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第二十三話

・???


「二人やられた。」

「…」

「ここに居る者も注意してほしい。どうか、誰も死なないように。」

「…」

「力に翻弄されないように。」

「…」

「皆で国を守るのだ。」

「「「「「「はい。我らが女王」」」」」」


・ケイル視点


 なんで人は離れたところに街を作るのか。馬車に乗るといつもこの疑問がよぎる。もっと近くに作ってくれればこんな距離を移動しなくてもいいのに。半分は過ぎたころだろうか。景色が全く変わらないのでわからない。商人は本当に自分がどこにいるのか把握しているのだろうか。にわかには信じがたい。

「大丈夫?ケイル。」

 アリスが心配の声を上げる。

「大丈夫だよ。僕のどうかしてた?」

「顔が疲れてる。」

「馬車はどうにも好きになれなくて。」

「そっか。」

 狭い室内なので身を寄せ合って7人が詰め込まれている。

「そこ!また!」

「しょうがないでしょ。7人だと。」

「いや、しょうがなくないね。もっと節度あるお付き合いをするべきだ!」

「ヴァルだって横にトーマス先輩がいるんだから幸せでしょ?」

「なんでいつもこいつとセットなんだよ!」

「一緒に寝てるじゃん。」

「違う!寝室が同じだけで一緒に寝てるわけじゃない!」

「同じようなことじゃん。」

「よし。今度から一人一部屋な。」

「な!?」

「部屋の出入りは禁止にする。」

「なんで!?」

「マナーを守らないお前らが悪い。」

「二人とも落ち着いて。狭い室内でピりつかないで。」

「大体なんで一番付き合いの長いケイルがトーマスと同じ部屋じゃねぇんだよ!」

「僕は、ほら、アリスがいるし。」

「朝目が覚めておっさんの寝顔があると萎えるんだよ!」

「ごめんね。おっさんの寝顔で。」

「しかも無口だし!」

「ごめんね。面白くないおっさんで。」

「どんどんトーマス先輩を傷つけてるぞ。」

「そうだぞ。トーマス殿くらいのおっさんは意外に繊細なんだから丁重に扱え。ヴァル。」

「うれしい。味方が増えた。こんなおっさんに。」

「悪かったよ。トーマス。」

「いいんだ。こんなおっさんでも繊細だから。」

「仲がいいことですね。」

「もう付き合い長いからな。このくらいの距離感になr」

 馬車がひっくり返る。急いで横のアリスを抱きしめて衝撃を防ぐ。

「なんだ、急に。」

 馬車には穴が開いて、覗いてみると数十人の男たちが立っていた。

「どうなってんだ?」

「僕とマルリックで突っ込む。ヴァルは『能力』を発動しといてくれ。ケイルはアリスを守って。エリドアとエラリアはヴァルに続いて。」

 トーマスの言葉と共に行動を開始する。気を失ったアリスを馬車の残骸に寝かせ、着ていた服を被せる。商人もさっきの衝撃で気絶しているようだったので中に入れておく。

 そのまま外に出て、応戦する。40人弱ほどの人数がここに集合している。鉄がぶつかる音だけが森の中に響く。それぞれ敵を追いかけていくうちにバラバラになったようだ。

 目の前の男と二人きりになる。フードを被っていて顔がよく見えない。

「浅はかですね。こんなところで奇襲を許してしまうとは。」

「なんで僕たちを襲う?」

「なんでって…浅はかですね。その程度のことも知らないとは。」

 この口ぶり。おそらく御親兵だろう。待ち伏せていたとは驚いた。

「屋敷に居なかったのは僕たちを奇襲するためか?」

「そんなことに今更気づくなんて。浅はかですね。」

「うざいね。その口癖。」

「はっきり言いますね。でも、あなたは勝てません。」

「それはどうかな?」

「『浅はかですね?剣の振り方も忘れてしまうとは』」

「は?」

 手に持っている剣を振りかざそうとする。

「?」

 どうやって使うんだっけ…?これ…。なんで、昨日まで何も考えずに使えていた剣をどうやって使っていたかわからない。たたく?投げる?それとも、ただのファッションか…?

「『浅はかですね?歩き方も忘れてしまうとは。』」

 こいつ、『能力者』か。しまった。完全に油断してた。何とか馬車に近づかせないように立ち回らなくてはいけない。離れようと足を上げた瞬間。

「?」

 あれ?何をしようとしたんだ?足なんか上げて今何をしようとしたんだ?

「ほら。あなたは浅はかだ。何も覚えることができないし、敵に対処することもできない。」

 一歩一歩近づいてくる。どうやって移動してるんだ?足をどうすれば前に進むことができる?

 目の前まで敵が接近してきた。必死に剣を振り回す。しかし、態勢を崩して転んでしまう。

「大丈夫ですか?」

「なっ…!?」

 何もできない…。コイツの『能力』は知識を奪うのか。

「『浅はかですね?立ち方も忘れてしまうとは。』」

 攻撃を受ける前に立とうとする。あれ?どこに力を込めれば、立てるんだ?どうやって態勢を直せる?あれ…?必死にもがくがどうやっても立てない。

「どうです?これが『浅識』あなたはどうすることもできません。」

「なっ…」

「声も出すのがやっとでしょう?そんなに動いたら疲れますよ?」

「くっ…」

「そうだ。あなた、この馬車を必死に守っていましたね。中身はなんでしょうね」

「やめろ!」

「『浅はかですね?馬車の中身も忘れてしまうとは。』」

 あれ?なんで必死になって馬車の残骸なんて守っているんだ?中身は?何か大事な何かが入っていた気がする。思い出せない。なんだ?

