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第二十二話

・エリドア視点


 目を開ける。久しぶりな気がする。以前目に光を入れたときは本当に一瞬だったから。ちゃんと目で物事をとらえることは本当に久しぶりだ。

 知らない人たちがいる。覚えていないとかではなく、本当に知らない人だ。唯一知っているサリナが床で寝ている。ここに居るということは、オイラの『能力』はうまく機能してくれたということか。でも、周りがやけに騒がしい。耳も段々と声をとらえ始める。

「おい!どうした!」

「『花園』!」

「なんでヴァルの『能力』が!」

「布を持ってこい!止血する!」

 怒号のような声が部屋中にあふれていた。椅子から立って歩いてみる。久々の地面に足が驚き、転んでしまう。その音で全員が振り向いた。


・ケイル視点


 サリナが急に倒れてすぐに後ろで物音がした。振り返ってみるとエリドアが目を覚ましていた。一瞬の静寂、誰もが言葉を失い理解した。サリナは助からないと。ヴァルの『能力』でも傷は治る気配を見せてくれいないわけを大体察してしまった。サリナはエリドアの『能力』で延命されていたのだ。本当の彼女は疾うの昔に死んでいたのだ。

「そんな…」

 やっと出てくれた言葉はこれだけだった。トーマスがエリドアを椅子に座らせる。エリドアも状況を理解し始めたらしい。

「サリナ…。ごめん。もっとオイラに力があればよかったのに…。もっと…。」

 エリドアは立つ力もないのか、座ったまま涙を流した。この場を見ているだけしかできなかった。

 サリナに布を被せ、話をする。エリドアの口から今までに至るまでの軌跡を。

「オイラとサリナは同じ道場で過ごしてたんだ。ある日、サリナが襲われているところを見たんだ。助けなきゃって分かってたんだけど足がすくんで動けなかった。ようやく動けたと思ったらサリナは背中を切られて、重症だった。そこでオイラの『遅延』で死ぬ時間を延ばせるかもしれないって思って全力で力を使ったらそこで意識がなくなって今、目が覚めた。」

 そうか、サリナはもう3年ほど前に死んでいたのか。

「オイラ、お前らの顔も名前も知らないけど、サリナやオイラの世話をしてくれてありがとな。」

「やめろよ。最後みたいに。」

 ヴァルが反論する。アリスがショックで部屋を出て行ってしまったので追いかける。

 ドアを開けて中に入る。アリスが寝転んでいるベッドに座って頭をなでる。

「…ないでよ」

「ん?」

「もう戦わないでよ!」

 アリスの顔は泣き顔で真っ赤になっていた。

「私も奴隷に戻る!ケイルもみんなも元の生活に戻ろうよ!なんで誰かが死ななくちゃいけないの!」

「それは」

「なんで!?もう誰かが死ぬところなんて見たくない!もう誰にだって戦ってほしくない!」

「それはできないよ」

「どうして!?」

「みんな各々事情がある。」

「じゃあ、ケイルは!?ケイルが一番死んでほしくない!なんでいつ死んでもおかしくないところに身を置けるの!?」

「あの寒い夜。満天の星空の下で震えてる女の子を見ちゃったからかな。」

「いいよ!もう!私だって奴隷に戻る!」

「よくないよ。ここで逃げ出すことは僕にはできないよ。」

「なんでよ!?」

「始まりはなんであれ、自分ができることは全力で後悔しないようにしたいから。この世を離れる瞬間に懺悔をしたくないから。自分の正しさに言い訳したくないから。妥協の味を覚えたくないから。」

「それは…」

「大丈夫。誰も死なないとは言えないけど、誰も不幸にならないとは言えないけど、僕は自分の正義と立ち向かえて幸せだよ。」

「…」

「ごめんね。言葉が下手で。でも、僕は戦うのをやめることはできない。ここで戦いから逃げて、恐怖故に逃げて、自分から逃げて、運命から逃げて、力から逃げていたら僕は貴族以下の人間に成り下がる気がするから。」

「…うん」

「ごめんね。僕は戦うよ。」

「ごめん。ちょっと動転してた。」

「大丈夫だよ。みんな怖いんだ。次は自分の番かもしれないから。表面上は冷静を保っているけど内心は気が気じゃないよ。」

「そう…」

「落ち着いた?」

「うん」

「よかった。じゃあ、ぼくh」

 アリスに引っ張られてベッドに倒される。寝相を改めて、アリスを抱きしめる。

 アリスが安心したところで部屋を出て、先ほどの部屋に戻って行く。

「おかえり。大丈夫だった?」

「はい。大丈夫でしたよ。」

「よし。揃ったな。明日から王都に戻って王子殿に話をするぞ。」

「話?」

「ああ。やっぱり、王子がいないと円滑に物事が進まない。あいつを連れていけば都合良いだろ。」

「そうだね。賛成だよ。」

「どうでもいいがヴァル。俺たちはどうすればいい?」

 確かにマルリックたちはどうするのだろうか。

「先生たちはどうしたい?」

「俺はついて行くつもりだ。」

「私だってついて行くってよ。」

「助かる。エリドアは?」

「オイラもついて行くっすよ。今まで世話になったし。」

「7人で王都に向かうぞ。解散。」

 アリスのいる部屋に戻り、寝ることにする。


・エリドア視点


 明日からヴァルたちと行動することになった。妙に眠い。『能力』が解けて久しぶりに動いたからだろうか。サリナと過ごしていたらしい部屋に入り冷たいベッドに入る。驚くほど早く意識が落ちた。


