2-50.婚約話
翌日。隊長がやってきて、あの後のことを教えてくれた。
エイリスは一命をとりとめ、エイナートは死亡が確認された。エイリスは息子の死には何の感慨も持っていない様子だったが、彼が兵士のひとりも殺すことができなかったと聞けば、嘲笑ったそうだ。
不出来な息子に情などなかったらしい。親なんてそんなものだよな。
彼女は己の罪を否定し、一連の事件をすべて息子のせいにしようとしたらしい。けれど兵士たちは優秀で、すでにエイリス自身が犯罪者であることを突き止めていた。
エイリスの指示で禁輸品を持ち込んだと証言した者がすでに複数人いるとのこと。港に隠していた禁輸品も、既に押収済らしい。
城主は子爵の地位の剥奪を決定。そこからさらに、罰が下されることになる。おそらくは死罪だろう。
港と水路の管理者は、また別の貴族にそれぞれ割り当てることになるのかな。
それは、僕たちには関わりのないことだ。
公爵家にも手紙を書いた。子爵家が滅んだことと、シャルロットの婚約者が死んだこと。それから、今回の件で僕たちがかなり派手に暴れたことを伝えた。
派手というか、独自の判断で動いたというか。街の兵士たちの方針に逆らって子爵家に侵入した上で、子爵親子を死傷させた。それも公爵家の名のもとに。
さすがに、師匠にちゃんと説明しなきゃいけないし、手紙を送った後も早急に城に戻って直接説明をしなきゃいけない。
まあ、こっちの責任問題になったり、怒られることはないと思うけれど。そもそも公爵家の代表としてシャルロットを向かわせた師匠の方にも問題があるから。
というわけで。
「戻ろうか」
「そうですね! お父さんたちに、幽霊屋敷をパン屋さんにできるようになったと伝えましょう! ずっとお城にいるわけにもいきませんし、早く開店しないと」
「この街の人にも、美味しいパンを食べてもらいたいしね。外国の人にも食べて貰わないと」
「はい! 両親に、この街の美味しいもの紹介しなきゃですね!」
うん、楽しみなことだって沢山ある。
そういうわけで、公爵のいるナーズルの街まで戻る。行きと同じく、もふもふが引く荷台に乗って。
荷台の大きさは変わらないけど、人数は増えた。
「シャルロット様。このような、荷台ですが、平気ですか?」
「ええ。行きも似たようなものでしたから」
本来は農作物なんかを乗せる荷馬車に揺られるというのは、お金持ちとしては本来ありえないこと。けれどシャルロットは嫌な顔をしていない。
彼女の胸元には、ティナから貰った魔除けのお守りが揺れていた。それから彼女は、そっと僕に身を寄せた。
「親しい人たちとこういうことをするのは、楽しいですしね」
ニコニコと笑いながら話すシャルロット。なんで僕にくっつこうとするのか、その意図はなんとなくわかった。
馬上のアンリがチラチラと振り返ってこちらを見ている。ゾーラも少し羨ましそうだ。
僕のもう一方の隣に座るティナは、対抗するように僕に寄りかかった。
キアはそんな様子を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。微笑ましく思うものなのは理解できるけれど、当事者としては微妙だなあ。
シャルロットの気持ちはわかる。嫌いな婚約者がいなくなって、結婚の自由が出来た。お金持ちの令嬢だから本当は自由なんかないのだけど、好きな人を好きと言うくらいの余地はあってもいいのだろう。
それで僕か。悪い気はしないけどね。
今の僕はただのヨナだから、公爵家と結婚などありえないのだけど。それはそうとして、歳の近い男の子と疑似恋愛したがる気持ちはわかる。うん、わかるとも。
そういうのは、もう少し大きくなってから卒業して、家の決めた良い男と改めて婚約することになるのだろう。それか、学校に通って仲のいい男の子を見つけるとか。
学校か。僕のきょうだいの内、兄ふたりと姉ひとりは今もそこに通っている。彼らは今頃どうしているだろうか。
シャルロットが話しかけてくるから返事をしながら、僕はそんなことを考えていた。家族のへの復讐は、決して忘れることはない。
やがて馬車はナーズルの街に入り、それから城に到着した。
「ヨナ様。此度の件、見事に解決したこと、感謝いたします。シャルロットも、子爵家に毅然とした対応をしたとか。さすが儂の孫だ」
僕とシャルロットで、公爵の執務室に入り話をする。開口一番そんなことを言ったものだから、正直面食らってしまった。
シャルロットも同じらしい。
「あの。師匠。じゃなかった公爵。僕たちはあの街で、かなり勝手な動きをしました。それも公爵家の名前を出しながら」
「それで良いのです。子爵家は罪を犯していた。それに前から、エイリスのやり方は目に余ると思っていました。奴が港の管理権を手に入れた経緯も、子爵になった経緯も、儂は怪しいと睨んでいた。多少強引でも、悪事を明らかにして失脚させたことは、期待以上の成果です」
「そ、そうですか」
怒られるとは思ってなかったけど、褒められるとも思ってなかった。だから正直、困惑している。
「あの、お祖父様。わたしは何もしていません。ヨナ様やカルラたちに守られていただけです」
「聞いているぞ。子爵家に臆することなく立ち向かったと。確かにシャルロットには、政治の話をするのは早いかもしれない。しかし子爵に見せた態度は、儂の孫として相応しいものだったそうではないか」
「それは……」
言い返せない。そもそも褒められているのだから、言い返す意味もない。
どうしたものかと、二人揃って困惑するばかりなのだけど、公爵はそんな僕たちを満足げに見つめていて。
「シャルロットの胆力と、ヨナ様の行動力。ヨナ様を支える配下も優秀な者が揃っているし、シャルロットを慕う家中の者にはカルラのような将来有望な若者もいる。……シャルロットとヨナ様、ふたりが合わさればこのガリエル領は安泰でありましょう」
「つまり?」
「ヨナ様。シャルロットの婿になり、公爵家の養子になりませんかな?」
えっ?
いやいや。なんでそうなる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。これで、第2章は完結です。
明日から第3章はすぐに投稿していきます。ぜひ、続きも読んでいただければ嬉しいです。
皆さんからの反応、とても頼りになります。ブクマとか評価とか、いつもありがとうございます。感想やレビューも、投稿していただけると助かります。よろしくお願いします。




