第十五話
・ケイル視点
正面でトーマスとは別れた。トーマスはサリナを、僕はヴァルを助けに行く。本当に人数が多い。もう、40人以上とは会っている。御親兵らしき人物とは一人も会っていない。
中庭に出た。何もない閑静なところで、戦いとは無縁のような感じがした。引き返そうとした時に、男が歩いてくる。黒髪で、腰まであると思われる長髪。女性と見間違えるほどの美貌。何も持っていないところを見ると戦闘員ではないのか。
「何用です?」
「上級貴族暗殺に来た。貴族はどこだ?」
「なるほどです。やっぱり、嘘ですか。その噂は。」
「なに?」
「いや、おかしいです。嘘をついてまでここまで来たのは愚かしいです。」
「なんだと。」
「からかってしまったみたいです。でも、どうせ死ぬんです。許してくださいです。」
「死ぬ?」
「ええ、あなたは今ここで死ぬんです。」
殺気が身を包む。臆さずに剣を握る。
「やりますか。わたしは御親兵です。名をフィーアです。ここまで来たあなたを歓迎する者です。」
「手ぶらで何ができる!」
フィーアに切りかかる。素手相手に負けるはずがない。
「『物体移動・剣』」
剣と剣がぶつかる。フィーアが何か言った瞬間に何もないところから剣が出てきた。カキン!カキン!と何回も交わる。押し合いに負け、後ろに下がる。
「やるですね。その身体能力は、『能力』を持っているんですね。」
「お前も『能力者』か。」
「そうです。案外楽しめそうです。」
向こうから寄ってくる。右の大振り。これを受け流し、懐に入る。胴体に切りかかり、体を半分にしようとする。
「『物体移動・盾』」
目の前に盾が現れて防がれる。盾に、攻撃が吸われたところで、蹴りを入れられるがそれを受けても突進する。盾で殴られて、後ろへ飛ぶ。鼻から血が出てきたのを確認して、それを拭う。
「やるですね。今の攻防で鼻血だけですか。」
「舐めてたら足元すくわれるよ。」
「それもそうですね。『物体移動・槍』」
剣と盾がどこかへ消え、槍が現れる。リーチ差で圧倒するようだ。槍を投げられる。咄嗟にかわしたが、わき腹をかする。
「なっ!」
驚いている間に、距離を詰められる。
「『物体移動・双剣』」
双剣が現れ、態勢を崩した僕の目の前まで距離を詰める。何とか一振りするが、簡単に止められ、もう片方の剣で腹を刺される。
「ぐっ…!」
脇を抉られる前に蹴り飛ばし、態勢が崩れたところで、頭を狙う。
「『物体移動・槍』」
現れた槍で、剣を止められ消えた双剣の変わりに槍を持つ。そのまま、追撃する形で肩を貫かれる。その勢いで後ろまで飛ばされ、壁にめり込む。
肩と腕が奇跡的にくっついている状態を見ると、剣を振ることは難しいだろう。
「『物体移動・弓』」
間髪入れずに弓を構えるフィーア。弓が飛んできて、腹、足、腕に突き刺さる。
「おかしいですね。」
「な、、にが、、、だ。」
「なぜ『能力』を使わないのです?」
「切り札は、、、見せない、。」
「違うです。使えないですね。」
「!?」
「報告通りです。」
「はぁ?」
「気づかないですか。あなた方の情報が筒抜けなことにです。」
「な、、、んで」
「それはあなた方の中に裏切り者がいるからです。」
愕然とする。そういうことか。なんで、御親兵がこんなに少ないのか分かった。おそらく、御親兵の中でも屈指の実力者を館に残し、それ以外で王子を殺しに行ったのだろう。それを、悟らせないために奴隷商人を配置し、人数をごまかした。
「こんなに楽だとは思わなかったです。」
弓を構える。最後の一矢が来るらしい。いつかの夜。初めて『能力』を使った日。こんな星空だったな。今でも使えることを信じて。
「殺せ!」
何も起きない。
「そういうことですね。あなたは『能力』について何も理解できてないです。」
は?どういうことだ…。
「そんなに便利な代物じゃないです。もう、しゃべる気力もなさそうなので終わりですね。」
「『花園』」
空いている穴も、かすり傷もみるみる回復していく。
「まだ、戦えるだろ。ケイン」
「ヴァル!」
「加勢です?少しほっとするです。もっと、楽しめそうな相手なのです。」
「行くぞ。」
「うん!」
立ち上がり前を見る。足元は全部花畑で安心する雰囲気だ。剣を握り、足に力を入れ立ち向かう。
「『物体移動・剣、盾』」
ヴァルが先に突っ込む盾で止められ、僕はフィーアの剣を落とす。バランスを崩したところでヴァルが追撃に入る。盾を蹴り飛ばし、武器を奪う。同時に切りかかる。
『物体移動・双剣』
双剣で止められる。しゃべらずにも使えるのか!?
