2-26.合流
こんなことなら、さっさと家で雇っている兵士を向かわせれば良かった。息子と仲間たちなら、事情が外に漏れるとまずい秘密の仕事もこなせると考えたのに、こうも使えない男だったとは。
これで事態は大事になった。
それからエイナートだ。頬の傷は残るだろう。そうでなくても、こんな愚鈍な男を跡継ぎにはしたくない。
自分が元気なうちに、この男に子供を作らせよう。そしてエイナートに家督を譲ってから、短期間でその子供に譲らせる。
孫には、ちゃんとまともに育つような教育をしなければな。エイナートやその妻に任せる気はなかった。孫は自分のものだ。それが家のためなのだから。
では、エイナートの結婚を急がせなければ。あのシャルロットという公爵の孫は、まだ小さいか。いや、十二にもなれば、子供を孕ませるのは可能だ。産む時にはもう少し体も丈夫になっているだろうし、こういうのは若い方がいいに決まっているからな。
もし出産に耐えられずに死んだとしても、次の嫁を探せばいいだけ。弱い妻を娶らせた公爵家が悪いと言い張れば、誰も非難はするまい。
さっそく、シャルロットとの婚姻を急がねば。そのためには、この街に来ている公爵家の食客と接触しなければな。
それに、エイナートのやらかしの後始末もしなければ。地下水路の開放と死体の件で、街の兵士が訪れてくるだろうからな。言い訳を考えておかないと。
――――
幽霊屋敷で短い眠りについた僕たちを起こしたのは、外の喧騒だった。それからドアを叩く音。
「ヨナくん。来てあげたわよー」
ゾーラとキアか。待ちかねていた。このふたりがいれば、できることは多い。
「むぅー。ゾーラさん、騒がしいです……」
「もっと寝てたいわ……」
「お姉ちゃん起きて! みんな来てる!」
「巨乳が来てもあんまり嬉しくない……」
ティナたちも、眠い目を擦りながら起き出した。一番元気そうなのは、留守番をしながら寝てたティアだな。朝食を用意すると言っている。
僕は扉を開けてゾーラたちを出迎えた。
「会えて良かったわ。大変なことになってるらしいけど。というか、水路で死体が見つかったって外が騒ぎになってるけど」
「うん。説明する」
「ヨナ! これが海か!? すげえな! なあシャルロット、この海ってどれくらい広いんだ!?」
「広さはわたしにもわかりません。ですが、陸地よりも大きいのではと言われています」
「……え?」
なんで当たり前のようにシャルロットがいるんだろう。
「そこ含めて、全部説明するわ。ヨナくんも、手紙を送ってからこっちであったこと、教えてちょうだい」
というわけで、朝食をとりながら情報交換。
公爵も変なことをするものだ。幼いシャルロットに公爵家代表を任せるって? 無理だよ。
「子爵って奴に会わせなきゃいいんだろ? 簡単なことじゃねえか」
「簡単じゃないよ。向こうから接触してくるだろうから」
子爵家は行動力はあるから。昨日だって、夜のうちに何かしようとしてたし。
公爵家が問題に絡んでいると向こうが把握してる以上は、何か仕掛けてくる可能性は高い。カルラに対してなんだろうけれど、そこにシャルロットがいると知ったら大喜びするだろうな。
「確かにね。特に、子爵家はやらかしちゃったみたいだし」
表の様子を見ながら、ゾーラはため息をついた。
まあ、やらかしだよね。目的は不明だけど、エイナートは失敗した。子爵家の責任問題に発展する。
子爵がおとなしく罪を認めて、問題解決に協力してくれるとは思えない。何かしてくる。
「だから反対だったのよ、あたしは。何が起きるかわからない中で、幼いシャルロットを行かせるべきじゃないって」
「公爵も、子爵がそんな行動するとは読めなかったんだなー」
「キア。あんたが賛成したのよ?」
「そうだなー」
キアは気楽そうだなあ。
当のシャルロットはといえば。
「ヨナ様。わたし、お邪魔でしたか?」
僕に不安げな顔を見せていた。
「邪魔じゃないよ。来てくれて良かったと思う」
「こら。安易にそういうこと言わない。来て良かったとは限らないから」
「でも」
じゃあ、シャルロットになんて声を掛ければいいんだ。
「とりあえず、シャルロットあなたは身を隠しなさい」
「えっ。でもどこに。この家の奥、とかでしょうか」
「子爵がこの家に踏み込んで探し出せば見つかるわね。だから、街の中のどこかにしなさい」
「えっと……? つまり?」
「ヨナ。ゾーラはこう言ってるんだ。シャルロットとデートしろって」
「えっ」
「なっ!?」
キアの謎の解釈に、シャルロットも僕もろくに返事ができなかった。
一方でゾーラはため息をついて。
「そんなお気楽なものではないけどね。でも、街の喧騒の中に隠れて、子爵の企みをやり過ごしてほしいし、シャルロットひとりで行かせるわけにもいかない。だから誰か同行しなさい。ヨナくんなら適任」
「でも。僕だってみんなから離れるわけには」
「今度は子爵自ら動いて、こっちに乗り込んでくるかもしれない。そして子爵はそれなりに偉い人なんでしょ? 王族の顔を把握しているかも」
「……」
だから、僕も遠ざける必要があるのか。
「ここから事態がどう動くか、あたしにもわからない。だから、子供たちには安全圏にいてほしいのよ」
「……わかった」
「本当は、あたしもヨナくんとデートしたいんだけど」
「気持ち悪ぃ」
最後の一言はともかく、ゾーラは頭が切れる。きっと正しいのだろう。
「シャルロット、行こうか」
「はい、ヨナ様」
当のシャルロットは、問題の対処から外されたのが不満そうだった。あるいは、己の力不足に不甲斐なさを感じているのか。
同情はする。けど、ここはゾーラの言うとおりにすべきだ。
「ヨナ様。わたしもご一緒します。わたし、近衛兵なので! ヨナ様から離れてはいけないので!」
ティナが、随分と前のめりになりながら言った。
内容は正しいんだけど。
「お姉ちゃん、なんでそんなに必死なの?」
「ヨナ様とわたしが一緒に行動するのは当然のことなので! 近衛兵なので!」
「もしかしてお姉ちゃん、ヨナ様のことがす――」
「さあヨナ様シャルロット様! 行きましょう行きましょう! どこ行きますか!? この街のこと全然知らないので! おふたりの意見を聞きたいです!」
「僕もこの街知らないんだけど」
「わたしも、家族に連れられて数度しか来ていません」
「じゃあのんびり歩きましょう! ゆっくり歩いて、何か面白そうなもの探しましょう! さあさあ行きますよ! ティア、いい子にしていてくださいね!」
ティナは僕とシャルロットの手を引いて、幽霊屋敷の裏口から出ていってしまった。




