第十一話
旅での感想は暇だ。同じ景色が永遠と流れる。村、森、村、森。たまに村に寄って何かを買う。そして、また走り始める。村、森、村、森。毎日馬車に乗っている商人は本当にすごいと思う。
人数が多すぎるので2台で行く。先頭に花屋組が乗り、後ろに王子御一行が乗る。乗っている間の行動はそれぞれだ。アリスは僕の隣で景色を楽しむ。ヴァルはシルヴィアの肩に頭を乗せ寝る。シルヴィアは本を読む。サリナはエリドアを自分の方へ寄せ馬車の振動で倒れないように支えている。トーマスは、剣の手入れをしている。
南の都市【ピロニス】。年中を通してうだるような暑さ。夜は極寒。住みづらい環境でも人々はたくましく今日も働く。ここでは工芸品が盛んで、どこでもきれいな品物が並ぶ。庶民が手を付けやすいものから、貴族でしか手に入らない高級品まで多様だ。【ピロニス】での工芸品は王都だけでなく、他の都市でも有名である。【ルメレイン】でも多く見られた。大抵が値段を見るのもおこがましい高級品だが。
馬車を降りる。各々荷物を取り、歩いていく。アリスは長旅で疲れたらしく歩くのがゆっくりだ。
「大丈夫?」
「…うん」
「大丈夫じゃないならすぐ言ってね。」
「うん」
にしても暑い。頭に布を置いてないと火傷するらしい。素肌をさらすのもNGらしい。
「ここだ。」
王子が案内したのは立派な屋敷だった。
「ここは?」
「一旦の休憩場所だ。今日はここで休み、明日移動する。」
屋敷の中に入る。ここは中級貴族の屋敷らしい。明日行くのもこの中級貴族の隠れ家だそうだ。
貴族にも明確な立場がある。中級貴族は都市内の土地を管理する。上級貴族が各都市に一人しかいないのに対して中級貴族は数人いる。下級貴族は周辺の村を管理する。最も人数がいる貴族だ。故に、下級貴族は中級貴族の前で大きな態度は取れないし、中級貴族は上級貴族に逆らえない。
「ようこそいらっしゃいました。私はここで中級貴族をしております。レオヴィクス・アーデルハイトと申します。」
貴族にしては屈強な体つきで、戦士としてもやっていけそうな中年の男性。
「すまない。アーデルハイト場所を借りるぞ。」
「とんでないです。王子。好きに使ってください。」
「助かる。」
部屋に案内され、一息つく。全員疲れているようだ。
「疲れているところ悪いが作戦会議だ。」
部屋の中央に集められ、話し合いを開始する。
「まず、【ピロニス】にいる上級貴族はノクシリオン家。ここでは、都市に住んでいる人々は税が軽く、周辺の村々には重い税を強いている。税を払いきれない村は人間を貴族に献上することで逃れることができる。下級貴族でも奴隷を持てるわけだ。」
「酷いな…。どうする王子。御親兵を殺したところで何か変わるのか?」
ヴァルが質問する。当然だ。頭が変わらない限りこれは続きていくだろう。
「ああ、間違いなく変わる。これらの非道を可能にしているのが権力ではなく武力だ。今の御親兵を解体し、王都から兵を貸せば何とかなるだろう。中級貴族も3つ私の配下になっている。大きく悪さをすることはできないだろう。」
「王都の兵も悪に染まらないとは限らんだろう?」
「それはない。選出するのは各部隊の班長以上の人間だ。軍の中にも私の手のものは多い。例えばケイル君の班長とかね。」
「そうなんですか!?」
「ああ、だから君を信用するし、トーマス君の同行を許した。」
なるほど。どうりでトーマスに何も言わないわけだ。
「奴隷の解放チームと御親兵暗殺チーム、留守番チームで分けるぞ。まず奴隷解放チームは、私、リオナー、フェルガス。暗殺チームはケイル、ヴァル、トーマス。留守番はアリス、セラフィナ、シルヴィア、エリドア、サリナ。留守番は特に何もする必要はない。問題がなければ次に行くぞ。」
「ちょっと待って。王子様。」
サリナが声をかける。
「私も戦えるんだけど。」
サリナは確かに剣をもっていた。
「ああ、事実だ。コイツの腕は暗殺チームにほしい。3人では無理があるぞ。」
ヴァルも同意する。
「私もセラフィナ様から離れるのは嫌です。」
リオナーからも不満の声が聞こえる。
「分かった。じゃあ暗殺チームにサリナを加え、リオナーを留守番に入れる。留守番に入れるはずだったアーデルハイトの人員を解放チームの手伝いに回ってもらう。これでいいな?」
全員納得したようだ。
「御親兵暗殺チームの手はずは任せる。情報だけ共有しておくぞ。御親兵は40人。実力は不明。だた、一人一人が隊長クラスの猛者だ。気を抜くなよ。」
「それだけか?」
「これだけしか分からない。王都にも情報が流れてこないのでな。噂だけ流してある。明後日上級貴族の屋敷に暗殺が入ると。」
「明後日か…」
「不満か?」
「いや、十分だ。」
「作戦開始は明後日だ。各々好きなようにしてくれ。」
奴隷解放チームの2人は護衛と話に行くために外に出て行った。御親兵暗殺チームの4人はこのまま話を続ける。
「作戦はそうだな…。まず、俺が中でアクションを起こす。その間にトーマスとケインは正面から行く。サリナは裏から。どうだ?」
「相変わらず大雑把な…」
「しょうがないだろ。地図もなければ実力も分からない。どうすんだよ。」
