第二話
【王都・アルカンシア】ここは3つの階層に分けられた王が住む土地。3階層に商人や職人。2階層に貴族や王宮に仕える従者。1階層が王や王の親族が住まう王宮だ。四方に広がる都市の中心に位置し、すべての重要機関が集まっている。
ようやく王都についた。こんなに遠出したのは初めてだ。貴族の出でもない僕にとっては、初めての王都だ。学校の絵でしか見たことのなかった光景が目の前に広がっているのは感慨深い。とは言ってもかなり前の絵な為かなり風景は変わってしまっているが。
到着してすぐに3階建ての宿舎に案内された。王都の3階層・東側を見回る警備隊の宿舎だ。警備隊の中では一番位が低いのに、立派な部屋だ。部屋が一つと簡単なキッチンがある。トイレ等は共有のようだ。一人で暮らすには十分すぎる。
「ふぅ、やっと一息つける」
初めての長旅で自分が思っている以上に疲れている。明日から警備の仕事がある。今のうちに道具の手入れとある程度の地理を把握しておこう。
部屋を出て、店が多い通りを歩く。人がいないところがないのではないかと思うくらい栄えている。ここにいる誰もが各地方で成功した様々な分野の一流と呼ばれる者たちだ。こんな人たちのそばで働けることを誇らしく思う。
馬車に乗っている間は食べ物を十分に食べることができなかったため、お腹がすいた。どこかでご飯を食べようと周りを見渡すと、お店が目に入ったのでそこへ入ることにした。
「いらっしゃいませ。申し訳ありません、ただいま満席で他のお客様と一緒でもよろしいですか?」
「いいですよ」
案内された4人用の席には一人の男が座っていた。年齢は同じくらいだろうか。暗い緑の髪に、すらりとした体系、どんな職業分からない服装。そして、何を考えているのか察せない目つき。第一印象は不気味だ。普通この時間帯なら仕事にあった服装をしているはずだ。
「お客様、お隣に他のお客様が座ってもよろしいですか?」
「ええ。かまいませんよ。」
座っている人物にも了承を得たようなので、案内された席に座る。【ルメレイン】にあった料理とは違うものがメニューに並んでいるので、何を頼もうか悩んでいると
「地方から越してきたんですか?」
「はい、今日こっちに来ました。分かりますか?」
「ええ。なんとなく雰囲気で」
「私は【ルメレイン】から来ました。今年から王都での警備隊に配属になりまして」
「そうなんですか。その歳で王都に来られるなんて優秀ですね。」
「とんでもない。ただ運がよかっただけですよ。ええっと…」
「まだ名乗っていませんでしたね。僕はヴァル。このあたりで花屋をやっています」
「私はケイルです。一回も王都には来たことがないので右も左も分からなくて…」
「でしょうね。僕もこっちに来たときは全然わからなかったですよ。注文にこまっているなら僕のおすすめを頼みましょうか?」
「いいんですか!?ぜひお願いしたいです。」
そういうと、ヴァルは何品か注文してくれた。
「ヴァルさんも地方出身なんですね。もう長いですか?」
「いえ、まだ2年の新人ですよ」
「よかったです。初日に良い人に出会えて。」
「そう言っていただけてうれしいです。王都は地方の都市と比べて治安が良いとは言えませんから。人には気を付けてくださいね。」
「治安が悪いですか…聞いた話だと警備が暇になるくらい平和だと聞きましたけど」
「表面上だけですよ。住む場所で階級がはっきりしているところですから、不満をもってよからぬことを考える輩も多いんですよ。」
「そうなんですね…」
「もしかして、来て早々幻想を壊しちゃいましたか?」
「いえ、とんでもない。働く前からこんな話を聞けてありがたいです。」
「それはよかったです。この後、何もすることがなければうちの花屋によって行きませんか?サービスしますよ」
「商売上手ですね。ではお邪魔させていただきます。」
料理が運ばれてきて、それらを平らげた後ヴァルの花屋へと足を運んだ。
「ここがうちの花屋です。」
そこは3階層と2階層の門の目の前にある2階建ての建物だ。1階部分が店であることを考えると2階が住居スペースだろう。店に入ると心地いいような懐かしいような、なんだか安心する店だった。
「良いお店ですね。私の部屋には花瓶がないので花瓶ももらえますか?」
「ええもちろん。」
「ありがとうございます。あんまり花には詳しくないのでなにかおすすめはありますか?」
「そうですね…これなんかどうですか?」
白と赤の花を勧められた。自室にはまだ備え付けの家具がおいてあるだけなので、雰囲気が変わって良いかもしれない。
「良いですね!これをもらいます」
「気に入ってもらえたようでよかったです。今後ともよろしくお願いしますよ。ケイルさん」
「はい、ぜひお邪魔させてもらいますよ」
花瓶と花を貰い帰ろうとした時
「あら、お客様ですか?」
従業員と思われる女性が店内に入ってきて、目があった。この女性も僕やヴァルと同じくらいだろうかまだ若い印象がある。青の髪色は店内の雰囲気に合っていて違和感がない。
「ああ、さっき会ってね。花を買っていただいたんだ。」
「そうなのですね。お買い上げありがとうございます」
「いえ、お世話になったのでお邪魔しただけです。いいお店ですね」
「そう言っていただけて我々もうれしいです。失礼ですがまだこの街にきて日が浅いように見えますね」
なんでそんなにわかるのだろうか。そんなに変わった言動をしているつもりはないんだけどな…。
「よくわかりますね。ヴァルさんにも会ったときに言われました。」
「なんというか、雰囲気で」
「お二人とも鋭いですね。一緒に働きたいくらいですよ。」
「一緒に?お仕事何されているのですか?」
「国王軍の兵士ですよ。まだ警備ですけど」
「兵士…!?」
「ええ、明日からですけどね。前までは国王軍【メルレイン】支部で兵士をやっていました」
「そうなん…ですね」
「?すみません、どうかしましたか?」
「いえ。その若さで王都に昇進なんて聞いたことがなかったので、驚きました。」
「こんなに引き止めたらケインさんに悪いだろ。シルヴィア。長話が過ぎましたね。」
花と花瓶の梱包がおわったらしいヴァルが声を上げた。
「いえとんでもない。楽しい時間でした。」
「今後とも御贔屓にお願いしますね。ケインさん」
店を出た後、宿舎に帰って早速花を飾った。備え付きの家具しかないが、明るくなった気がする。
明日に備えて道具の手入れをしておく。といっても剣と弟からもらったナイフ、明日履いていくであろう靴を磨くくらいしかないのだけれど。自分の前にこれらのものを並べて順番にきれいにしていく。拭きながらふと今日の出来事を振り返る。
ヴァルさん。いい人に会えたな。初日に友人と言えるか微妙なところだが、顔見知りができてよかったと思う。それにしても最後に合った女性の店員といいヴァルさんといい若いのにお店を切り盛りできるなんてすごいな。
それにしても、王都の治安が悪いことには驚いた。王様が住んでいるのだから平和なのだろうと勝手に思っていた。【ルメレイン】もパッと見は治安が良いが、裏では薬物や強盗も起きていた。どこも同じなのだろうか。考え事をしていると、道具の手入れも終わったので、少し早いが寝ようと思った。寝過ごして遅刻するわけにもいかないし、特別やることもないし。
布団に入って今日も夢を見る。幸せとはかけ離れた、懐かしい夢を。