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第二十一話

・ヴァル視点


 父が話始める。

「そんなことを考えていたのか、アークレイオン。」

「父さん!こんな家を捨てたやつよりも俺の方がエルトリアにふさわしい!」

「当主の座が欲しかったのか。」

「そうだよ!子供のころからずっとそうやって教育したのはあんただろ!」

「そうだったな。すまない。」

「すまない!?謝ってほしいわけじゃない!今ここで当主には俺がふさわしいと言え!俺はずっと我慢してたんだ!ヴァルセリオンが家を出て行った日から俺だけが次期当主に選ばれると思ってたのに!いつまでもこいつにすがりやがって!なんでだ!?こいつが俺よりも優れているからか!?」

「そうじゃない。」

「なら!」

「ヴァルセリオンが家を出てから、いや。ヴァルセリオンと喧嘩したあの日から。ずっと悩んでいた。こんな家はあって良いのか。」

「は!?」

「他人を尊ぶことこそが権力なんかよりも大事なんじゃないかって。私は悩んでいたんだよ。」

「なんだよ!今更!俺にそういう生き方を強いてきたのは父さんだろ!」

「そうだったな、すまない。」

「なんなんだよ!ガキの頃からしたくもない勉強をさせられて、剣術だって体中に痣ができるまでやらされて、その上出来が良くないと声もかけてくれない!そんな中で当主になることだけが希望だった!それなのに!」

「許せとは言わない。恨んでもらって構わない。ただ、悪かった。こんな父親で。」

「この!」

 アークレイオンは剣を取り、父に切りかかる。そこをトーマスが止める。一太刀目を受け流し、腹を殴る。アークレイオンはそれで気絶した。涙を流しながら。

「家族団欒に首を突っ込んだことを許してほしい。」

「すまない。他人にしか止められない家族で。」

「謝る相手が違いますよ。あなたは一生その罪を背負っていかなくてはいけない。あなたがしてきた教育方針を子供たちがいつか満足できるように償ってあげてください。子供は教育を選べませんから。」

「そうだな。ヴァル悪かった。家を守るためにお前たちを駒のように扱ったことを謝罪させてほしい。」

「許せるわけがない。」

「ああ。」

「だが、一緒に茶を飲むくらいなら付き合ってもいい。」

「そうか、それは、よかった。」

「ヴァルセリオン・エルトリアとしてではなく、ヴァルとして素直になったあんたを尊敬する。」

「素直か…私もまだまだ子供だな。」

「そうでもない。昔のあんたなら出てこなかった言葉だ。だからあんたを一人の人間として尊敬する。」

「それは、よかった。」

「アークにも、使用人のみんなにも尊敬を貰える人間になることを願っている。」

「分かった。必ず。」

「じゃあ、母さんを待たせてるから。」

「ああ。」

 トーマスと部屋を後にする。この家も変わっていくんだろう。不変であることは美談ではない。誰でも、いつでも変われることを知っている。でも変わろうとしない。それが正しさであると思いたいから。正しさのまま今日を生きることが楽だから。この一件で俺も何か変われただろうか。変われたことを信じて明日を歩こう。

 トーマスとはすぐに別れた。団欒を邪魔したくないそうだ。母とはこれまでの話をした。家を出てからここへ帰ってくるまでの物語を。不格好でおいしいクッキーと暖かくて苦い紅茶と共に。


・ケイル視点


 宿に帰る途中でトーマスと会った。特に何も話さなかったが、何とも言えない表情であることを見るとヴァルの家で何かあったのだろう。でも、どこかスッキリした表情にも見えた。悪いことではなさそうだ。

 部屋に戻り、少しくつろぐ。こんなにのんびりできる日もそこまで多くないだろう。今のうちに体力を回復させて、明日からの戦いに備えなくては。

 ベッドに入り、目をつむろうとする。当然かのようにアリスが入ってくる。

「今日も?」

「ダメなの?」

「い、いや。そういうわけじゃないけど。」

 腕に頭を乗せられ、もう片方の腕を腰に回す。

「今日から一緒に寝るから。」

「ふぇ!?」

「もう決めたの。」

「そ、そうなんだ。」

 顔を見合わせ、口を合わせる。お互い服を脱ぎ、ベッドに倒れる。

 そのまま寝てしまう。いつもより、暖かいベッドに身を沈めて。安心する彼女と一緒に。

 朝になると6人が同じ部屋で朝食を食べる。ここの御親兵を打倒するための作戦会議だ。幸いここの地理はヴァルが把握している。

「あら、あんたたち、変わったわね。」

「ん?何が?」

「別に~」

 サリナが茶化してくる。なんで、みんなこう察しが良いんだ?

