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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第2章 女子爵の息子

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2-47.狂人の戦い

 廊下の陰から姿を表したエイナートは、異様な風貌をしていた。


 かっと開いた目は血走っていて、半開きの口からよだれが垂れている。剣を握っているが、その扱いも疎かになっているらしい。歩いた際に刃が足に当たって、切り傷ができていた。


「エイナート、お前は、なにを」

「ありゃ、明らかにヤバそうだな」

「キアには、あれが何に見える?」

「アタシにもわからねぇ! たぶんあれだろ、薬物だ。酔っぱらいのヤバいやつ!」

「しゃるろっと……シャルロットオォォォォォオォ」

「うわ来た!?」


 エイナートはシャルロットの姿を認めた途端、猛然と突進してきた。


「シャルロット、様! 逃げて!」

「いいえ! カルラのそばにいます!」

「そうだな他の敵に見つかるのも困るしな! 守ってやれ!」

「けど!」


 選択肢はない。シャルロットを守る以外に、やるべきこともない。


 普段は弱いとはいえ、それなりの剣技を見せていたエイナートは、完全に正気を失っていて、剣を振り回して突っ込んでくる。その剣の動きを見極めて、受ける。

 衝撃でエイナートの剣が弾かれて、彼自身も後ろによろける。カルラの方は一歩踏み込んで、さらに斬りつけた。


 エイナートの胸のあたりに切り傷。けれど浅い。致命傷にはならない。そしてエイナートは痛みを感じてすらいない様子で。


「シャルロット! シャルロット! しゃるしゃるしゃるしゃる……」

「黙れ!」


 この男の口から、シャルロットの名前を聞かされることが我慢ならなかった。けれどエイナートはこちらの言うことなど聞かずに、また踏み込んでくる。狙いが全く定まっていない一撃を真っ直ぐ振り下ろしてきた。カルラはそれを受け止めたが。


「重、い……」


 考えなしだが、力の制御が全くできていない全力の一撃は、あまりにも重すぎた。


 そんな攻撃をすれば、エイナートの方もただでは済まないはず。けれど彼は腕を痛めることを気にすることなく、何度も剣を打ち付けてくる。


「あああ! あああ! シャルロットオオオォォォォ!」

「下がって!」

「は、はい!」


 自分の後ろにぴったりついているシャルロットを後退させ、自分も後ろに下がる。エイナートはなおも虚空をめちゃくちゃに斬りつけていた。

 前が見えてないわけじゃない。奴の目はこちらやシャルロットに向いていた。ただ、距離感が掴めていないだけだ。


 その剣が壁に当たった。壁面を大きく砕いて、その腕力を見せつけてくる。


「こいつやべぇな……」


 ここまで一貫してエイナートに相手されていなかったキアは、いつの間にか彼の後ろにいた。背後から肩にナイフを突き刺そうとしたが、エイナートはそれに気づいて足を動かした。

 片足を後ろに蹴りだせば、足の裏がキアの剥き出しの腹に刺さる。


「がはっ!?」


 その一撃でキアの体は後ろにすっ飛び、廊下をゴロゴロ転がって倒れることになった。


「キアさん!?」

「だ、だい、じょうぶだ。なんともねぇ。が、効いたなこりゃ」


 うつ伏せに倒れながら手を上げるキア。とりあえず助けはいらなさそうだ。

 けれどエイナートをこのままにするわけにはいかない、キアは剣を構えて彼の動きを見る。


「シャルロット! シャルロット!」

「黙れ! お前に、シャルロット、様は! 渡さない!」

「シャルロットオオオォォォォ!!」


 会話が成立しているかも怪しい。エイナートがまた踏み込みながら斬りかかってきた。


 が、隙だらけだった。理性を失って全力で動き続け、自身の疲労にも無自覚に剣を振り続けた結果、動きにぎこちなさが見えてきた。

 その隙を逃すカルラではない。元々の剣の技量でも、こちらはエイナートよりもすごかったのだから。


「シャアァァァァルゥゥゥゥゥ!」


 ひときわ大きな叫びと共に振られた剣が壁に当たってヒビを入れる。その瞬間はボディががら空きで、カルラは肉薄して斬りつけた。

 狙うはエイナートの腕。エイナートもすぐに避けようとしたが、腕に深い切り傷が出来た。


 全力で剣を握り続けていた手から握力が抜けて、剣が落ちた。すかさずそれを蹴飛ばして遠くへやる。


 これでエイナートに勝ち目はないはず、そう考えた次の瞬間、彼の手がとてつもない速度で伸びてきた。


 それはカルラの首を掴み、さらに壁にぶち当てた。後頭部が硬い壁にぶつかり、一瞬意識が遠のきかける。なんとか彼の腕を掴んで引き剥がそうとするが、とてつもない腕力だった。


「あ、あ……」


 息ができない。エイナートがさらに腕に力を込めて押し込んできたから。彼の腕の筋肉が盛り上がり、さっき出来た傷口から滴り落ちる血の勢いが増す。このままでは腕が壊れる。なのに彼はそれに気づく様子もなくて。


「カルラ!?」


 シャルロットの悲鳴混じりの声が聞こえた。逃げて。そう言いたいのに、声が出ない。

 まずい、苦しい。空気が足らなくて、意識がまた遠のいていき……。


 不意に、エイナートの側頭部に黒い球体がぶつかった。殴られるような形になったエイナートはたまらずよろけて、カルラから腕を離す。


「がはっ! はぁ……はぁ……」


 カルラは膝から崩れ落ちながら、空気を求めて大きく息を吸った。ふと前を見れば


「もふもふ! 突撃ー!」


 大きな馬がエイナートに突進しているところだった。

 馬に蹴られたエイナートの足が少しだけ宙に浮き、そして廊下の上に倒れた。


 馬上のアンリが彼に向けて何度も矢を放つ。彼女の弓の腕は優れているとは言い難いが、基本はちゃんと出来ている。馬上という高い位置から下に放つだけだし、距離もない。だから的確にエイナートの胴に矢が刺さっていく。


 エイナートはといえば、やはり痛みを感じていないのか、腹や胸に矢が刺さっているのに構わず起き上がろうとした。


 けれど彼の手足に、床から生えた蔓が次々に巻き付いていく。ゾーラの魔法によって、エイナートはジタバタともがくしかできない。


「シャルロット! シャルロットォ! しゃる! しゃ……」


 痛みがなくても、傷口から血は流れ続けているし内臓は傷ついている。エイナートの命の炎は確実に消えつつあり、それは目に見えて表れていた。


 もがく彼の動きは段々と弱々しくなっていき、ついには止まった。

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