 そうだ。俺はテレビに憧れてたんだ。テレビの中で輝く人に魅了されていた、ただの少年だった。ドラマ、映画、劇。俳優と呼ばれる人たちのような演技に一目ぼれした。ずっとカメラを向けられるような人間になりたいと思っていた。

 中学校に入って演技を習い始めた。誰かに見せられるレベルじゃなかったけど、楽しかった。毎日が。いつかスポットライトを浴びれる自分を夢に見て。そんな中こんな言葉を貰った。

「本当に俳優になれるわけじゃないのに、なんでそんなに必死になれるんだ?」

 友人からの一言だった。向こうには悪意があったわけじゃないんだろう。純粋な興味で聞いてきたんだろう。でもそれがずっと自分の心に刺さってた。

「別に本気でやってねぇよ」

 つい、言い返してしまった。これが自分の枷になるとも知らずに。親は応援してくれていた。いつだって味方をしてくれた。でも、自分だけが自分を否定し続けていた。そんな夢にすがって何になるって。憧れだけでは何もできないことを悟っている気になっていた。

 大学を卒業して、一般企業に就職した。楽しくないわけではないのに足が止まる。満足できているはずなのに心躍らない。そんな毎日だった気がする。夜に酒を飲むようになるのに時間はいらなかった。飲みながら思う。これが正しい道なんだ。これが世間で言う立派な人生だって。誰もいない部屋で自分に言い訳をし続けていた。


暗い空間に飛ばされる。目の前には4つの椅子が並んでいて目の前にはサリナが座っていた。その横には青髪の女性が座っている。誰かはわからない。

「サリナ…ごめん…。もっと一緒に居たかった…。オイラの力不足で…ごめん。」

 懺悔したかった。誰かに恨んでほしかった。サリナに怒ってほしかった。軽蔑してほしかった。だって、あの時足がすくんでいなかったら彼女は生きていたかもしれないのだから。後悔だけが自分の口に残る。

「大丈夫かい?泣いているようだけど。」

「誰っすか?」

「初めてだよ。ここに来た子でそんなに冷静なのは。」

「オイラは…」

「いいんだよ。何も言わなくて。だって知っているから。君で2人目だ。」

「2人目?」

「そうだよ。君とヴァルセリオン君とで2人だ。」

「ヴァルがここに来たんすか?」

「うん。やっぱり冷静な子は好きだな。君たちは僕の計画の柱だからね。壊れてしまっては困る。」

「計画?」

「そうだよ。僕には僕の計画がある。せっかくここまで来たんだ。頑張ってほしいね。」

「どんな計画っすか?」

「それはまだ言えないよ。あと2人ここへ来たら、すべてを話そう。じゃあね。」


 目に光が入り、朝を実感する。夢を見ていた気がするが、何か思い出せない。今日からヴァルたちと王都へ行く。服を着替えて、サリナの剣を腰にさし、部屋を出る。


・ケイル視点


「おい、お前ら人前でイチャつくなって。」

「別に普通だよ。」

「どこがだよ!毎日部屋から出てすぐの廊下でキスばっかりしやがって!次見たらお前ら別部屋な。」

「そんな人間の心を忘れたみたいなことしないでよ!」

「こっちはおっさんと同室だってのに!」

「ごめんね。おっさんで。」

「トーマス先輩が傷ついてるだろ!」

「トーマス意外に寝相が悪いんだよ!」

「ごめんね。こんなおっさんで。」

「だから!言い過ぎだって!」

「トーマスのいいところ言ってみろよ!」

「それは、あの、あれだよ、あの、その、な、うん。」

「ごめんね。何もないおっさんで。」

「お前の方が最低じゃねぇか!」

「違うよ!今のは良いところが多すぎて選んでたの!」

「嘘つけよ!完全に何も出てきてなかっただろ!」

「もう少し待ってくれたらいっぱい出すから!」

「ごめんね。考えないと良いところがないおっさんで。」

「トーマスが落ち込んでるだろ!」

 怒涛の朝食を終え外に出る。誰かが死んだからと言って悲しんでいたらチームが崩壊するとヴァルが言っていた。だから、エリドアが来たときに明るくなれるようにしゃべっていたらトーマスを傷つけていたらしい。今はマルリックに慰めてもらっている。

 これから久しぶりの王都だ。手狭な馬車に乗り、中央に向けて走り始める。


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