「こいつらの話は、今はいい。こっちの話だ。今回は前みたいに戦力が分散していることがないから、前回よりも苦戦するだろう。」

「『能力者』についても把握したいね。」

「そうだな。俺の勝手な予想だが、2人だと思っている。」

「なんでかな?」

「【ピロニス】では二人だった。王子暗殺に向かった御親兵はただの人間だったと言っていたからな。それに、上級貴族どうしそんなに戦力に偏りがあるとは考えづらい。」

「確かに。それでも4人での作戦は無茶だね。」

「そうだ。だから、助っ人を呼んでおいた。俺の剣術指南役と子供ころ世話になった幼馴染みたいなやつだ。事情は話してある。」

「6人ね。それでもきつい戦いになるだろうね。」

「二人増えただけマシだろ。」

 今夜決行するみたいだ。

「どうやって前みたいに御親兵を集めるの?」

「夕方があいつらの交代の時間だ。この時間に行けば多分全員居る。」

「なんでそんなこと知ってんだよ。」

「俺は中流貴族出身だぜ。このくらいは知ってる。」

「それもそっか。」

「アリスとエリドアはここで待機だ。以上解散!」

 部屋に戻って用意をする。服を着替えて、剣を腰につける。ナイフを後ろに付けて準備完了だ。いつでも戦闘に入れるように心構えも作る。

「大丈夫?」

 アリスが心配そうに顔を覗かせる。

「大丈夫だよ。心配?」

「うん。絶対帰って来てね。」

「分かってる。帰ってくるからこの部屋で待っててね。」

「うん…」

 アリスはまだ心配が残っているようだ。次は誰が死ぬかわからない。誰も死なないように全員が神経を使う。神経質なまでに準備を怠らない。シルヴィアのような惨劇を繰り返さないように。

 夕方、宿の外に出る。宿の前には二人の男女が立っていた。

 一人はマルリック。ヴァルの剣術指南役の男性だ。歳はトーマスに近く40歳。髪の毛がなく、高身長だ。

 もう一人はエラリア。ヴァルの幼馴染の女性だ。平民らしい。僕らよりは少し年上のお姉さんの19歳。紫髪が特徴で、剣術はかなりの腕前らしい。

「よし、面子はそろった。行くぞ。」

 中央に向けて歩き始める。

 今回は僕、トーマス、ヴァルが先に正面から突入しサリナ、エラリア、マルリックが裏から入る。前と似たような布陣だ。身軽な女性陣が裏から敵を殲滅してくれることで『能力者』に集中できる。

 上級貴族カースティリオの館に到着する。しかし、誰もいない。気配もない。

「どういうことだ?」

「だれもいないみたいだね。」

「なんでだろう?」

 3人とも疑問を隠せない。中から先ほど別れたサリナ、マルリック、エラリアが出てくる。

「誰もいなかったわよ。」

「話が違うぜ。ヴァル。」

「ヴァルってホントお茶目なこと」

 全員が不思議に思っている。

「家を間違えたんじゃない?」

「そんなことあるわけないだろ。ここが街の中心だぞ。それにこんな大きな館を見間違えるわけない。」

「確かに。」

「一度宿に戻るぞ。」

 6人で帰路につく。拍子抜けした僕らは何とも複雑な気分で歩いている。宿に帰るとアリスがうれしそうな顔で抱き着いてくる。

「よかった!」

「いや、早くない?」

「なんでこんなに早いの?」

「誰もいなかったんだよ。」

「そうなの?」

「うん」

「あんまりイチャつくな。ここで。」

「あ、ごめん。」

「たく…」

「なんで誰もいなかったんだろうね。」

「さぁな。なんでだ…。そうだ、すまん二人とも呼んでおいて。今日は動きそうもない。わるk」

 ふとサリナが倒れる。背中から血を出して。


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