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第十四話

・サリナ視点


 日が落ちた。屋敷の正面も騒がしい、中もだいぶ騒々しい。突入のタイミングが回ってきた。

「よっ!」

 塀を超え、侵入する。誰もいない。案外簡単ね。建物内にも侵入できた。廊下に人を確認する。

「そこのお前何をしている!」

 手に力を込めて、剣を握る。

「貴様!答えぬか!」

 向こうが近づいてくる。剣を抜く音が聞こえる。まだ、前を見ない。音だけに集中する。鎧の足音。リズムよく聞こえてくる。射程内に入ったのを確認する。剣を抜き敵の首めがけて突進する。

「なっ!」

 相手は反応すらできず、転がる。

「よし。まずは一人。」

 最北の剣術。名を凍月。自分が最も得意とする距離に敵を引き込んで一瞬で亡き者にする剣術。四方で広まっている剣術の中で最速。最も殺傷能力が高いとされている。まさに一撃必殺。

 あんまり、うかうかしてらんないわよね。どんどん倒して行かなくちゃ。

 部屋に入る。大きな部屋だ。一人の男性が座っている。本を読んで。私とそっくりな黒髪で短髪だ。年齢も近そうな感じがする。こちらに気が付いたのか本を閉じる。ゆっくりと立ち上がって、手を精一杯開きながら歩いてくる。

「やあ!ぼくはアインス!『肯定しよう!ここまで来た君を。』」

 いきなりのハイテンションに驚く。

「君名前は?」

「…サリナ。」

「そっか!君はサリナって言うんだ!」

「なんで、名前なんか聞くのよ…」

「だって君は、ぼくを殺しに来たんでしょ?」

「そうだけど…」

「いいじゃないか!サリナって名前!『肯定しよう!君の名前を!』」

「は?」

「『肯定しよう!君の挑戦を。』『肯定しよう!君の弱さを。』『肯定しよう!ぼくの勝利を。』」

 何を言っているのか分からない。剣を構える。向こうが歩いてきてくれたおかげで射程距離までもう少しだ。一歩踏み出す。力を込めて突進する。

「『肯定しよう!君の攻撃を。』『肯定しよう!ぼくが受け止めることを。』」

 首元に剣を振りかざす。すると、簡単に手で止められてしまった。

「ダメじゃないか!ちゃんと殺さなきゃ!」

「なっ!」

 手で受け止められる!?剣を!?しかも、焦る素振りなどは見られなかった。余裕で、凍月の剣術を止めたのか。

「『肯定しよう!君を殴ることを。』『肯定しよう!君が地面に転がることを。』」

 次の瞬間、すさまじいパンチが腹部に当たる。

「うっ!」

 体が浮き上がり、地面に転がる。

「なっ、、、はぁ、、、うっ、、、」

 息ができない。剣も握れない。立ち上がれない。でも、勝たなくちゃ!息もできないまま、立ち上がる。

「はぁ、、、うっ、、、」

 ただの一撃でこんなにも実力の差が浮き出るとは…。

「『肯定しよう!君の根性を。』すごいね!君!今のを受けて立ち上がるなんて!」

「ば…ぁにしてる…のか。はぁはぁ…」

「『肯定しよう!君がぼくの一撃をもう一度食らうことを。』」

 歩いてきて、もう一度腹部にパンチを貰う。よけることもできない。地面に転がる。次はもっと痛い。痛いというより自分のすべてを否定されている気分になる。

「かぁ、、、はぁ、、、な、、、う、、、」

 息が…。立てない。動けない。何もできない。

「これでようやく終わりかな!2発も殴ることになるなんて!びっくりするよ!」

 なんだ?さっきから。ただの打撃がこんなに痛いはずが…。

「『肯定しよう!ぼくが君の腕を折ることを。』」

 蹴りが飛んでくる。それを咄嗟に腕でガードする。バキ!腕から悲鳴が聞こえる。

「くっ、、、なっ、、、」

 腕がぶらんと下がる。もう、痛覚もあまりない。立つことさえままならない。

「ごめんね!もう、終わりにして次に加勢しに行かなくちゃいけないんだ!」

「ま、、てぇよ」

「まだ、やるのかい!?『肯定しよう!君の底力を。』でも、もう君とやりあっても楽しめなさそうだし!もういいよ!」

 声がだんだん遠くなる。片腕が無くても、打てる剣技がある。腰につけているナイフを手に取る。

「いいね!いいね!『肯定しよう!君がぼくと戦い続けるのを。』」

 向こうから寄ってくる。激痛の中、集中力を研ぎ澄ます。足跡だけに集中する。かすかに見える目を見開いて、一撃を繰り出す。次は首ではなく、腕を狙う。彼には勝てないと察し、次に託すことにした。

