマスは腕がない状態で一人蹴り飛ばし、俺がもう一人も突進で突き放す。

「やばいね。」

「ああ。まずい。」

 ともに怪我はない。アハトは俺を狙うことに決めたらしい。向かってくる。一人目を受け流し、二人目はトーマスが止める。お互いに背中を合わせて対処する。後ろから鋼の音がする。気にせずに戦う。剣をはじき飛ばし、首を斬る。トーマスが苦戦しているところに剣を投げる。アハトの胸に剣が刺さり、トーマスが首を落とす。

「勝ったか…!?」

 後ろから矢が刺さる。深い森の中でどこにいるのか分からない。音もなく飛んでくる矢に反応できない。

 地面に転がっていたはずのアハトは二人とも起き上がっていた。これまでの傷はなかったかのように。

 矢が飛んでくる中で、二人のアハトは迷いなく進む。まるでどこに飛んでくるのか分かっているかのように。

 剣で受けるが矢が刺さって力が入らない。剣をはじかれ首が飛ぶ寸前でトーマスがナイフで牽制する。体勢を崩したところを殴って吹き飛ばす。二人目のアハトがトーマスの心臓に一突き。トーマスは倒れる。

「トーマス!」

 二人目のアハトを突進で後ろへ退かせる。

「トーマス!!」

「大丈夫。すぐに治ったから。」

「よかった。」

 最近『花園』の出力が強すぎる気がする。この中では死なないのではないかと思うほどに。しかも、どんどん力が湧いてくる。いつからだろう。こんなに自分の力に底が見えなくなったのは。

 邪念を振り払い、トーマスと立ち上がる。

 矢が飛んでくる中で、呼吸を整え集中する。誰も動かない。静寂の中、矢の風を切る音だけが聞こえる。血が垂れ、地面に到着する前にふさがる。相手は無傷だ。先に二人のアハトが動き出す。それを見て矢が飛んできている方向へトーマスと走り出す。

「「おれを無視するんじゃねぇ!」」

 意外に弓兵は近くにいた。やはり、アハトと同じ顔だった。こいつの『能力』は自己の複製だ。分身の数の限度は3体か。

 木の上にいるアハトに向かってジャンプする。想像以上の跳躍に驚く。5メートル以上は飛んでいる。剣を構えて弓しか持っていないアハトの首を斬る。トーマスは下で2人と戦っている。弓兵のアハトは回復することなくそのまま灰になり消えた。下に降りるとアハトは一人になっていた。

「やるなぁ、『分身』が二人もやられるとはなぁ」

「お前が最後の一騎だ。」

「いやぁ、おれも消えるわぁ」

「は?」

 アハトは自分に剣を刺し、灰になった。ここに本体はいないらしい。

「居なくなったね。こんな芸当ができるなんて『能力』には驚かされるよ。」

「ああ。本体がここに居ない以上、また森の中を探すしかないな。」

「ヴァルの『花園』のことだよ。」

「俺の?」

「うん。即死してもおかしくない攻撃を受けてもすぐに回復する。しかも、どんどん身体能力が向上していくのが分かった。なんでだろうね。」

「それは俺も感じた。『花園』にはそんな力なかったと思うけどな。」

「何か強くなるきっかけがあったのかな。」

「さあ?わからん。」

「そっか。早く誰かと合流しよう。」

「そうだな。」



・アハト視点


 三人殺られた。『分身』をここまで削られるとは思わなかった。お茶をすする。

「どうしたのです?」

「女王!」

「そのままで結構。」

「はい。奇襲に失敗したようです。」

「そうですか。ドライはどうなりましたか?」

「安否はわかりません。ですが…」

「そうですか。ドライまで。これは早急な対処が必要ですね。すぐに『スペア』の準備をします。儀式の準備を。」

「はい!みなを集めて参ります。」

「お願いしますね。」

 アハトの『分身』は自分の精巧な複製はできない。『分身』を作れば作るほど精度が落ちる。何度も自分の形を治せる1度目の複製。1度目よりも治癒能力が衰えている2度目の複製。3度目の複製は治癒能力どころか言語能力も持たない。それに加え単純な命令しか聞けないため剣術を使うことができない。だが、『分身』は作れば自分から離れていようと行動できるためどこにいても安全に戦うことができる。そう。王都にいたとしても。


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