2-28.お揃い
色とりどりの魚や、その他海の生き物を見ていきながら、ティナとシャルロットが話している。
「エビっていろんな種類があるんですねー。この大きいエビは……高いですね」
「はい。加熱するなら、こういうのがいいかと」
「魚もたくさん。……違いがわかりません」
「実はわたしも、魚の見た目だけでは判断がつきません。パンに挟む時は、お刺身は駄目なんですよね?」
「はい。生物は腐りやすいそうですから。加熱して保存できる物が良いかと」
「なるほど。それなら焼くか、フライにして揚げるのがいいと思います。白身魚のフライは定番のおかずですよ。あとは貝類も焼けば美味しいものが多いです」
「なるほど……これはなんですか? なんというか、棘が生えていて……敵の接近を防ぐために地面に撒く、罠ですか?」
「いいえ。これはウニです。高級食材ですよ」
「この棘を食べるんですか!?」
「いえ。中に黄色い身が入っていて、それを食べます」
「なるほど……こっちの、黒くてウネウネしているものは?」
「ナマコです。食べられると聞いています」
「こ、これを食べるんですか!? 信じられない……うわ! ヨナ様あれみてください! 水の中を、なんかウネウネした生き物が泳いでます! 足がたくさんある! ひえぇ……」
「あれがタコです。ティナさんも先日頂いたはずですよ」
「あんな気持ち悪い生き物だったんですか!? いや、でもよく見たら愛嬌があって、可愛いような? うーん、海の生き物、興味深いです……」
水槽の中のタコとにらめっこするティナ。僕にとっても、市場に並ぶ生き物は全部初めて目にするもので。
それがなんなのか教えるシャルロットの顔に、だんだん笑顔が戻っていった。
市場から出て、海辺を歩く。海を眺めるために置かれたらしいベンチを見つけて、三人で座ることにした。
シャルロットを真ん中にして、僕とティナで挟む形。
「面白い食材、たくさん見れましたー。シャルロット様は本当にお詳しいですね!」
「そんな。わたしなんか全然です。漁師とかでもないですし」
「漁師でもないのに知っているから、すごいんですよ。ね、ヨナ様」
「うん。お金持ちなら、別に必要ない知識だからね。料理なんて、コックが作って出すのを待つだけ。高級食材がなんて名前なのかを知っていても、料理される前の姿なんて知らない貴族がほとんどだよ」
僕の家族もそういう人だった。庶民の暮らしに興味を持たない連中は、食べている物がどんな人の手でどんな過程を経てテーブルに乗るかも知らない。
知らなかったのは僕も同じだけどね。
「ありがとうございます、おふたりとも。……子爵家も、そんな人たちなんでしょうか」
「どうかな。港の人間だから、魚の姿くらいは知ってるかも。……けど、やっぱり知らないかもね」
エイリス・ポロソバル子爵がどんな人かは知らないけれど、少なくともエイナートが市場に行く姿は想像できない。
「わたしも同じ意見です。……貴族なんて、みんなそんなもの。政治と権力争いにしか興味がないと思っています。……わたしの家は平和です。家族はみんな優しい。それでも見えない所で、他の貴族たちと戦っているのだと思います」
公爵家は領地で一番偉い家。だから回りは格下ばかりで、争いになることは少ないと思う。けれど領主の座を欲しがる家は意外にいるのかも。
「わたしは家族に守られています。けれどお嫁に行けば、そうはいかない。今度は自分が家を守らないと。子爵家を、エイナートを……」
それがシャルロットは嫌なのだろう。
「重責を担うことになるのが怖いの?」
「はい。それが大きいです。それでも、わたしの立場を考えれば、誰に嫁ぐことになったとしても、将来的には同じように家を守る使命を負うことになるでしょう」
それが、貴族の家に生まれるというものだ。
けれど。
「好きだと思える人と出会えて、その人と家を守れるなら、納得もいくと思います。けれど……エイナートを、わたしは嫌っています」
「うん」
今の時点で倍以上の年齢差がある。というかシャルロットは小さすぎる。
「あの人は、本気でわたしのことが好きなようです。そんな目を向けてきます」
「女の趣味は普通みたいだけどね。特別、小さい女の子が好きってわけじゃなさそう」
奴のハーレムにいた女を見るに、同年代や少し年下程度のを普通に好いているようだった。
「女の子なら、なんだっていいのかもしれませんね」
「はい。そうなんだと思います……」
「それでも、ちょっと好きな範囲広すぎですけどね」
僕よりもティナの方が、シャルロットに共感してくれている。
「その通りだと思います。そして、あの人がわたしのことを見る目が怖くて」
「そうですね。男性の視線って、時々すごく怖いですよね」
「わかりますか?」
「はい。そうだシャルロット様。これ、差し上げます」
ティナはポケットに手を入れた。取り出したのは、幽霊屋敷に行く前に買った魔除けのアクセサリー。
「カルラさんのお母さんの故郷の文化らしいんです。魔除けで、こちらを襲おうとする魔物を睨み返して追い払うと。エイナートもこれで追い払ってください!」
エイナートは幽霊とか魔物扱いか。わかるけど。
「カルラの。確かに腰につけていたような。……でもいいんですか?」
「はい! あの空き家に幽霊が出ると聞いて怖くて買ったんですけど、結局いませんでしたから。ゴブリンだったと説明できるなら、何も怖くありません。もう、わたしには不要です。シャルロット様が持っていてください」
「わかりました。ふふっ。カルラとお揃い」
受け取った目は、陽の光を受けてキラキラ光っていた。シャルロットの目も同じく輝いてる。
「カルラさんのこと、お好きなんですね」
「わたしを守ってくれたので。エイナートたちは守る気など皆無でした。カルラだけが、わたしのために本気で戦ってくれた」
強い戦士への尊敬の念が感じられた。
その後はどこへ行こうかと話しながら、なんとなく港の辺りを歩いていると、ふと通行人の話し声が聞こえた。
大通りで騒ぎが起きているらしいぞ。幽霊屋敷の前らしい。
ゾーラたちに何かあったのか。シャルロットが表情を変えた。
「行かないと!」
「待ってシャルロット。何かあった時のために、僕たちは外に出てるんだ」
「けど、皆さんはわたしのために頑張っているんです。お願いします。様子を見るだけでも、許してもらえませんか?」
「……わかった」
僕だって気になっている。見るだけならいいだろうか。