 一瞬にして腕を飛ばし、その反動で自分も飛んでいく。受け身も取れないこの体では無理をしすぎたか…。

「ど、、、うだ。」

「へぇ~。すごいじゃないか!完全に油断したよ!腕を切り落とされるなんて!『肯定しよう!君の負けず嫌いを。』『肯定しよう!ぼくの腕が回復することを。』」

 瞬きの間に彼の腕は生えていた。

「なっ!」

「ごめんね!ぼくの『全肯定』は万能なんだ!どうしても『能力』を使えない君ではとても歯が立たない!『肯定しよう!君の勇気を。』」

 『能力』…?なに、それ。人間じゃないのね…。これはもう無理ね。

「待て。その人を殺さないでほしい。」

「ん?君は誰だい!」

「トーマス。その子の仲間だよ。」

「トーマス!強そうだね!『肯定しよう!君の参戦を。』ちょうど終わったところなんだ。どうするんだい!この状況をひっくり返せる何かがあるのかい?」

「いや。そんなのはないよ。ただ、仲間を救うだけだよ。」

「良いね!かなり良い!ぼくもぞくぞくしてきた!『肯定しよう!その心意気を。』」

「立てるかい。サリナ。」

「う、、、ん」

 力を振り絞るが何も動かない。

「『肯定しよう!君が彼女を助けることを。』」

「なに。そのしゃべり方。」

「これが僕の『能力』でね!『全肯定』っていうんだ!」

「なるほど。それで。」

 トーマスが近づいてくる。

「大丈夫?」

「だ、、、ぶ」

「よくなさそうだね。」

 目の前に花束が渡される。

「!?」

 折れていたはずの腕が、痛みがなくなって健康な状態へと戻っていく。

「君も『能力』使えるのかい!」

「いや。仲間の力だよ。」

 ヴァルの『花園』は遠隔でも機能する。そのため、『能力』発動中に花を回収しておけばいつでも使える万能薬に変わる。

「『肯定しよう!その力で回復することを。』『肯定しよう!ぼくに再戦することを。』『肯定しよう!今一度ぼくに勝利を。』」

 手足の具合を確認する。傷が嘘みたいに消えた。

「行けるかい?」

「ええ。いつでも行けるわよ。」

「じゃあ、」

「「殺す」」

「『肯定しよう!その発言を。』」

 剣を構えて向かっていく。一撃必殺ではなく、確実にダメージを入れる攻撃を。トーマスと同時に切りかかる。

「『肯定しよう!ぼくに攻撃が当たらないことを。』」

「くそ!」

「なるほど。」

 二人の攻撃は空をまう。よけられたと言うよりも当たらなかったと言う方が正しい。

「剣を抜かないのはなんでよ」

「抜く必要がないからね!ぼくが剣を使ったら戦いにならないよ!『肯定しよう!2撃目を放つ君たちを。』」

「舐めやがって!」

 首元めがけて突っ込む。

「『肯定しよう!ぼくがその攻撃を受け止めることを。』」

 手で簡単に受け止められた。が、次の瞬間にアインスの首が飛ぶ。トーマスが死角から攻撃をしたのだ。息を殺し、絶好のタイミングを待って。

「殺れた!?」

「『肯定しよう!僕が生き返ることを。』」

 生首がしゃべった瞬間、首と胴体がくっつき、立ち上がった。

「なっ…」

「やばいな。」

「今のよかったよ!『肯定しよう!君が知恵を働かせたことを。』『肯定しよう!ぼくが『能力』の秘密をばらすことを。』ぼくの『全肯定』は一度でも肯定したことが覆らない!これが絶対条件だよ!ぼくは最初に自分が勝つことを肯定しているから僕が負けることは絶対にありえない。」

「そんな…」

「これはまずいね。」

「だから、君たちがいつまでも攻撃を繰り返しても無駄だよ!『肯定しよう!君たちの無駄を。』『肯定しよう!君たちの敗北を。』」

「なっ、まずい!」

「これは逃げるしかないね。」

 扉に向かって走る。全力で。

「逃げてしまうのかい?つまらないな!『肯定しよう!君たちがぼくに立ち向かうことを。』」

 扉まで行けず二人とも体が止まる。逃げてはいけない。という信念が心に湧いてきた。振り向き、立ち向かう。

「いいね!そうだよ!逃げるなんてつまらないよ!『肯定しよう!ぼくが一撃を放つことを。』『肯定しよう!トーマスがよけられないことを。』」

 アインスから放たれた無慈悲な一撃はトーマスを吹き飛ばした。

「『肯定しよう!君が攻撃を外すことを。』」

 空振りをする。

「『肯定しよう!ぼくの一撃で吹き飛ぶサリナを。』」

 空ぶって、動けない態勢で蹴りを食らう。先ほどとは段違いな攻撃だ。トーマスとは反対方向に飛んでいく。

 声も出ない。どうしても勝てない。自分が足手まといになるなんて考えたこともなかった。いつだって、誰かの先頭に立ってたはずなのに。誰にも笑われないように、どこへ行っても褒められるように頑張ってきたのに、これが最期か。

「エリドア…ごめんね…。」

 瞬きをするとアインスの首が飛んで行った。

 いつの間にか、自分は座らされていて、エリドアを膝枕していた。

「な、、、んで?」

 疑問しか残らない結果だったが、勝ったらしい。


・アインス視点


 サリナを吹き飛ばした。やっぱりつまらないな。戦いは。

 『能力』を持っている自分にとっては、人間を吹き飛ばすなんて朝飯前。一度も負けたことがない。負けることがあるわけがない。だから、飾ってるだけの剣も抜いたことがない。こんなものか。いつか、対等な対決ってやつをしたみたい。

 勝利が確定したから能力が解けたのか。やっぱり、つまらない。サリナにとどめを刺そうとした瞬間、首が遥か彼方に飛んだ。一瞬もなかった。反応できなかった。背後にはサリナを抱えている男の顔があった。それが最期の景色だ。

「ぼくは負けたのか。肯定しよう。ぼくの死を。」


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