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第十話

 エリスは暗い顔で

「なんで?」

 いつか聞いたような、か細くていつか聞こえなくなる声だ。

「いや、あの、し、仕事で」

「一緒に行く。」

「え?」

「一緒に行くもん。」

「いや、危ないよ。」

「行くもん。」

 今にも泣きそうなそんな声で助けを求めるように声を出している。懇願しているようにも聞こえる。

「でも…」

「なんで、一緒に行けないの…?」

「それは…」

 人を殺しに行くから。なんて言えるはずもなく。どうにかごまかす方法を考える時間が過ぎる。

「ほら、あの、あれだよ。お、王都の方がご飯おいしいし。今の季節過ごしやすいでしょ?」

 自分でも何を言っているのか分からなくなってきたが、ここにいてほしいことを懸命に伝えたつもりだ。

「やだ。行くもん。」

「そうは言っても…」

 アリスはすねるように2階へ行ってしまった。

「どうしよう…」

 一人頭を抱える。

「あらあら。」

 一部始終を見ていたであろうシルヴィアが厨房から歩いてきた。

「どうしたらいいと思いますか?」

「そうですね…。あの子は引き下がらないでしょうし。ヴァルに相談してみては?」

「あいつなんて言うかな…」

「ふふ。」

「なんで笑うんですか?結構困ってるのに…」

「いえ。すみません。ヴァルに似ていると思いまして。」

「ヴァルに?」

「ええ。自分が決めたことには誰がなんと言おうと従わないし、自分が一番正しいと思ってる。それなのに誰にだって優しい。」

「シルヴィアさんにそんな評価されてると知ったらあいつは喜ぶでしょうね。」

「なんでですか?」

「え?」

「え?」

 あれ、サリナの話では二人は良い感じと聞いたが、そんなことないのか。

「いえ、ちょっとからかっただけです。」

「そうですか?びっくりしました。部屋でも覗かれているのかと。」

「あはは。」

 笑うことしかできなかった。サリナの言うことは的中していたのだ。

「アリスと話をしてきます。」

「はい。頑張ってください。」

 気まずいから逃げたとかではないが、そそくさと2階へ上がる。家のロマンスを知るというのは何とも言えない気分になる。

 部屋をノックする。何も聞こえないがドアを開ける。

「アリス?」

 ベッドに寝転がり、布団にくるまっているアリスがいた。

「アリスあのね」

「なんで?」

 急な質問にびっくりする。

「なんでついて行っちゃだめなの?」

 布団にくるまったまま、顔を見せず、目も合わせず会話する。ベッドに座る。

「危険だからさ。アリスだってこの前危ない目にあったばかりでしょ。心配だから…」

「ケイルがいれば大丈夫だもん。」

「僕だってそんなに有能なわけじゃないよ。いつだって君を守ってあげれる訳じゃない。」

「でも!行きたいもん…」

「なんで、行きたいの?」

「ケイルが行くから…」

「すぐに帰ってくるよ。」

「すぐって?」

「え?ええっと、2か月くらい?」

「嫌。絶対行くもん。」

 これ以上言い合いをしても何も進みそうもない。

「分かった。ヴァルに言っておくから。準備しておいてね。」

 布団から顔を出して。

「いいの?」

「うん。一緒に行こう。」

「うん!」

 笑顔を取り戻した彼女はまぶしい顔を見せてくれた。

「ていうやり取りがあったんだけど。」

「そ、そうか。」

 これをヴァルに話した。店番をしていたところだったので、宿舎に荷物を取りに行く前に話そうと思った。

「別に構わんが、ちゃんとおとなしくしとけよ。あと、サリナとエリドアも行くことになったから。」

「そうなんだ。」

 まさかの全員出動らしい。

「店はどうするの?」

「もともと俺とシルヴィアが行く時点で休業するつもりだったから、店はそのまま。」

「そっか。」

 簡単に話を終わらせて、宿舎へと向かった。1日、2日くらいしか過ごしていなので荷物があるわけではないが、持ってきていた衣類だけ回収した。部屋を出るとトーマスに会った。

「やぁ。もう辞めちゃうんだって?」

「お疲れ様です。ええ、いろいろとありまして。」

「いろいろね。やっぱり、あの日道に迷ってるわけじゃなかったんだ。」

「なんでそれを…」

「大体わかるよ。君は顔に出やすいからね。」

「そう…ですか。」

「せっかくできたかわいい後輩が旅立つのは悲しいね。」

「そう言っていただけて光栄です。」

「うん。君らしいね。班長にも会いに行ってあげてよ。」

「今から挨拶に行ってきます。」

「頑張ってね。これから。」

「はい!ありがとうございます。」

 トーマスと別れて、班長の部屋へと向かう。

「失礼します。」

 誰もいなかった。

「今日は非番か。」

 班長の家なんて知らない僕からしたら会う方法なんて思いつかない。そうだ、アリスなら家に行ったことがある。一度帰ってアリスに聞こう。振り返ると班長ロイク・バルディンが立っていた。急いで姿勢を正す。