『物体移動・剣』
体に激痛が刺さる。後ろから剣が突き刺さっているのだ。後ろには誰もいない。あっけにとられている間に、フィーアに腕を落とされ、ヴァルの腹を切り裂く。ありがたいことにすぐに回復する。
「声を出さずに使えるのか…!?」
「ああ、これは厄介だ。しかも、遠隔で攻撃できるとは。」
「これがわたしの『物体移動』です。相手に触れてから実体化する防御不能の絶対攻撃です。どこへ逃げようとも、射程範囲は関係ないです。」
まずい。ヴァルの『花園』のおかげで生きているが、いつヴァルに限界が来てもおかしくない。
「ちなみにこんなこともできるです。」
『物体移動・自身』。
二人の間に突然現れる。
「なっ!?」
「くっ!?」
双剣で剣を落とされ、喉を刺され、ヴァルは頭に双剣を刺される。すぐに双剣を抜いて回復しようとするが、フィーアは止まらない。
『物体移動・斧』
斧で二人とも胴体を切られ、中身が飛び散る。
「う…」
ヴァルは斧に対して剣で打ち合ったため、剣が折れる。二人とも壁まで吹き飛ばされる。すぐに回復し立ち上がる。
「あなたの『能力』とても強力です。火力では攻略できそうもないです。」
「てめぇのだって単純だが、回復量でどうにかできるレベルじゃない。」
「ふっ、そうです。一度もわたしに触れられないあなた方が勝てるわけないのです。」
剣を手放した僕と。折れた剣を持っているヴァル。無傷で立っているフィーア。一斉に走り出す。素手と刃折れと双剣がぶつかり合う。こぶしが切られ、激痛が走る。そのすきに剣を拾い上げる。ヴァルは懐に入り、腹に剣を押し込もうとする。
『物体移動・槍』
ヴァルは正面から槍で貫かれて壁まで戻される。剣を握った僕は振りかざすが腹を切られ、腕を落とされる。よろめいたところに双剣の片方を投げられ地面に倒れる。
「わたしには勝てないです。『物体移動』は攻略不可能なのです。」
悔しいが策が思いつかない。ナイフが入っていることを思い出す。立ち上がり、覚悟を決める。ヴァルも何か思いついたらしい。
「合わせろよ」
「そっちが」
フィーアに向かって、突進をする。
『物体移動・剣、盾』
直前でナイフを投げる。盾ではじかれるが、その一瞬の隙を誰も逃さない。ヴァルが後ろから詰め寄る。
『物体移動・剣、剣』
ヴァルの腹部と喉元に2本の剣が突き刺さるが止まらない。それに驚いたフィーアが一瞬態勢を崩す。そこへ剣を弾き飛ばし、右足を落とす。ヴァルが持っているはずのない折れていない剣で左腕を落とす。
『物体移動・自身』
腕と脚を失い、それでも立っているところを見るとただ、『能力』が強いだけではないと感じる。
「どこに隠していたんです?」
「俺の『花園』はある程度の荷物をしまえるんだ。剣一本くらいならな。」
「やるですね。でも、これで遊んでる場合ではなくなりました。」
『物体移動・剣、剣、剣…』
無数の剣が二人の全身に突き刺さる。もはや、筋肉より、鉄の方が多い。流石に死んだか、と思ったがいきなり全身が回復し『花園』が光輝く。
「なんです?」
回復どころか力があふれてくるようだ。
『物体移動・剣、剣、剣…』
剣が刺さってもすぐに回復する。何もなかったみたいに。
「なんです!?それは!?」
ヴァルも何がなんだかわかっていないようだ。驚いている間に切りかかる。自分のポテンシャルをはるかに超えたそのスピードで。一瞬にして首を落とす。
「なるほどです。こういうシナリオなんですね。」
死ぬ間際によくわからないことを言っていたが気にしている場合じゃない。
「大丈夫!?ヴァル!」
急いで近づいて安否を確認する。
「ああ、なんとかな。」
「あんな切り札があるなんてすごいよ!」
「いや、あれは…」
「?」
「俺にも分からない…」
「え?」
「いきなり、力があふれだしたんだ…」
本人すらわからない未知によって勝ったらしい。服はもう原型をとどめていないが、体は無傷。不思議な感覚だ。
「もう、終わったのか?」
「僕は道中で40人近く会ったけど、みんなはどうなんだろう…」
「俺も20人は見た。屋敷も静かだし、一回トーマスとサリナを探しながら探索しよう。」
「そうだね。」
半裸の状態で歩き回る。夜になると、昼間の暑さはなくなり寒い。屋敷内は静かなものだ。血が散乱して生臭いが、生者は一人もいない。扉を開けると大きな部屋についた。
「サリナ!トーマス先輩!」
二人を発見して近づく。
「あれ?エリドア…?」
いるはずのない人物に困惑する。
「ケイル!見つけたか?」
「うん。ここに3人いるよ。」
ヴァルも遅れて部屋に入ってくる。
「3人?誰だ?」
「エリドアだよ。」
「なんでこいつがここに?」
「さぁ、分からないけど、回復してあげてよ。」
「そうだな。『花園』」
二人はボロボロの体を起こし、目を覚ます。
「大丈夫か?二人とも。」
「ええ、ありがとう。ヴァル。助かるわ。」
「ありがとう。ヴァル。これで、歩けるよ。」
「エリドアがどうしてここに居るの?」
「分からないわ。気が付いたらここに居たの。助けてくれたのよ。きっと。」
意識もなく、動けないはずの彼がどうやってここまで来たのだろう。心配でついてきたのだろうか。それとも彼も何かの『能力』を持っているのだろうか。
「後で話すぞ。やることは終わった。帰るぞ。」
3人はうなずき帰路につく。夜中は冷え込むので外にいる人は少ない。みな、家に帰って温まるのだろう。何事もなく帰ることができた。
家に着くと、家の前でアリス、セラフィナ、リオナー、王子、フェルガスが立ち尽くしていた。家の中から王子が出てきて。
「すまない。ヴァル君…。失敗した。」




