第十二話
朝になる。夜中に比べてだんだん暖かくなる。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「朝一番に誰のかの顔を見るのは久しぶりだ。」
「そうなんですか?」
「ずっと寮で一人だったから。」
「そうですか…」
「何朝から、イチャついてんだよ。」
「おはよう。」
「そんなんじゃないって」
3人とも起き上がり、着替える。部屋から出て、顔を洗いにく。
「今日はどうするの?」
「昨日王子が移動するって言ってたからな。そこへ移動した後に地理を把握しておきたい。」
「そうだね。知識を入れておくと勝率が上がるからね。」
3人、廊下でしゃべっていると。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう」
シルヴィアと会った。
「よく眠れましたか?」
「はい、とても。」
「ええ。」
「そうだ、シルヴィア。今日出かけないか?」
「良いですよ。」
4人で探索するらしい。食堂へ行き、朝食をとる。
「午前中のうちに、移動を済ませたい。食後はテキパキ働くように。」
「分かってる。王子。」
食後に荷物を持って、徒歩での移動になる。裏道らしく、数人としかすれ違わなかった。
「ここか。」
到着すると何気ない民家のようだった。
「この人数では手狭だが、2日くらいなら問題ないだろう。私は昨日に続き、貴族に話をつけてくる。」
護衛をつけてどこかへ行ってしまった。
僕たちも荷物を置いて、部屋を確認しておく。
「じゃあ、行こうシルヴィア。」
「はい。」
ヴァルとシルヴィアが外に出ていこうとした。
「ちょっと待て、ヴァル。4人で行くんじゃないのか?」
「何言ってる。勝手に行けよ。」
「は?」
「3人で回るよりも、各々動いた方が効率良いだろ。」
なるほど。一理ある。この街も広い。固まっての移動はあまり賢いとは言えない。
「分かった。行ってらっしゃい。」
「ケイルさん。」
「はい?」
「アリスを連れて行ってあげては?」
「アリスを?」
「ここは王都ではないのですから外を出歩いても問題ないでしょう?」
「確かにそうですね。後で誘ってみます。」
そう言い残し、外に出て行った。アリスがいる部屋に歩いていき、声をかける。
「アリス。今から外に行くんだけど、一緒にいかない?」
「うん!行く!」
アリスを連れて出ていく。トーマスは一人行動の方が楽なのか颯爽とどこかへ消えてしまった。
ヴァルたちとは違う方向へ歩いてみる。この街は路地が多く、迷ったら帰ってこれそうもない。現地の人はこの暑さに慣れていて、気温に関係なく仕事をしている。
「すごいね。王都でも見たことないものばっかりだ。」
「これ綺麗…」
花型のガラス細工だ。
「確かにきれいだね。アリスは花が好きだね。」
「うん。綺麗だから。」
ある程度貯金もあるし、買ってあげてもいいかもしれない。値段を見る。
「たっ…」
思った以上に高価な品物に目がくらみそうになる。露店にこんな高価なものが置いてあるとは驚きだ。
「違うお店も回ってみようか。」
「うん。」
この街では、通りによって取り扱う店が違う。この通りは、工芸品が多い。横の通りは衣服みたいだ。だから、ほしいものは簡単に見つかる。上級貴族の屋敷がある中央に向かえば向かうほど高級店が多くなる。かといって、端の方に高級店がないわけでもない。
中央に向けて歩いていく。もちろん高級店で何か買えるほどお金を持っているわけじゃない。
「何か欲しいものあった?」
「うーん。これとか!」
また変わったガラス細工だ。何かの動物みたいだが、判別できない。
「何かの生き物みたいだけど何かな?」
「猫?」
「お客さん、それは犬だよ。」
「へぇー。」
犬か…。言われれば犬に見えないこともないが、こじつけ具合がすごい。4本足の動物なら何でもいけそうな気がする。
「それは、弟子が初めて作った作品でして、安くしときますよ。」
「ほんとですか!これください。」
「はいよ!」
アリスはまだ、他人が怖いようで帽子を深くかぶり顔を隠している。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
「熱いね。お二人さん。」
「そう見えますか?」
「ええ。羨ましいです。」
「それはどうも。お弟子さん見えるんですね。」
「ええ、私は職人ではないですが、知り合いの弟子でして。出来栄えはそんなに良くないのですが、どうしても売ってほしいと言われて。」
「そうだったんですか。」
「よかったです。売ることができて。お弟子さんが村の出身らしく、税を払うためにお金が必要みたいで…」
「そう…なんですね。村は大変ですよね…」
「ええ。可哀そうなもんですよ。金が払えないなら出ていけみたいな。完全に悪人ですわ。」