「確かにヴァルの言うことには一理あるね。でもサリナさんの単独行動は大丈夫なの?」
トーマスも心配のようだ。確かに、この戦力差で単独行動は危険すぎる。
「問題ないわよ。こう見えて私は、北の剣術の師範にまで登ったんだから。」
「それはすごい。でも実践と練習は違うよ。」
北の剣術。【フロストホロウ】で広く認知されている剣術だ。四方の剣術の中で最速の剣術。習得が難しくサリナの年齢を考えると天才と呼ぶしかない。
「大丈夫よ!私だっていくつも修羅場を超えてきているわ!」
「怖い自信だね。でも、ここまで言うのなら大丈夫でしょ。」
「問題ない。俺が騒ぎを起こしつつサリナを迎えに行く。」
「分かった。地図がない以上これくらいしか作戦は立てられないね。」
「そうだ。ヴァル。『能力』について教えてよ。」
僕は質問する。ここで自分の力についても何かわかるかもしれない。
「俺の『能力』は『花園』。花を生み出す力だ。」
あまり強そうじゃない。ドヤ顔を見せてくるので悲しくなるが、これをどうやって戦闘に使うのだろうか。
「俺が生やした花は、怪我を癒す力がある。」
「めちゃくちゃつええじゃん!」
驚いた。そんな便利な力があるとは。まさに多対一の戦いにもってこいだ。負傷しても問題ないのはかなりでかい。
「そいえば前に僕の『能力』を見たって言ってたよね?僕の力はどんな力なの?」
「知らん」
「は?」
「一部始終を見たわけじゃないし、あの時は『能力』を使ったことだけ確認したまでだ。」
「えぇ…」
「なんだお前、まだ自分の『能力』について理解していないのか?」
「…はい」
「ほんとポンコツだな。」
「二度とそれ言わないで!」
会議も終わり、解散となった。外に比べて室内は涼しい。日が当たらないだけでこんなに変わるものなのか。やることもないので、剣の手入れをしておく。すると、ヴァルが話かけてきた。
「ちょっと、付き合え。」
「え、うん」
外に出る。暑い。屋根があるとはいえ、風が暑い。
「お前が『能力』について理解できていないのは困るからな。今から少し動くぞ。」
木で作られた剣を渡される。
「こい。」
剣を強く握り、向かっていく。木の打ち合う音だけが響く。
「はぁはぁ…」
普段より体力を消耗する。
「暑さのせいで、体力が奪われるな。」
「…うん。結構しんどいね。」
「作戦自体は夜だ、気温的には寒いくらいだろ。」
「でも、慣れていない場所での戦闘はきついだろうね。」
「大丈夫だろ。」
やや楽観的に考えているヴァルを見て、少し不安がよぎる。
「向こうにも『能力者』がいるのかな?」
「さぁ、どうだろうな。俺はケイルとリオナー意外に見たことがないからな。何とも言えない。だが、王子の側近でも一人しかいないということは、そんなに人数がいるとは思えない。」
「確かに。でも、御親兵は国王軍とは隔絶されてるから…」
「緊張しすぎだ。お前優秀なんだろ?」
「だから、書類上だけね。ヴァルだって強いじゃないか。今ので、呼吸一つ変えないなんて。」
「真剣だったら分からない。練習には緊張感がないからな。遊びなら勝てるが、本番ではどうなるかなんて本人にも分からんさ。」
「そういうものかな…」
「もう一回行くぞ。」
立ち上がり、木の剣で向かっていく。
日が落ちるまで続き、夕食の前にお風呂に入らせてもらった。
「疲れた~。」
「お前意外に体力ないな。」
「いや、暑さに弱いんだよ。よくあの猛暑で動けるね。」
「確かに暑いが、耐えれんことないだろ。」
「すごいわ。」
風呂から出て夕食を食べる。大部屋2つと王子、王女の部屋。合計で4つ貸してもらえた。男部屋と女部屋だ。護衛のリオナーとフェルガスは王子と王女の部屋で寝るらしい。この部屋は、僕とヴァル、トーマスだ。エリドアはサリナが連れて行った。
「夜寒いな…」
「文句ばっかだな!ケイルお前もっと環境に寛容になれんのか!」
「そんなに怒ることないよ。ヴァル。ケイルは繊細なんだよ。」
「トーマスとか、軍が甘やかしすぎなんだよ。」
「そうかな。彼はよくやってると思うよ。」
「トーマスさん!好き!」
「黙れ!もう寝る時間だぞ!」
「最初に怒鳴ったのはヴァルじゃないか!」
「二人とも落ち着いて。体力もたないよ。」
「冷静だな、トーマスは。」
そう言って、ヴァルは枕を投げた。
「なに。」
それを見て、僕も枕を投げる。
「二人してどうしたの?」
無言で枕を投げる僕らを見て、トーマスも枕を投げ返す。寝る前に枕投げ大会が始まった。全員が疲れて投げるのが終わるとそれぞれ自分の寝床へと戻っていった。
「俺が一番強かったな。」
「いやいや、僕が一番当ててたから。」
「二人とも。落ち着いてよ。僕が一番だったから。」
勝者なんていない枕投げが終わり、目を閉じる。昼間とは違い、過ごしやすい。緊張がだいぶほぐれた気がする。戦いに気を張りすぎても体に毒だ。ヴァルはそれも分かっていたのだろう。硬すぎる二人をほぐしてくれたのだ。
明日は何があるのか。いや、これが終わった後何が起こるのか。勝者は誰なのか。誰にもわからない。この枕投げのように。