 馬車のかなにはアリスが居た。目を見開いてこちらを見ている。そうだ。アリスが馬車の中にいるんだ。

「お前、アリスに何をするつもりだ!?」

「この状況でそんなことを言うなんて浅はかですね。でもいいでしょう。浅はかなあなたに教えてあげますよ。おそらくこの子はシナリオの中で最も重要な鍵になるでしょう。だから、連れていきます。」

「シナリオ…?」

「分かりませんか?浅はかですね。」

「なに言ってる…?」

「我々もすべてを把握しているわけではありませんが、大体のことはわかっています。だから邪魔しないでください。」

 アリスに手を差し伸べる。

「やめろ!!」

 勢いだけで起き上がり、歩き方も分からないのに走り出す。剣の振り方さえ知らないのに振り回す。簡単にいなされる。その勢いのまま倒れてしまう。

「そこまで、この子に執着しているとは。」

「てめぇ!その子に触れたら殺す!」

「『浅はかですね?この子のことも忘れてしまうとは。』」

 いきなり記憶がなくなったかのように目の前の彼女が誰か分からなくなってしまう。少女は不思議な顔でこちらを見つめている。誰だ…?なんでこんな人が一緒の馬車に乗っていたんだ?なんでそんな顔で僕を見る?

「ケイル…!」

 なんで僕の名前をしているんだ?どうしたんだ?あれ?なんで馬車なんか守ってるんだ?ヴァルたちと戦わないといけないのに…どうしてだ?御親兵と一緒にいるということは敵なのか?

「…助けて。」

 その言葉と共に立ち上がる。

「離せ。その子を。」

「どうして?もう関係ないのに。」

「嫌がってるだろ。」

「少々遊びが過ぎましたね。」

 相手も剣を抜く。

「ドライ。それが名前です。」

「ケイル。」

「良いでしょう。行きますよ。」

 使い方も知らない武器をそのまま使うのは危険だ。かといって、代用の武器は…。そうだ。ナイフがある。

 見様見真似で歩き出す。いつもりより遅く。でも確実に踏み出す。剣がぶつかり後ろに飛ぶ。そのまま追撃されて、剣を落とされる。ドライが上段の大振りを構えた瞬間にナイフを取り出し、首を狙う。そのままドライに蹴られて地面に転がる。

「浅はかですね。この程度のフェイントにも対応できないとは。あなたがそのナイフを取り出したくてうずうずしてのはわかってましたよ。剣術が使えないからって安直すぎますね。」

「なん…だと…」

「第一『能力』も使わないで、勝とうなんて浅はかですね。舐められたもんです。一般人は『能力者』に勝てない。これは覚えておくと良いですよ。浅はかなあなたに教えてあげます。」

 こんなんじゃだめだ。目の前の女の子一人救えないなんて。もっと自由に。もっと本能のままに。剣を口にくわえ、犬のように這いつくばる。

「へぇ…。悪くない…。」

 動物のように走り、口の剣をふるう。当然押し負けるが、何度も向かっていく。体に擦り傷が増え、無理な体制で動いているため体中から悲鳴が聞こえる。

 蹴られ、殴られ、斬られ、あらゆる攻撃を無視して走る。ふと剣の使い方を思い出した。ドライの目の前で立ち上がり、遠心力に任せた右の大振りを披露する。ドライに受け止められるが、驚いたのか後ろに退く。

「即席にしては悪くない作戦ですね。」

「お前の『能力』時間制限があるのか。」

「お見事です。でも、それだけでは勝てませんね。」

 剣を構えなおし、見合う。お互いに向かっていき、一瞬の攻防が始まる。下からの振り上げをかわし、懐に入る。柄で腹を押し、その勢いのまま腹に突き刺す。態勢が崩れたところで腕を切り落とす。ドライの剣が肩に刺さるが気にせずに首を狙いに行く。勝った!

「『浅はかですね?意識の保ち方も忘れてしまうとは。』」

 目の前が真っ暗になり、体に強い衝撃が走る。声も出ない。周りも見えない。手も動かせない。何も聞こえない。意識が暗闇に落ちていく。


・ドライ視点


 危なかったですね。ここまで力を使わせるとは思いませんでした。油断するとは私も浅はかですね。

 私の『浅識』は一定時間相手の知識を奪う。奪える知識には条件があり、心に隙が無いと奪うことができない。隙が大きければ大きいほど奪える知識も大きくなる。相手が勝ったと思って隙ができたのが救いでしたね。

「ひやひやしますね。『スペア』」

 傷を治し、アリスと呼ばれる女性を回収しに行く。

「じゃあ、参りましょうか。我らが主のもとに。」

「ケイル…。」

 自分の安否よりも、目の前に転がっている男を心配しているようだ。生存確認をするのが怖くて動けないといったところか。

「『浅はかですね?抵抗の仕方も忘れてしまうt」

 弓矢が飛んできて発声を遮られる。2発目をよけるが3発目を受けてしまう。早い。弓矢の速さではない。

「そこをどいてくれないっすか?」

「どなたです?」

「オイラはエリドア。」

「そうですか。私はドライ。」

 2戦目が始まる。


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