2-45.エイナートのせい
内側から錠は閉めたけど、この扉の鍵は屋敷には他にもあるだろうし、既に開けられてしまっている。後は扉の前に置かれたテーブルや棚が侵入を阻止しているだけだ。
「ヨナたちがこっちに来るより、奴らさっさと入ってくるだろうなー」
「ど、どうするのですか!?」
「アタシに考えがある。カルラ、開けるから少し静かにするよう言ってくれ。しばらく扉に触れるなと」
「え」
「アタシを信じろ」
「わ、わかった。お前、たち。わかったから。開ける。塞いでいるもの、どけるから。少し、静かにしてくれ」
それから扉を塞ぐバリケードをどかしながらも、少し細工をした。
「開けて、いい」
そう言えば勢いよく扉が開かれて、勢いよく兵士が入ってくる。三人いた。全員剣を抜いている。
こちらを殺す気はないだろうけれど、武力で言うことを聞かせたいのだろう。
ところで、扉の両サイドにテーブルと椅子をそれぞれ置いて、その足を繋ぐようにカーテンをピンと張ってくくりつけた。
先頭のひとりがそれに躓いて派手に転倒。後続のふたりも慌てて止まった。
カルラはまず、倒れた兵士に駆け寄り、転んだ拍子に手放してしまった剣を蹴飛ばした。
それから後続の兵士に切りかかる。こちらは本気で殺すつもりだった。どうせ向こうも対処するから死なないだろう。
カルラの一撃は受け止められたものの、そのまま鍔迫り合いに持ち込んだ。
その間に、もうひとりの兵士が仲間の援護を試みる。カルラを横から切りつけようとして。
「おらっ!」
死角からキアが飛びかかってきた。彼女は扉の横に置かれたテーブルの上にいた。兵士はそちらに目を向けないし、そもそもキアがいることなど知らないから全く気づかなかった。
高く跳躍したキアが兵士の後頭部にしがみつき、そのまま体重をかけて後ろに倒した。自身は兵士の肩を踏み台にして再び跳躍、床に着地した。兵士の方は後頭部をテーブルの角にしたたかに打って、苦悶の声を上げる。
「やっぱ上から襲うのは強いんだよ。でかい獣でもこれで倒せる。サハギン相手にうまく行かなかっただけなんだよな」
「キアさん! カルラが!」
「おう。わかった」
鍔迫り合いでは、腕力に劣るカルラの方が不利。しかしここで耐えることがキアの立てた作戦だ。
一瞬にして仲間ふたりを無力化されたその兵士は、かなり狼狽えたようだった。しかしキアは構わず突っ込む。
兵士の腕にナイフでざっくりと傷を作れば、奴は怯んで後ろに下った。そこにカルラは容赦なく踏み込む。
その気になれば殺せただろうし、こちらへ敵意を向けてくる相手に容赦する義理もない。けれどカルラは、相手の顔面を思いっきり殴るだけに留めた。
倒れて顔を抑えて悶絶する兵士。無力化された三人を見下ろしてから。
「シャルロット様。縛り、ましょう。手伝って、ください」
カーテンで作ったロープに目をやりながら言う。
「はい。あの」
「な、何で、しょうか」
「今のカルラ、格好良かったです」
「ありがとう、ございます」
「ほら。お喋りはやめて、さっさとこいつら縛ろうぜ。奴らが来るかもしれねぇから」
「奴ら?」
「ヨナたちだけじゃねぇ。街の兵士も来て、子爵は完全に犯罪者扱いだ。実際にそうなんだけどな。だから子爵に逃げ場はないし、となれば奴は逃げるためにシャルロットを利用する」
「人質に、するの?」
「たぶんな。だからこの部屋からは出たほうがいい。さっさとヨナたちと合流するぞ」
キアが兵士のひとりの腕を縛るのを見て、カルラもそれを手伝った。
――――
正門が破られた。なぜかは知らないが、あの学者先生とガキたちが堂々と敷地に入っていくのを、エイリスは自身の部屋の窓から目の当たりにすることとなった。
どうなっている。なぜあいつらが。公爵家の客人と言っても、ここまでしていいわけがない。
学者は異能持ちらしく、不気味な技で兵士たちを足止めしていく。子供の方も、わけのわからない動きで兵士を圧倒していた。
なんなんだ、あいつらは。
とにかく手を打たないと。シャルロットが部屋から出てこちらに来る様子もない。
「は、母上。どうすれば。このままれは」
エイナートは狼狽えるばかりで、何の役にも立たなさそうだ。
本当にこれが息子なのか? 跡継ぎとして育てた結果なのか?
こんな息子はいらない。そう考えた時に、ふとこの場を切り抜ける方法を思いついた。
すべてエイナートのせいにすればいい。
ご禁制の品や魔物を海の向こうから入手して密かに売り払い、かつては地下水路の中を保管庫にしていた。それは子爵の息子という地位をかさに、現場の人間に圧力をかけて手伝わせたということにしよう。
エイリス自身は、息子の汚職に気づかなかった間抜けを演じる。そうすれば罪は軽くなる。子爵の地位を維持できるとは思っていないが、どん底まで落ちたとしても成り上がる努力は惜しまないとも。
そのために不出来な息子を生贄にして、罪を軽くすることに躊躇いはなかった。
「エイナート、落ち着け。良いものがある」
「いいもの?」
「この状況を打開できるものだ」
地下水路が使えなくなってからは、密輸したご禁制の品の大半は屋敷の倉庫に隠している。しかし一部の小さなものは、自らの部屋に置いておいた。
瓶に入ったスパイスや、サハギンたちが凶暴になってしまった原因でもある薬物などだ。




