2-40.変な集団
僕も持っていた枝を放り投げて受け止めようとしたさ。でも、どうすればいいかわからないじゃないか。両手を広げて、キアの体を迎え入れようとした。
けれど勢いよく飛び込んできたキアは当然僕よりも大きくて。
「ぶえっ!?」
受け止めきれず、そのまま後ろに倒れた。硬い壁で頭を打ちそうになったけれど、なぜか柔らかいものに受け止められて無事だった。
「もう。ふたりとも何やってるのよ」
僕を受け止めてくれたのはゾーラ。その大きな胸が後頭部に当たっていた。いや、いいんだけど。
それから、妙に息苦しいのはキアのお尻が顔に押し付けられているから。キアは本当にスカートの中に何も履いてないんだよね。その方が動きやすいとか、そんな理由で。だから、なんというか。感触が。
「キアさん! ゾーラさん! なにやってるんですか!? すぐにヨナ様から離れてください! 不潔です! 教育に悪いです! というかキアさんは下着履いてください!」
ティナの怒った声が聞こえた。うん、助けてくれたことは嬉しいけれど、同意見かな。
「ゾーラ、ありがとう。助かったよ」
「いいのよ。ヨナくんが無事で良かった」
なのにゾーラは、僕を抱き寄せて頭を撫でた。
「アタシも助かったな。ふたりともありがとうな」
さらにキアも、僕からお尻をどけたのはいいけど、そのまま抱きついてきた。
その顔はニヤニヤと笑っている。しかもティナに向けて。
「なんでくっつくんですか!? 離れてください!」
「いいだろ。仲間と仲良くするのは大事だ」
「ヨナ様の教育に良くありません!」
「ティナも抱きつくか?」
「え? いいんですか? いやでも、そんなことをしても……」
「えへへっ! わたしもヨナのこと好き!」
「アンリさん!?」
アンリもまた僕に抱きついてきた。なんなんだこれは。
ティナだけ、遠慮があるのか動けないでいた。
どうしよう。みんなを振りほどくべきなのかな、これは。
「あー。お前ら。一応、魔物が出てきかねない場所ってことを忘れるなよ」
隊長の乗ったボートが地下空間に入ってくる。彼は少し気まずそうな口調で言った。
「ふふっ。忘れてないわ。けどサハギンは死んだ。他のサハギンも出てくる気配はない。だったら、この隙に可愛い男の子を撫で回し手もいいじゃない」
「良くないよ。ゾーラ、これ本当に死んでるの?」
「あんっ」
結局、振りほどくことにした。キアもアンリも押して体から離す。
色っぽい声を出したゾーラは、すぐに真面目な顔になってサハギンの方を見た。さっきまで痙攣していたそれは、今は全く動いていない。瞳も濁っていた。
「死んでるわね。頭を刺されたんだもの。生きてはいないわよ」
「つまりアタシが倒したってことだな」
「みんなで倒したのよ」
「なんだよ。アタシが一番頑張っただろ?」
「別にあそこまで頑張ることなかったの。まあ、努力は認めるけど」
「だろー!」
得意げなキアを、ボートに乗った兵士たちは唖然として見ていた。
変な集団だと思われてるのかな。それが、常識外の大きさを持つ魔物を殺したことに驚いている。
「じゃあ隊長さん。今度こそ戻りましょうか。子爵の家に行って、シャルロットちゃんを助けに行かなきゃいけないし」
「あ、ああ。そうだな。すぐに向かう」
隊長の乗ったボートが先に行き、僕たちもまたボートを動かして地下水路から出た。
シャルロットが心配だな。カルラがついているから大丈夫だと思うけど。
――――
子爵親子はここまで、馬車ではなく自ら馬に乗ることで来たらしい。随伴の兵士たちは徒歩だ。
その馬はゾーラが転倒させて使えなくしてしまった。だから帰りは彼らも歩く羽目になった。
エイリスが挑発に乗って幽霊屋敷に襲いかかったのが原因だから、そこに同情はできない。馬はかわいそうだが。
とにかく、カルラとシャルロットは子爵家の雇った兵士に囲まれた状態で、屋敷まで歩かされることとなった。
エイリス子爵はこの状況に不満げだ。エイナートの方もそれは同じのようだけど、彼は時折シャルロットの方を見てニヤニヤしているから、比較的機嫌は良さそうだ。
幼い婚約者をついに屋敷に招き入れることに成功した、その事実が嬉しくて仕方ないのだろう。このまますぐにでも既成事実を作り、結婚を正式に行い、永遠に屋敷から出さないなんてことも考えられる。
エイリスもエイナートも、そんな顔をしていた。
そしてシャルロットの方は不安げだった。手に持っている何かをぎゅっと握っていた。
見れば、母の故郷のお守りだった。
「シャルロット、様。それは」
「ティナさんから頂いたんです。魔除けのお守りだと。こちらに邪悪な視線を向けてくる相手を、睨み返してくれるそうです」
「ティナ、から?」
「はい。幽霊屋敷に幽霊がいないことがわかった今は、必要ないと。だから、より必要としているわたしに譲ってくれたんです。エイナートがわたしに向ける視線が怖いのですが、それを見返してくれると」
「そうでしたか。ティナさんらしい、ですね。わたしも、同じもの、持っています」
腰につけた目のお守りを見せる。
「はい! お母上の国の文化なんですよね。ふふっ。カルラとお揃い……」
魔除けのお守りに、本当にエイナートたちの悪意から身を守る効果があるなどとは、カルラは思っていない。シャルロットも同じだろう。
それでも、シャルロットは幸せそうだった。カルラと同じものを持っているのが、そんなに嬉しいのか。
だとしたら。
「わたしは、幸せ者、です」
「え?」
「あなたに、仕えることが、できた。ただの冒険者が、尊敬できる主を、見つけた。幸せ、です」
「わたしも、カルラに守ってもらえて幸せです」
ああ。なんて愛おしいのだろう。この少女を守らなければならない。なんとしてでも。
邪悪な子爵親子には渡さない。絶対に。