「すみません!いきなり部屋に入って。」

「別に構わん。お前はもう兵士ではないのだからそんなに気を使うことないぞ。」

「いえ、お世話になった方々に無礼は働けません。」

「けなげだな。椅子に座れ。話をしに来たのだろう?」

「失礼します。」

 対面に座る。

「すまんな。もてなすことができなくて。」

「いえ、押しかけたのは私の方ですから。」

「今回の解雇、妹が絡んでいるのだろう?」

「ええ。ちょっと厄介なことになりまして。」

「やはりあの招集は第二王子か」

「なぜそれを?」

「最近話題になっていてな。第二王子は地方に赴き、自分の派閥を大きくしていく一方で、自分の戦力を集めていると。」

「地方で、ですか?」

「ああ。近々、王位継承でもあるんだろう。別におかしな話ではない。」

「そうなんですね。」

「よかったな。妹がらみの面倒ごとじゃなくて。」

「ええ。多少は絡んでいますけど、自分の意志で決めたつもりなので他人のせいにはしませんよ。」

「以前その手の件で出世できないものがいると言ったな。」

「はい。お聞きしました。」

「トーマス。お前の先輩の話だ。」

「え…」

「似たようなケースだ。街を巡回中に少年を助けて宿舎で匿っていた。ある日帰ると、部屋が荒らされており少年はいなかった。後日通達で、減給と左遷が言い渡された。左遷は何とかなしにできたが、一生下の立場でいることが約束されてしまった。」

「そんな…」

「本人は正しいことをしたと誇りに思っている。あまりかわいそうに思ってやるな。」

「ですが、それは…」

「分かっている。こんなことは許されていいはずがない。あのような実力の持ち主をここで終わらせるとこなど。だから、お前に頼みがある。トーマスを第二王子派に入れてやってくれないか?」

「え!?」

「無理にとは言わん。お前に権限がないのも分かっている。推薦する程度でいい。」

「分かりました。善処します。」

「じゃあ、達者でな。」

「はい!本当にお世話になりました。」

 部屋を出ていく。向かったのはトーマスの部屋だ。ノックをする。寝間着のトーマスが出てきた。

「どうしたの。今日は非番だからゆっくり寝ていたいんだけど。」

「お話があります。中に入ってもよろしいですか?」

「別にいいけど。あまり長い間は無理だよ。」

「はい、心得ています。」

 ドアを開けられて入っていく。数十年住んでいるにしては綺麗すぎる部屋だ。備え付けの家具。異様なまでにきれいな床。

「飲み物はなくてね。申し訳ない。」

「いえ、とんでもないです。お休み中失礼します。」

「で?話は?」

「はい。ともに軍を抜けて戦いませんか?」

「は?」

 間の抜けた返事だったが、声のトーンがいつもより高いため興味を持ってくれたと思えた。

「第二王子派として戦いませんか?」

「いや、全然説明になってないけど。」

「すべてをお話することはできません。明日僕たちは王都を出ます。付いてきてくださるのなら3階層と2階層の間にある花屋に着てください。」

 トーマスは無言だった。かなり悩むのかと思ったが次の瞬間。

「明日まで待たなくていいよ。このままついて行く。」

「ほんとですか!?」

「うん。そんなに愛着のある仕事でもないし。」

「荷物とかは?」

「何もいらない。戦う道具だけあればいい。」

「分かりました。ではまいりましょうか。」

 宿舎を出て、店に帰る。巡回中同様無言だ。でも無言でも伝わってくるものがあった。

「うれしそうですね。」

「まあね。第二王子は僕が左遷されそうになった時に助けてくれた御仁だから。そんな人のもとで戦えるなんて光栄だよ。」

「そうだったんですか…」

「どうせ班長から聞いたんでしょ?そんなに気を使わなくていいよ。」

「分かりました。ここです。」

 店についてトーマスを外に待たせ店番をしていたヴァルに声をかける。一連の話をした。

「なるほどな。信用できるのか?」

「多分。」

「多分って、お前状況分かってんのか?」

「分かってるけど…人数はいた方がいいでしょ?」

「一人の裏切りが崩壊を招く。信用できないやつは連れていけないだろ。」

「それは…」

「ああ、もう!明日王子に確認しろ。それで良いと言われたら連れて行けばいい。」

「分かった。」

「それで、なんで連れてきた?」

「理由はないけど。成り行きで。」

「悪いがもう部屋の空きはないぞ。」

「あ…。」

「お前、考えなしに連れてきたのか?」

「ごめん。何も考えてなかった。」

「一回宿舎に帰ってもらえ。」

「分かった。」

 トーマスに事情を話す。

「急に押しかけて申し訳なかったね。明日もう一度ここに来るよ。」

「すみません。お願いします。」

 トーマスは帰っていった。

 その夜。部屋で床についた。


 部屋の隅でご飯を食べる。賞味期限も切れているお弁当を箸も使わずに。少女と少年はがっついている。ゴミが散乱して、足の踏み場もない部屋で。煙草と異臭で鼻をつまみたくなるような環境。二人だけのこの状況だけが癒しだった。誰かが外の廊下を通るたびに体が震える。この状況をいつまで耐えればいいんだろう。どこがゴールなのだろう。服もボロボロで風呂も十分に入れない環境で誰に頼ればいいんだろう。流す涙も忘れてしまった少年少女は今日も暴力に耐える。


 まだ日も登っていないというのに起こされた。服を着替え、剣を取り、ナイフをしまう。外に出て外気に触れる。僕、アリス、ヴァル、シルヴィア、エリドア、サリナ、トーマス。7人が揃う。馬車が迎えに来て乗り込む。中は質素で、すでに戦いの緊張感が流れていた。


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