「それは…」
人が攫われる話は広まっていないようだ。都市の人々は何も知らされていないのか。
「酷い話ですね。」
「ほんとですよ。だから、買っていただいてよかったです。」
「ほかにもその方が作ったものはあるんですか?」
「ええ、何点かございますよ。」
「全部買います。」
「え!?ほんとですか!」
「はい。」
「それはよかったです。」
3つ追加で買った。
「これで、あの子も喜びますよ。」
お店を後にして、ご飯を食べることにした。一番近い、お店に入る。
「何か食べたいものはある?」
「うーん、わかんない」
確かにどれがなんの料理か分からない。適当に頼んでみる。
「これを食べ終わったら、中央に向けて歩いて帰ろうか。」
「うん」
料理が来て、それを平らげる。お店を出て、歩き始めた。
「お兄ちゃん!これ買って!」
知らない少年に声をかけられる。10歳前後といったところか。
「ん?どうしたの?」
「これ買ってよ!」
手に持っているのは、花だろうか。雑草にも見える。
「良いよ。おいくらですか?」
「ええとね。100カシア!」
「え?」
「100カシア!」
わが国で流通している通貨だ。1万カシアで4人家族が1か月暮らせるくらいの価値がある。この花を買うにしては高額だ。格好を見る限り、庶民的な生活もできていないのだろう。
「ええと、100…。いくつもらえるの?」
「これ一本!」
「そ、そうなんだ…」
「いくつ持ってるの?」
「今は10本だけ!」
「そうなんだ。じゃあ、10本頂戴。」
「いいの!?」
「うん。はいこれ。」
千カシアを支払い、10本の花を貰う。これで、財布の中身は空だ。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「どういたしまして。」
少年はどこかへ行ってしまった。
「よかったの?」
「いいよ。あの子にもいろいろあるだろうし。」
「この花いる?」
「え?う、うん。」
確かには何しては高額だが、困ってそうだったしいいだろう。
そのまま、歩き始める。中央に近づくにつれて、みな服装も変わってくる。いつの間にか富裕層エリアに入ったらしい。流石に暗くなってきて、寒いので上級貴族の館まで行くのは断念して帰ることにする。
「大丈夫?寒くない?」
「ちょっと寒い。」
「はいこれ。ちょっとは暖かいよ。」
一応持ってきていた上着を渡す。
「ありがとう」
「じゃあ、帰ろうか。」
「うん」
帰路につく。家に帰るとみんな集まっているようだ。トーマスが出迎えてくれる。
「おかえり。」
「ただいま帰りました。」
「いっぱい買ったんだね。」
「ええ、魅力的な物が多かったので。」
「そっか。よかったね。」
荷物を置いて、床に座る。
「帰ったか、ケイル。」
「うん。ただいま。」
「どうだった?」
「よくない話を聞いたよ。それに貧困そうな男の子にも会った。」
ヴァルはポカンとした顔でこちらを見る。
「違う。そうじゃなくて、地理は把握したのか?」
「え、ま、まあ。」
「そんなことだろうと思ったよ。」
「そんなとこってなんだよ」
「デートに夢中で何も考えてないと思ったよ。」
「多少見てきたよ。」
「そうには、見えんけどな。」
「見た目じゃ分からないだけだよ。」
「それならいいが。」
正直あまり見れていないが、見たいものは見れた。
「明日は本番だ。今日はぐっすり寝とけよ。王子は中級貴族の家に泊めてもらうらしい。王女もだ。護衛は向こうに行って、ここは俺らだけだ。話し合いは明日にして、今日は寝よう。」
それぞれ部屋に入っていく。一人一部屋はないので、ヴァルはシルヴィアと。サリナはエリドアと。僕はアリスと。トーマスは居間で寝るらしい。
今日はよく眠っておきたい。明日の夕方から動かなくてはならない。
寒い。外は雪が降っている。ベランダに出されている。裸足で軽装。手足の感覚は疾うになく、体中が痛い。寒さで痛いのか、打撲なのか分からない。どれだけ、窓をたたいても誰も来てくれない。それどころか、笑ってみている。妹は女の人から暴言を吐かれている。窓越しだというのにはっきりと聞こえる。家族は暖かいものだと聞いたことがある。それは当たり前で、誰も疑いもしない事実なのだろう。じゃあ、目の前に広がっている事実は何だろうか。誰かに相談しろ?逃げればいい?それは幸せ者の発想だと思う。不幸者は今日を静かに暮らせるようにすべてを受け入れる。それが、僕たちの最大限の抵抗だった。
目が覚める。朝になる前の空気だ。今日はよく眠れない日だった。横にいるアリスの顔が視界に入る。涙を流しているようだ。こちらもよくない夢でも見ているのだろうか。いつからかは知らないが、奴隷の生活をしてつらくないわけがない。夜な夜な泣くことも多かったのだろう。もう一度寝るために布団にもぐる。次は幸せ者の夢が見たい。




