2-27港町散歩
今日はいい天気でお出かけ日和。街も活気で溢れていて、通りを行き交う人々は多く、店先で店主と客が交わす会話も騒々しい。
明るくて良い街だ。聞こえてくる波の音も、磯の香りも、海風も、慣れれば心地よい。遠くに見える砂浜には、いくつかの足跡が残されていた。あの上を歩くのは気持ちよさそうだ。
少し歩いただけで、楽しそうなことがいくつも見つかった。
けど、なんとなく気分は晴れなかった。
僕はまだいい。シャルロットはずっと俯いている。
「シャルロット……」
「ヨナ様。わたし、まだ子供なんだって実感しました。おじいさまがなぜ、わたしを行かせたかは、わかりません。しかしゾーラさんは、わたしが不要だと最初から考えていました」
「ゾーラは頭がいいからね。でもこれは、シャルロットを守るためなんだよ」
「わかっています。わかっているんです。あの人は、とても良い方です。子爵とエイナートは思っていたよりも暴走していて、事情が変わった」
大通りには人だかりができていた。普段は閉ざされている鉄格子が開いているのと、街の兵士が死体の乗ったボートを牽引していくのを見物していた。
エイリスという子爵の名がちらほらと出ていた。
早速騒動になっているな。
「危険な状況なのはわかっています。わたしはすぐにでも、安全な城に帰るべきです。わかっているんです。自分の無力さが」
自分が許せない。それは、こちらが何か言っても解決する問題じゃない。
だから僕はシャルロットに声をかけられなかった。
「よし! 買い食いしましょう!」
なのにティナは、今日も元気だった。
たぶん、シャルロットを励ます方法をそれしか知らないから。
それが有効だと知っているから。
「悩んでいる時は、とりあえずお腹いっぱいになるのが一番です! お腹が満たされていれば、元気にはなれますよ! それに、あそこでパン屋さんを開くとして、外国から来たお客さんに何を出せば売れるか、全然わからないんですよね! というわけで、ここの食文化を調べたいです! 買い食いとかたくさんして!」
「朝ごはん食べたばかりだよ?」
「いいじゃないですか。さあさあ。お店が並んでるのはどこでしょうねー」
港の方へと向かっていく。
朝早くから働いている海の男たちに食事を提供する店が立ち並ぶエリア。朝の混雑する時間帯は避けられたようで、いろんな店をゆっくり見ることができた。
「惣菜パンとして、挟んで美味しいものを探したいんですよね。あとは、異国風のパンとかも真似できるなら売りたいです。あ、肉の串焼き」
「そんなの、王都でも普通に売ってるよ?」
「けどあれ、嗅いだことない香りがしますよ」
「本当だ」
なんというか鼻にツンとくる、けれど不愉快ではない匂い。
「外国産のスパイスを使ってるんでしょうね。すいませーん。くださいな!」
ティナは串焼き屋さんに明るく声をかけた。
その様子を、僕とシャルロットは少し下がって見ている。シャルロットには、あの明るさが眩しすぎるらしい。
「あ、あの。ヨナ様」
「ティナはこんな時にも元気だよね」
「はい……」
「こっちも笑顔になれる」
「そう……ですね。強い方です」
「うん。僕もティナのおかげで救われている」
「ふたりともー。何話してるんですか? はい、シャルロット様。一口食べてください」
ティナが、木製の串に刺さった肉を差し出す。最初の一口はティナが自分で食べたらしい。
公爵家の令嬢であるシャルロットは、路上で食事なんてはしたないと思ってるのかな。少し周りを見回してから、肉を齧った。
「は、はい! あむっ。美味しい……」
「ですよね! 食べたことない味ですけど、いけます。何のスパイス使ってるんでしょうか。お店で買えますかね。これに合うパンを作って挟めば、売れると思うんですよね」
「串焼きとして売ってるのに、パンに挟んで売れるの?」
「惣菜パンは、容器ごと食べられるのが最大の利点です。これだって、食べた後の串が邪魔じゃないですか」
「なるほど」
「お、あれはなんでしょう? 麺を焼いているんですね! 具に入っているのは……エビ? 公爵のお城での晩餐会で食べた奴ですね。加熱するとこんなに鮮やかな色になるんですか」
別の屋台を興味深そうに覗くティナは、流れのままに鉄板の上の麺類を買ってしまった。
「ソースや塩で濃いめに味付けして加熱した麺をパンで挟む、いわゆる焼き麺パンはうちの店でも売れ筋ですよ。具材は肉と野菜ですね。けどこの街だったら、海鮮系の具材が手に入るんですね」
「この、エビとか?」
「はい。こういう鮮やかな色合いのエビは見た目もかわいいですし、売れますよ。あとはイカとか、貝類かなー。市場にも行きましょう! 海の食材にどんなのがあるか、確かめたいです! シャルロット様!」
「え、あ。はい!」
「海の食材について、わたしより詳しいですよね!? 教えてください!」
「わ、わかりました! 拙い知識で良ければお伝えします!」
その後、僕らは市場へ行った。
貿易港ではあるけれど、近くの漁港から海産物が多く届けられていて、この都市の食を賄っていた。




